第21話 綻び【side:バムケス】
俺はバムケス・フリーダ。
フッテンダム騎士国の国王でもあり、大将軍でもある。
我が国は騎士の王国として栄え、大陸一の軍事力を誇る。
だが、近年は食糧難に悩まされていた。
「【無限キノコ】のほうはどうなっている?」
俺は農業担当大臣に現状を訊ねる。
食糧危機回避のために、わが国では現在、【無限キノコ】の栽培を開始している。
というのも、
議会の決定は絶対遵守。
俺は
「順調に育っていますよ。ただ、問題はこれが増えすぎてしまわないか……ですね」
「大丈夫だ。増えすぎないように、大陸一の
「上手くいくといいですが……」
「安心しろ。サイラの計算に狂いはない」
この作戦の提案者のサイラ・コノンドーは、いけ好かないが優秀な男だ。
ヤツの頭脳がイエスというのなら、不可能はないはずだ。
◇
「マウンテングリズリーの調子はどうだ?」
後日、俺は飼育担当官に話を聞きに行った。
「ええ、彼らはいつもお腹を空かしています。今日も【無限キノコ】を60箱ほど空にしたところですよ……」
「おお、そうか。どうやら我々の《【無限キノコ】の永久機関作戦》は上手くいっているようだな」
「ただ、少しでもバランスが狂うと……どうなるかわかりません」
「そこはお前の仕事じゃないか。しっかりやってくれよ?」
「はい」
これで我が国は当分の間、安泰だ。
やはりあのエルフのクソババアを追い出した甲斐があったな。
あの老害がいたのでは、このような大胆な法案など可決しえなかった。
クロードのヤツには感謝しかない。
◇
それは、突然のことだった――。
あれほど上手くいっていたかのように思えた作戦に、綻びが出始めたのだ。
「大変です! バムケスさま!」
「何事だ!?」
この男はたしか……マウンテングリズリーの飼育担当官だったはず。
まるでこの世の終わりみたいな顔をしている。
「それが……非常に言いにくいのですが……」
「なんだ! さっさと言え!」
「う……」
「早く言え! ぶち殺すぞ!」
いったい何なんだ……。
そんなに言いにくいことなのか?
俺は短気なんだ。
勘弁してくれ。
「そ、それが……マウンテングリズリーが脱走しました……! す、すみません!」
「はぁ!?」
っち……面倒なことになったな。
だが、そのくらいのことで騒ぎすぎな気もするな。
マウンテングリズリーくらい、うちの国の軍事力からすれば、大した相手ではない。
軍を派遣すれば、すぐに制圧し、捕縛できるであろう。
「そんなに大騒ぎすることでもないだろう……すぐに待機班を派遣したんだろうな?」
待機班とは、なにかあったときのために、臨時でいつでも動ける部隊のことだ。
こういった緊急の事態に、彼らのようなスペシャリストが役に立つ。
「それが……待機班は全滅しました……」
「はぁ!? なんだと!?」
待機班といえど、戦闘力ではそこらへんの部隊に劣らないはずだ。
マウンテングリズリー1頭にそこまで苦戦するとは思えない。
「うちの部隊は熊1頭仕留められないのか!?」
「バムケスさま……それが、逃げたのは1頭ではありません。飼育していた10頭すべてです」
「なんだってぇ!?」
だとすると……いや、待てよ……。
10頭だとしても、全滅などおかしい、
待機班が持ちこたえて、援軍を呼ぶくらいの時間はあったはずだ。
「どういうことだ! 熊はどうなってる!」
「そ、それがぁ……く、くまがぁ!」
「熊がなんだ! 早く言え!」
「あわわわわわわわ……バムケスさま……う、うしろぉ!」
「は?」
ふと、俺は自分の手前に大きな影が差していることに気づく。
そしてそれは大きな熊の形をしていた。
後ろを振り向くと――。
「な……なんだこれぇえええええええええええええええええ!!!!」
――そこには本来あり得ないほど巨大化したマウンテングリズリーがいた。
「に、逃げるぞ……!」
「ですが……設備などが……」
「馬鹿野郎、このままじゃ殺されてしまう!」
今は国の設備など気にしている場合ではない。
俺が殺されれば、そんなもの意味なんかなくなる。
「まさかマウンテングリズリーがここまで巨大化するなんて……」
俺たちは逃げながら、対策を練る。
たしかにこの大きさのマウンテングリズリーが……しかも10頭いるとなれば、いくら優秀なうちの軍隊でも敵わないだろう。
「すみません、しっかり見ていたつもりなのですが……。餌の無限キノコが増えすぎていたようで……。すこしバランスが崩れたとたんに……」
「いい訳はいい。それよりも、この状況をどうにかする方法を考えろ」
俺は軍の本拠地まで走った。
なんとか作戦を立てて、マウンテングリズリーを押さえなければ。
国が崩壊し、民の飢えどころの話ではなくなる。
「よし、ではここと、ここに軍隊を配備して、抑え込もう」
「はい、了解しました!」
街に入って暴れられる前に、仕留めたい。
俺は一帯に、軍隊を並べるよう指示する。
「よし、作戦開始だ!」
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