第21話 綻び【side:バムケス】


 俺はバムケス・フリーダ。

 フッテンダム騎士国の国王でもあり、大将軍でもある。

 我が国は騎士の王国として栄え、大陸一の軍事力を誇る。

 だが、近年は食糧難に悩まされていた。


「【無限キノコ】のほうはどうなっている?」


 俺は農業担当大臣に現状を訊ねる。

 食糧危機回避のために、わが国では現在、【無限キノコ】の栽培を開始している。

 というのも、議会カトリエームで決まったからだ。

 議会の決定は絶対遵守。

 俺は組織ニューオーダーズの支援のもと、【無限キノコ】農場を新設した。


「順調に育っていますよ。ただ、問題はこれが増えすぎてしまわないか……ですね」


「大丈夫だ。増えすぎないように、大陸一の健啖けんたん家――マウンテングリズリーに食わせることになっているからな。そのへんの計算もばっちりだ」


「上手くいくといいですが……」


「安心しろ。サイラの計算に狂いはない」


 この作戦の提案者のサイラ・コノンドーは、いけ好かないが優秀な男だ。

 ヤツの頭脳がイエスというのなら、不可能はないはずだ。





「マウンテングリズリーの調子はどうだ?」


 後日、俺は飼育担当官に話を聞きに行った。


「ええ、彼らはいつもお腹を空かしています。今日も【無限キノコ】を60箱ほど空にしたところですよ……」


「おお、そうか。どうやら我々の《【無限キノコ】の永久機関作戦》は上手くいっているようだな」


「ただ、少しでもバランスが狂うと……どうなるかわかりません」


「そこはお前の仕事じゃないか。しっかりやってくれよ?」


「はい」


 これで我が国は当分の間、安泰だ。

 やはりあのエルフのクソババアを追い出した甲斐があったな。

 あの老害がいたのでは、このような大胆な法案など可決しえなかった。

 クロードのヤツには感謝しかない。





 それは、突然のことだった――。

 あれほど上手くいっていたかのように思えた作戦に、綻びが出始めたのだ。


「大変です! バムケスさま!」


「何事だ!?」


 この男はたしか……マウンテングリズリーの飼育担当官だったはず。

 まるでこの世の終わりみたいな顔をしている。


「それが……非常に言いにくいのですが……」


「なんだ! さっさと言え!」


「う……」


「早く言え! ぶち殺すぞ!」


 いったい何なんだ……。

 そんなに言いにくいことなのか?

 俺は短気なんだ。

 勘弁してくれ。


「そ、それが……マウンテングリズリーが脱走しました……! す、すみません!」


「はぁ!?」


 っち……面倒なことになったな。

 だが、そのくらいのことで騒ぎすぎな気もするな。

 マウンテングリズリーくらい、うちの国の軍事力からすれば、大した相手ではない。

 軍を派遣すれば、すぐに制圧し、捕縛できるであろう。


「そんなに大騒ぎすることでもないだろう……すぐに待機班を派遣したんだろうな?」


 待機班とは、なにかあったときのために、臨時でいつでも動ける部隊のことだ。

 こういった緊急の事態に、彼らのようなスペシャリストが役に立つ。


「それが……待機班は全滅しました……」


「はぁ!? なんだと!?」


 待機班といえど、戦闘力ではそこらへんの部隊に劣らないはずだ。

 マウンテングリズリー1頭にそこまで苦戦するとは思えない。


「うちの部隊は熊1頭仕留められないのか!?」


「バムケスさま……それが、逃げたのは1頭ではありません。飼育していた10頭すべてです」


「なんだってぇ!?」


 だとすると……いや、待てよ……。

 10頭だとしても、全滅などおかしい、

 待機班が持ちこたえて、援軍を呼ぶくらいの時間はあったはずだ。


「どういうことだ! 熊はどうなってる!」


「そ、それがぁ……く、くまがぁ!」


「熊がなんだ! 早く言え!」


「あわわわわわわわ……バムケスさま……う、うしろぉ!」


「は?」


 ふと、俺は自分の手前に大きな影が差していることに気づく。

 そしてそれは大きな熊の形をしていた。


 後ろを振り向くと――。



「な……なんだこれぇえええええええええええええええええ!!!!」



 ――そこには本来あり得ないほど巨大化したマウンテングリズリーがいた。


「に、逃げるぞ……!」


「ですが……設備などが……」


「馬鹿野郎、このままじゃ殺されてしまう!」


 今は国の設備など気にしている場合ではない。

 俺が殺されれば、そんなもの意味なんかなくなる。


「まさかマウンテングリズリーがここまで巨大化するなんて……」


 俺たちは逃げながら、対策を練る。

 たしかにこの大きさのマウンテングリズリーが……しかも10頭いるとなれば、いくら優秀なうちの軍隊でも敵わないだろう。


「すみません、しっかり見ていたつもりなのですが……。餌の無限キノコが増えすぎていたようで……。すこしバランスが崩れたとたんに……」


「いい訳はいい。それよりも、この状況をどうにかする方法を考えろ」


 俺は軍の本拠地まで走った。

 なんとか作戦を立てて、マウンテングリズリーを押さえなければ。

 国が崩壊し、民の飢えどころの話ではなくなる。


「よし、ではここと、ここに軍隊を配備して、抑え込もう」


「はい、了解しました!」


 街に入って暴れられる前に、仕留めたい。

 俺は一帯に、軍隊を並べるよう指示する。


「よし、作戦開始だ!」

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