第17話 クラフト祭りだぜ


「列車――というものをご存じで?」


「列車……ですか……知りませんね」


 まあ、リシアンさんが知らないのも無理はありません。

 列車とは、この時代においては既に失われた技術ですからね。

 500年生きる私だからこそ、知っているのです。

 私は、列車の概要をかいつまんで説明しました。


「そんなことが可能なのですか……! でも、それはまるで、遠い未来の技術のようですね……。いったいどうやってそんなことが……」


「あはは……まあ、そこは私の魔法でなんとでもなります」


 実際は未来の技術どころか、過去の技術なんですけどねぇ。

 まあ、それは置いといて……。

 とりあえずは線路をひいていく必要がありますね。

 これは魔法ではどうしようもないので、人力になりますが……。


「ルキアール王国のみなさんの手もお借りすることになりますが、よろしいですか?」


「ええもちろん、みなも喜んで手を貸すでしょう」


「では――作成台クラフトテーブル・設置!」


 私の魔法で、いつものように操作コンソール境界面インターフェースを開き、作成台クラフトテーブルを設置します。


「シルヴィアさん、これは……?」


「これは素材とレシピを入れると、それに応じたアイテムを吐きだすという機械です。これさえあれば、私が居なくても線路を作ったり、トロッコを作ったりができますよ!」


「おお! それはすごい!」


 私にもエルムンドキアという守るべき国があります。

 いつもルキアール王国に居座れるわけではありませんからね。

 こうして自立を促すのも大事なことです。

 ですが、作成台クラフトテーブルが風化や劣化、破壊されないかが心配です。


耐性加工プロテクション!」


 私は作成台クラフトテーブル耐性加工プロテクションの魔法で補強します。

 これで、ちょっとやそっとじゃ壊れません。

 数百、いや……数千年は持つでしょう。


「では次は、線路を作っていかなければですね……」


「線路ですか……でも、まだうちには大した資源が……」


「まずは資源確保からですねぇ。木と鉄が大量に必要になります」


「え!? そんな! 無理ですよ!」


「大丈夫です、リシアンさん。私に考えがあります」


 まずは【無限キノコ】を適当な空き地にばらまきます。

 もちろん、増えすぎないように私の魔法で個数制限をしてあります。

 いわゆる品種改良品というやつですね。

 これも操作コンソール境界面インターフェースにあるパラメータをいじることで、簡単に変更可能です。


「すごいです。でも、こんなところで【無限キノコ】なんて育つのですか?」


「それも大丈夫です」


 確かに、ルキアール王国の大地は、瘴気を祓ったとはいえまだまだ荒地です。

 こんなところに、通常ならキノコは育たないでしょう。


成長促進グロウス!」


「おお! すこし増えましたね!」


「ええ。通常の大地で成長促進グロウスをかけた場合と比べると、微々たる成長ですが……これを何回もやればそれなりに収穫できるはずです」


 まあ、成長促進グロウスをかけた分、味は落ちるんですけどね……。

 ですがこの際やむを得ません。

 それに、調理方法を考えればそれなりに食べられる味にはなるでしょう。


「シルヴィアさん、そんなに連続で魔法を使っても大丈夫なものなんですか?」


「ええ、私の魔力は実質無限みたいなところがありますからねえ……」


 まあ厳密に言うと有限ではありますが。

 そのためには地球5、6個破壊するほどの攻撃魔法を使わないといけないでしょうね……。


「えーっと、次はこの大量に収穫した【無限キノコ】を……素材マテリアル変換機コンバーター・設置!」


「シルヴィアさん、何度もすみません。これは一体……?」


「これは、素材を別の素材に変換するための機械です。たとえば、このキノコを木材に変換したりですね」


「えぇ!? そんなことが……!?」


「ええ、できちゃうんです。そう、この素材マテリアル変換機コンバーターならね!」


 ……って、私は誰に何を販促しているのでしょうか……。

 それよりもさっさと変換を開始してしまいましょう。

 これだけ大量に処理するとなると、それなりに時間がかかります。


「そうです! 何台か設置して、並列で処理させましょう」


 もちろん耐性加工プロテクションをかけることも忘れません。


 しばらく時間が経ち――。


「できました。木材500スタックです。これで森へ続くための線路が作れます。余った分は適当に使っちゃってください」


「はぇ……すっごいですね……。でも、こんな大量の木材を状態を保って補完しておけるような設備、このルキアール王国にはありませんよ」


「大丈夫ですよリシアンさん。安心してください! 考えてありますよ!」


 私は先ほど置いた設備たちの横に、さらなる設置物を召喚します。


収納庫アイテムボックス!!」


「おお!」


「これは収納庫アイテムボックスと言って、ほぼ無限にアイテムを入れられる優れものです。側面に操作コンソール境界面インターフェースが付いていますので、そこから取り出したいアイテムを選んだりして使います」


 私は操作コンソール境界面インターフェースをタップしながら、リシアンさんに操作方法を説明します。


「うーん、難しいですねぇ」


「大丈夫です、すぐに慣れますよ」


 余った【無限キノコ】と、木材をすべて収納庫アイテムボックスに入れ終えるころには、リシアンさんもすっかり使い方を覚えてくれました。

 これで安心ですね。

 【無限キノコ】さえあれば、とりあえず最初の作物ができるまではしのげるでしょう。


「ですが問題は……鉄ですねぇ……。そんなもの、ここらへんではまず手に入りませんから」


「まあそれは明日考えることにしましょう。今日はもうへとへとです」


「そうですね、お疲れ様ですシルヴィアさん」


「いえいえ、リシアンさんこそ」


 私たちは一度お城に戻り、夕食を食べることにしました。


「この国では、主にどんな食材を使用するんですか?」


 私は好奇心の赴くままに質問します。


「農作物は育ちませんからね、獣の肉などを獲って食べますよ」


「へぇここらにも獣が……」


「荒野の獣は狂暴ですからね。みな、それなりに腕がたつものばかりです」


 その説明のとおり、夕飯にはお肉料理がずらぁっと並びました。

 これはけっこうしんどそうです。


「私、キノコ料理を用意したのですけど、いっしょにテーブルに並べさせてもらってもいいですか?」


「え!? シルヴィアさんが料理を!?」


 お城の兵士たちが驚きます。

 この国ではお城に勤める全員が、ともに食卓を囲むそうなのです。

 それこそ、王も身分も関係なく。


「そうだぜ、シルヴィアさんの料理はぜっぴんだからな」


「そうですそうです! みなさんにもぜひ食べてもらいたいですぅ」

 

 親衛隊であるへギムとマーリャが自慢げに話します。

 彼らは一度、私の家で御馳走を振る舞いましたからね。


「では、いただきます!」


 みなで異口同音に唱え、それから食事を口に運びます。


「おお! すごくおいしい!」


「こんなもの、この国では食べられない!」


 お城の兵士さんたちには好評のようです。

 よかったです。

 文化の違いから、受け入れられないなんてことがあったらどうしようかと……。

 明日、街の人たちにも食べてもらいましょう。


 どうやらこの国の人たちとも、上手くやっていけそうです。

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