第10話 原初のエルフ


 世界樹の精霊ユシルと共に、私たちが暮らすツリーハウスを造りました。

 ここから見える景色は、最高です。

 世界樹のまわり数メートルが見渡せます。

 先日、私がリシアンさんたちのために建てた小屋、屋敷、そして畑などが確認できますね。


「しかし、国というからには、これでは少しさみしいですねぇ……。国民も私たち二人だけですし。500年前はエルフたちが大勢いたんですけどね」


「ママ……寂しそう……」


 ベランダから下をのぞいて、ため息をもらす私を見て、ユシルが心配そうな顔を向けてきます。

 不安にさせてしまったでしょうか……。


「大丈夫ですよ。私にはユシルがいるから、平気です!」


 私は小さいユシルを抱きかかえようとするのですが――。

 ユシルはそれをすり抜け、とんでもないことを言いだしました。

 

「待っててください。ママのために、エルフを復活させます!」


「えぇ!? ど、どういうことですか!?」


「ママはエルフがどうやって発生したか知っていますか?」


 ツリーハウスから、下へ続く階段を下りながら、ユシルは後ろを追う私に話しかけます。


「エルフの起源……ですか……いえ、まったく……」


「エルフは最初、2人のエルフから始まりました。原初のエルフです。彼らは世界樹から発生したとされています」


 ああ……たしかにそんなことを聞いたことがあったような……?

 エルフ神話でしたっけ……。

 ですがそれがどういう……あっ!

 まさかこの子、とんでもないことを考えているのでは……?


「あのー、まさかとは思いますがユシル……エルフ神話の時代から、やり直す、などと考えているのでは?」


「さっすがママです! あたりですよ!」


「えぇ……」


 子供っぽくなったり、大人みたいな話し方をしたりと、変わった子ですね……。

 敬語口調は、私のものを真似てなのでしょうか?

 とにかく、ユシルについて行ってみましょう。


「さぁ、原初のエルフを創り出しましょう!」


 世界樹の根元に着いたユシルは、そんなことを言いました。

 軽々しく言っていますが、それは神話の再現では?

 そんなことが、できるのでしょうか……。

 いくら世界樹の精霊と言っても、まだまだ子供です。


「で、でも……どうやって……!?」


「たしかに私はまだ子供の世界樹です。でも、ママの膨大な魔力を使えば、出来ないことはありません!」


「は、はぁ……?」


「ほら、ここに手を置いて……」


 ユシルに言われるがまま、私は彼女の小さな手に、手を重ねます。

 そしてそれを、世界樹の根元へと――。


 ――パアアアアアア!


「まぶしいっ……!」


 世界樹の幹に触れるやいなや、まばゆい光が現れます。

 ユシルが現れたときと同じような光景です。

 そしてその光は、今度はふたつに分かれて具現化します。


「こ、これが……原初のエルフ誕生の光景……なんですね……」


「そうですよ。私とママの力で、エルフ族を復活させたんです!」


 二つの光の塊は、やがて人型へと変わっていき、立派なエルフの男女へと変貌しました。

 一人は背の高いさわやかな青年、もう一人は細身の活発な女の子。

 二人ともエルフにしては珍しい茶髪です。


「「あなたが……私たちを創った神様ですか……?」」


 二人は、私とユシルを見つけるとすぐに、そう言って近づいてきました。

 神様だなんて……まあ、彼らにしてみれば間違いない表現なのでしょうけれど……。


「はい、そうですよ! こちらが、エルフ神さまのエルキアさまです!」


 私が答える前に、ユシルがそう私のことを説明してしまいます。

 なんか勝手にエルフ神なるものにされてしまいましたね……。

 その理屈で言うとユシルも同じく神さまなのでは?


「おお! あなたがエルキアさま! 私たちをお創りいただき、ありがとうございます!」


「えぇ……わ、私はなにも……というか、ユシル! どういうことですか!?」


 私はユシルに小声で耳打ちします。


「ダメですよ! ママ! もっと堂々としていないと! 彼らにとっては正真正銘、ママが神様なんですから!」


「えぇ!? ますますどういうこと……!?」


「いいですか……? エルフ族はもうすでに滅んでしまった種族です。なのでママの生体情報から、世界樹を通して創り出したのが、彼らというわけです。つまり、新世代型エルフですね。言ってしまえば【ネオエルフ】……まあ、名前はどうでもいいですが……。とにかく、ママは彼らの神様であり、始祖なんです!」


 うぅーん?

 ユシルの説明を聞いても、いまいちよくわかりません……。

 とにかく、彼らと私は別種ということなのでしょうか……?

 それで、彼らの始祖たる私が、彼らと同等に接するのはあまり良くないと?

 まあ神様が急に目の前に現れて、同じように振舞いだしたら困惑しますもんね……。


「あーえっと……とにかく、あなたたちは服を着てください……」


「……?」


 そう、彼ら原初のエルフ【ネオエルフ】は素っ裸なのです。

 産まれたばかりなので無理もありませんが……。

 ユシルが出てきたときにも、私が服を作ってあげました。

 家を建てるのも一瞬でできちゃう私ですからね!

 服を生成するくらい、なんてことないです。


「はい、これで大丈夫です……」


 私は適当に見繕った服を、彼らに着させる。


「おお、すごいです……! さすがはエルキア様。こんな文明の製品を一瞬で!」


 なんだか大げさな気もしますが……。

 まあ褒められて悪い気はしません。

 なにより、目の前にまた、私以外のエルフがいることに、感動を覚えます。


「では、お二人の名前を決めましょうか」


 ユシルのとき同様、名前を付けなくてはなりません。

 名前がなくてはいろいろと不便ですからね。

 それに、彼らは記念すべき【ネオエルフ】最初の2人です。

 それにふさわしい命名を考えなくては!


「「お願いします! エルキアさま!」」


 熟考の末、彼らの名前が決まりました――。


「では、よろしくお願いしますね、エルヴィン、エルシーラ!」


「「はい! エルキアさま!」」


 男性の方はエルヴィン。

 女性の方はエルシーラ、となりました。


 私とユシルは、世界樹てっぺんのツリーハウスで暮らすことになりましたが、彼らは地面の家で暮らすそうです。

 なんでも、神様と同じ高い場所には住めない……とかで。

 彼らは彼らで、勝手に暮らしていくそうです。


「本当に大丈夫ですか? また必要なものがあったら、いつでも言ってくださいね」


「はい、お恵みありがとうございます。この家だけでも、十分です!」


 彼らには新しく、好みの家を建ててあげました。

 どうやら二人で一緒に住むようです。

 二人で暮らすにはかなり余裕のある家ですが、まあ【ネオエルフ】最初の2人なのですから、そのくらいの特権があってもいいですよね。

 それから、生活に必要となりそうなものも一通り、揃えてあります。

 私の魔法は万能ですからねー。


「では、エルムンドキア最初の国民に乾杯!」


 私たちは、その日だけいっしょにツリーハウスで会食をしました。

 これを建国記念日とし、恒例行事としましょう。


「神様のお家にお呼ばれするなんて……光栄です!」


 どうやら彼ら【ネオエルフ】と深い関係になるのは難しそうです。

 すっかり崇められてしまってますからね……。

 まあそれならそれで、彼らの発展を陰ながら支えるまでです!

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