第9話 世界樹
リシアンさんたちが去って、森には私ひとりが残されます。
少し寂しい気もしますね……。
かつてのこの森は、活気に溢れていました。
私にも再び、彼らのような仲間が得られるでしょうか……。
「そうです! まずは世界樹を蘇らせましょう!」
エルムンドキアの象徴――世界樹。
切り倒されて以来500年、その効力を失っています。
エルムンドキアを再建させるなら、この木を復活させるべきです!
あの頃の私には、到底そんなことは不可能でしたが――。
「
すると世界樹の切り株は、すくすくと成長を始めました。
まだ以前の大きさには達しませんが、普通の大木くらいには大きくなりましたね。
世界樹の表面からは、キラキラとした生命力があふれ出ています。
そう、これこそが世界樹というものです!
ふと、私はそれに触れてみます――。
「わっ!」
すると世界樹を覆っていた生命力が塊となり、私の前に人型となって出現しました。
ちょうど人間の少女と同じくらいの大きさのそれは、私に話しかけてきます。
世界樹の精霊のようなものでしょうか……?
「ママー!!」
「ママ!?」
どうしましょう……私、まだ結婚もしていないのにママになってしまいました……。
まあこんなかわいい子にママと呼ばれて嬉しくないわけではありませんが。
「あ、あなたは……? 世界樹から出てきたように思いましたが……」
「私は世界樹の精霊です! ママのおかげで、永い眠りから目を覚ますことが出来ました! とっても感謝です!」
「はぁ、そうなんですか……。それはよかったですね」
普通の木にも妖精などが住んでいることは知っていましたが……これは……。
それに、以前の世界樹にはこんなことはありませんでした。
「あなたは一体どういう存在なのです? 私、ここの出身ですけど、あなたのことなんてこれっぽちも知りませんでしたよ……?」
それに、ママというのも気になります。
「それは、ママが
「はぁ、そういうことですか……」
つまり正真正銘、私がこの子を産んでしまったということですか……。
ママと呼ばれるのも納得ですね。
「ママ! 名前を付けてください!」
「へぇ!? な、名前……!? 名前……ですか……」
どうしましょうか……。
確かに、これからいっしょに暮らしていくとすれば、名前が必要ですね。
「ユシル……というのはどうでしょう?」
「ユシル……ユシル……! うれしい! ユシル、うれしい! ありがとう、ママ!」
どうやら気に入ってもらえたようですね。
この子はまさに世界樹の化身。
大切に育てていかなければ!
「となれば……今のままの家だと、少々手狭ですねぇ」
私ひとりでしたら、あの小屋のままでもよかったのですが……。
子供は広々とした家で、のびのびと育てるべきですからね!
ユシルと暮らすために、もっといい家が必要です。
「だったら、ユシルの上に造るの!」
「ユシルの上……?」
ユシルは言いながら、世界樹のてっぺんを指さします。
ああ……上って、そういうことですか。
ツリーハウスを造れと言ってるのですね。
「でも、重くありませんか? 世界樹の成長の邪魔にならなければいいですけど……」
「ユシル、頑張るよ! 世界樹はとっても丈夫だから、安心して!」
「そうですか? ならそうしましょうか……」
世界樹の上からなら、見晴らしがいいですからね。
国の管理もしやすいです。
そのうち、森全体をも見渡すことができるようにもなるでしょう。
そういえばいつの間にか、ユシルの言葉遣いが子供らしいものになっていますが……。
名前を付けた影響でしょうか……?
「では、行きますよ!
私とユシルの身体が宙に浮き、世界樹のてっぺんまでやってきました。
ここに私たちの新居を建てましょう。
「
私は
「うーん……どれも素敵なお家だけど……私はやっぱりこれかな……!」
「ですね! 私もこれがいいと思っていました」
私たちが選んだのは、世界樹を中心に360度に展開した見晴らしのいいツリーハウス。
これなら家族が増えても対応できそうです。
世界樹の成長と伴って、観測できる範囲の増える展望台にもなります。
「
「すごいママ! 一瞬でお家ができました!」
ふふふ……。
娘に褒められるのも悪くありませんね!
「では、さっそく中に入ってみましょう!」
「わぁ! ベッドがふかふか! キッチンもキレイ!」
よかった……!
ユシルも喜んでくれたみたいです。
これで安心して、ユシルを育てていけますね。
ユシルの成長は世界樹の成長とリンクしているみたいです。
つまり、ユシルを育てることがそのまま、エルムンドキアの再建に繋がるのです!
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