第3話 エルフの森
「ここに戻ってくるのも、何年振りでしょう……」
議会を追放された私がやってきたのは、かつての大国……私の生まれ故郷。
エルフの国――エルムンドキア。
およそ500年前に、エルフ族もろとも、滅び去った亡国。
「ただいま……みなさん……」
私は切り倒された大木の切り株に、手を添える。
これこそがエルムンドキアそのものと言ってもいい、象徴的な国宝――世界樹。
事件のあの日、切り倒されて以来、その効力を失っています。
エルムンドキアの世界樹は、その幹の中に不思議な力を宿していました……。
世界樹の切り口には、異世界に通じるゲートがあったのです。
それを利用しようとした愚かな人間たちに、エルフは滅ぼされてしまいました。
今ではゲートは私によって封印されていますが……。
絶対に許せません!
しかも人間たちの歴史には、エルフが悪者として記されています。
私は二度とこのような悲劇が起きないように、世界の秩序を保とうとしたのですが……。
とうとう人間たちとわかりあうことはできませんでしたね。
「そうです! もう一度、ここに国を作りましょう! 私ひとりで、エルムンドキアを再興するんです!」
誰にともなく、私は一人、宙に宣言する。
当時は哀しみのあまり、そのようなことは考えもしませんでした。
ですが、今の私の経験と能力値なら、建国くらい簡単なことです!
エルムンドキアが滅びたあと、人間たちはこの森には最早用はないとばかりに、周辺地域から撤退していきました。
もともと、この辺は人間族には住みにくい土地でしたからね……。
なのでここら一帯は手つかずのままなのです!
「ここなら楽しく暮らせそう!」
私が隠居し、スローライフを送るのに、最適の場所だと言えるでしょう。
やることも見つかりましたしね!
当分は飽きることなく、田舎暮らしを堪能できそうです。
「では手始めに……、まずは私の住む家を作りましょうか」
世界樹の根元に、小さな家を建てましょう。
私ひとりが住むだけですので、それほど凝ったものでなくてもいいでしょう。
私はそこらの木を、一か所に集めます。
「ごめんなさいね、木の妖精さんたち。少々、私のために、資材を分けてください」
私が指揮者のように手を振ると、木は自動的に歩いてやってきてくれます。
あとは内装や、外装のデザインを考えるだけです。
「
そう唱えると、手元に様々な様式の建造物が描かれた画面が投影されます。
これは私のオリジナルの魔法で、
この空中の画面を通して、様々なものにアクセスし、操作が可能です。
「うーん……可愛い家がいいですねぇ。それでいて、国の建国にふさわしいような、威厳を感じさせるもの……」
あらかじめインプットした、世界各国の建築様式に基づいた家が表示されています。
ここには私の知識から抽出されたすべての情報が載っているんですよね。
いちいち思い返したりしなくてもいいので、非常に便利です。
「あ! これなんかいいんじゃないですか。屋根が可愛くて、とってもおしゃれです」
6ページ目くらいに表示されていた小屋の一つが、気に入りました。
たしかこれは数年前に滅びたとある小国の民家がモデルだったはず……。
なのでオリジナリティの面でも完璧です!
これを新生エルムンドキア帝國のスタンダードな民家としましょう!
新たな文化がここに誕生しましたよ!
「ぽちっと。
私がタップして唱えると――まあ、唱えるかタップするかのどちらかでいいんですけどね――すぐさま家が建ちました。
一瞬です。
お手軽、簡単ですね。
「さっそく中に入ってみましょう」
中に入ると、まさに理想の環境が整っていました!
私ひとりが暮らすには、最適な内装です。
「ふぅ、ようやく落ち着けますね……」
リビングに置いてあるソファに腰かけます。
座り心地抜群ですね。
「そろそろお腹がすきました……。ご飯を食べたあとは、今後の食料供給についても考えなければなりませんね……」
今日の分は、あらかじめお弁当を持っています。
本当は議会の皆さんと食べる予定だったんですがね……。
まあ、もうあんな人たちのことは忘れましょう!
世間のことは忘れて、ここで一人で生きていくんですから。
「やはり農作物を育てるべきですよね……」
一人お弁当を平らげたあと、私はソファで思いを巡らせます。
幸いにもここは森です。
農作物を育てるには苦労しませんね。
「ですが問題は……この瘴気……」
世界樹の
これは当時の私には、どうすることもできませんでした……。
ですが今の私なら――!
「
私が唱えると、森中を覆っていた瘴気が一瞬にして消え去ります。
これで作物が育つ、豊かな土地が蘇りました!
瘴気のせいでここら一帯は人間にも見放されていましたからね……。
私の独り占めです。
「ではお次は……
今度は植える作物を選びましょうか……。
あ、これはいいですねぇ。
【無限キノコ】
一度植えれば自動的に無限に増え続けてくれるキノコです。
一歩間違えれば増えすぎて大変なことになってしまうのですが……。
まあそこは私の魔法で自在に制限できるので大丈夫です。
「まずはこれを植えましょう」
他にも何か植えておきましょうか……。
同じものばかりだと飽きますしね。
まあ私、食べなくても死なないんですが。
ですが食事はささやかな楽しみの一つですからね!
それに、国をもっと大きくしようと思ったら、食糧事情は最重要です。
「これにしましょう!」
次に選んだのは【大豆ミート】です。
植物でありながら、お肉のような栄養と食べ応えのある、品種改良品です。
これさえあれば飢えることはありえません!
まあ、私は飢えないんですが……。
「果報は寝て待てと言いますし、今日はこのくらいにして、もう寝ましょうかね……」
さすがに疲れました。
昼間は嫌なこともありましたしね……。
さっさと寝て忘れましょう。
もちろん私は寝る必要なんて皆無なのですが……。
これも楽しみの一つです。
ソファ同様に、ベッドもふかふかで最高の寝心地です。
やっぱり私のデザインした魔術システムは優秀ですね。
「おやすみなさい」
誰にでもなく、ただ一人、空中に言葉を放つ。
一人で寝るのは慣れっこです、なんといったって、500年そうしているんですからね……。
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