マーメイド・シンドローム
雪白楽
01
『立入禁止の屋上に、かつて飛び降り自殺をした女生徒の幽霊が現れる』
うららかな春先の、怪談。
そんな季節外れで、なおかつ非科学的な噂話を本気で信じる方が、どうかしている。もちろん俺も、そういう類の話は鼻で笑って聞き流す、ごく常識的な人間であるはずだった。
その瞬間、今にも屋上から飛び降りようとしている『幽霊』を目の当たりにするまでは。
(冗談、だろ……)
風に巻き上げられた黒髪。柔らかく細められた瞳。揺れる制服のスカートに、裾からのぞく眩しい素足の白さ。
その優しくきらめく何もかもが、非業(ひごう)の死を遂げた人物には見えない……ただ一点、彼女の身体の向こう側に、空の青さと太陽の光が透けてさえいなければ。
「っ、待ってくれっ!」
どうしてその時、引き止めようと思ったのか、分からない。どのみちもう死んでるなら、止めたところで彼女の命が戻ってくる訳でもないのに。
それでも、俺の身体を衝(つ)き動かした何かは、気付けば『幽霊』の手を掴(つか)んでいた。
「……え」
確かな感触が、あった。この日、俺はシャーマンになった……そんなはずが、あるかっ!
「タカナシ?」
「ツクモくん?」
振り返った顔は、間違いなく俺の知るクラスメイトのものだった。透けてるけど。
「タカナシ……お前、実は死んでたのか?」
「へ……?」
空気が、凍った。
*
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます