Ch.2 街角野蛮人

 キッチンのカウンターを背景に鏡に映っているのは予想していたフリフリ可愛い魔法少女ではない。

 どう見ても男でしかも全裸。


「なんなのこの変身」

「戦う為に理想的な身体にしたんだよ」


 うむ、言われてみれば確かにその通りだ。

 生JKや魔法少女が戦うより細マッチョな男が戦う方が強さという意味では正しい。

 しかし私にも言い分はある。


「何で全裸なのよ」


 一応これでも処女おとめなのだ。

 通っているのが女子校だから彼氏がいないというのもある。

 まあネットのエロ動画なんかがあるからブツを全く見たことがないとは言わない。

 それでも……


服装コスチュームは自分でイメージする事になっているんだよ」


 それを早く言って欲しかった。

 ならこの身体に似合う格好を考えないと。

 私は鏡に映った肉体をじっくり見る。


 予想していた魔法少女とは180度違う方向性。

 しかし私は思ってしまう。

 コレモイイカモ……


 なんとなく鏡の前でポーズをとってしまう。

 ボディビルとは違う、控えめながら必要な筋肉はしっかりついた細マッチョな身体。

 筋肉がつける陰影。

 やや浅黒い肌。

 うん……イイ!!!


 ただ顔が微妙に私の面影を残している気がする。

 万が一にも顔バレしたらまずいだろう。

 ならば解決法は簡単、マスクをしよう。

 最近誰も彼もがしている奴では無く、顔が隠れる格好いい奴を。


 マスクと思った瞬間、つい遠征して買ってきたとある薄い本をイメージしてしまった。

 うん、アレを少し変形させて……


 全裸のまま首から上だけ黄金のマスクが覆った。

 おお、これは格好いい。

 いっそ神々しいかも。


 調子に乗って様々なポーズをとってみる。 

 やっぱり男の裸は美しい。

 女の子よりよっぽどイイ。


 うーん、何か変な気持ちになってきたぞ。

 興奮のあまり下半身の男を主張するアレまでおっきした。

 なるほど、現物はこれだけ存在感があるのか。

 ネットではさんざん見たけれど実物を目でみるとなかなか……

 思わずじっくり観察してしまう。


「顔以外の服装コスチュームはいいのかい?」


 そうだ、自称天使コイツがいたのだった。

 思わず恥ずかしくなっていやいやと思う。

 美しい物を魅せて何が恥ずかしいのか。

 男が裸で何が悪い!


 これは私の心の中に残る名言だ。

 この話を聞いた時『貴方が神か』と思ったものだ。

 残念な事にその後捕まって保護されたらしいけれど。


 でも一応自称天使コイツの立場もある。

 だから下半身も服装コスチューム入れておこう。

 上半身も勿論、そしてマントもつけてと。

 うん、これで何処から見ても黄金聖闘……ゲフンゲフン。


「さて、準備は出来たかい?」


 いやまだだ。


「どうやって魔法の力で戦うか、知らない」


 変身してコスチュームを考えただけだ。


「実際に戦えば自然に力は出てくるよ。魔法って必要に応じて発現するものなんだ。発現のしかたも人によって違うしね。その辺は実際にやってみないと僕にもわからない」


 なんともいいかげんなものだな。

 そう思ったところだった。

 ふっと自称天使コイツが表情を変える。


「助けを呼ぶ声が聞こえる。出動だよ」


 おっと早くも出動か。

 でもそれなら一度変身を解いた方がいいだろう。


「変身を解除してから行く方がいいかな」

 この金ぴか衣装は目立ちすぎる。


「大丈夫だよ。ここから直接魔法空間で現場に向かうからね」


 おっと、魔法移動なんて出来るのか。

 なかなか便利で宜しい。

 しかしいきなり戦いなのか。


 正直、正義の為とは言え戦うのは怖い。

 何せ元はか弱い地味系JK、荒事の経験なんて無いのだ。


「もう少し戦い方を練習してからじゃ駄目?」

「行くよ、魔法空間!」


 自称天使コイツは問答無用でどこからか取り出した杖を振る。

 ふっと浮遊感に襲われた。

 周囲の景色が瞬いて変化する。

 

 気がつくと繁華街の外れ、あまり柄の良くない地区だった。

 いきなり外へ出たから靴を履くのを忘れた。

 そう一瞬思ったが、よく考えれば靴も衣装コスチューム一式と一緒に装着済み。

 だから問題ない。


 さて、目の前にはいかにもという感じで頭と柄の悪そうなあんちゃん2人と、しゃがみ込んでいる若い女性。

 典型的なパターンだな。

 そんな事を思う。


「な、なんだ貴様は」


 頭と柄の悪そうなあんちゃんその1が私を見て言う。

 細身よれよれで食パンマンが教室の机の中で一週間熟成したみたいな顔の男だ。


 それにしても台詞がパターン通り過ぎる。

 もう少しオリジナリティというものを考えてもらいたい。


「通りすがりの正義の味方だ」


 言ってからしまったと思う。

 この場合は『貴様に名乗る名など無い』の方が格好いい。

 しかしもう手遅れだ。

 次からは気をつけよう。


 なおしゃがみ込んでいた女性はこっちを見て面食らっている。

 そりゃそうだ。

 金ぴかの怪しい鎧を着装した正義の味方が通りすがるなんて普通は無い。

 私にだってそれくらいの判断が出来る常識はある。


「なんでえ、もう少しでいいところだったのによ」

 

 頭と柄の悪そうなあんちゃんその2がそんな事を言う。

 こっちはやや太めで顔は崩れたカレーパンマンという感じだ。


「今ならまだ間に合う。おとなしく此処を去れば悪いようにはしない」 


 やっぱりいきなり攻撃してはまずいだろう。

 そんなレッドファイトな事をしては正義の味方の沽券に関わる。

 

「うっせえ、やっちまえ」


 話し合いは決裂した。

 崩れカレーパンマンが何処からともなく鉄パイプを出して襲いかかってくる。

 うーむ、行動が典型的すぎて面白くない。

 自主撮影の映画なら落第点だ。

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