魔法で変身! ももこちゃん。
於田縫紀
Ch.1 JKは天使と出会う
久しぶりに池袋へと遠征した帰り、駅から家への途中。
その声は突然頭の中に響いた。
「僕と契約して正義の味方になってよ」
な、なんだ、定番の台詞と微妙に違う今のは。
私は振り返って周囲を確認する。
周囲は結構暗い人通りのほとんどない住宅街。
空耳だろうかと思えば……いた!
白とピンク色の犬と猫の中間的フォルムのぬいぐるみ的なマスコットが。
「なにこれ、現実?」
実は私、さっきまで現実と魔境の境目な場所にいた。
そこで真実の愛に関する薄い本を吟味していたのだ。
しかし魔の世界であっても方向性がまるで違う。
こんなファンシーな化物が出てくるタイプではない。
「本物だよ。君は素質がある。だからねえ、僕と契約して正義の味方になってよ」
残念ながらこれはどうやら現実の事らしい。
私が狂ってしまったので無ければ。
いや、つまらない世界で生きるより狂ってしまった方がいっそ楽しいか。
チャカポコチャカポコ……お兄様!
「ねえ、聞こえているんでしょ。僕と契約してよ」
残念ながら現実だし気が狂ってもいないようだ。
ファンシーなぬいぐるみ系マスコット君が確かに喋っている。
だが甘い。
専門外とはいえその辺については基礎教養として学習済みだ。
「契約して最後は化け物になるとか御免だからね。悪いけれど他をあたって」
「そんな事はしないよ。これでも僕は天使だからね。悪と戦う魔法の力を君に与えるだけだよ」
天使だと? 怪しい。うさんくさい。
外見もファンシーなぬいぐるみ風。
どう見ても天使には見えない。
むしろQなんとかくさい。
「そう言って人間の都合を無視して何かエネルギーを集めるとか、そういう事でしょ」
「確かに僕は天使だからね。人間の都合は読めない部分もあるかもしれない」
よし認めたな。
ならさらばだ。
アデュー友よまた逢おう。
そう去りかけた私の前に自称天使が回り込む。
「待ってよ。でも絶対君に悪い事にはならないから。力を使いすぎても化け物になるなんて事もないし、挙げ句の果てに世界を滅ぼそうとしたり仲間に倒されたりなんて事も無い。
僕が与えるのは正義の味方として魔法で戦える力だけだよ。その力を使って君が人間に戻れなくなるなんて事は無い。どんなに魔法を使っても変身を解いたらちゃんと君本来の姿に戻るから。
ねえ、本当だから僕と契約して正義の味方になってよ」
おっと、そこまで言うか。
念のため確認する。
「本当に私に害が及ぶという事はないの?」
「うーん、厳密に言うと戦闘中、相手に反撃されると痛いかもしれない。でも魔法の力で怪我も即座に回復可能だから。それ以外は魔法の力で君に害が及ぶ事はないから。だからお願い、契約してよ」
うむ、そうなのか。
「契約の代わりに魂をよこせなんて事もないよね」
「勿論」
どうやら私の知っているQなんとかよりは良心的らしい。
あれは悪魔だけれどこれは天使なのか。
でも念のため確認はしっかりやっておこう。
「契約するとどう変わるの」
「正義の味方に変身して魔法が使えるようになるよ。勿論変身は自分で解除できるし、そうすれば元の姿に戻れるよ」
「副作用とかはほんとに無いのね」
「肉体的な副作用は一切無いよ。だから契約してよ」
なるほど実害は無さそうだ。
確かに今のつまらない現実には飽きていた。
少しくらいアバンギャルドな選択をしても悪いことはないだろう。
「わかった。契約する」
「ありがとう。それじゃ力を渡すね」
契約書を交わすなんて事はしなくていいらしい。
その辺あっさりしたもんだな。
ふっと何かが私の身体に流れ込んだ感覚がした。
これが『力をくれてやる』感触のようだ。
「さて、これでいつでも変身して悪と戦えるよ」
悪と戦うか。
「何か敵になるような悪の組織なんてあるの?」
「そんな組織、現実に存在しないよ。ただ助けを求める人の声に駆けつけて救う。現実の正義の味方なんてそんなものだよ」
非現実的な化物に現実を説かれるとは思わなかった。
「それじゃ変身してみようかな」
「今はやめた方がいいと思うよ。一度家に帰って、自分の部屋なんかで変身した方がいいかな。変身してどんな格好になるかわからないと不安でしょ」
確かに私がファンシーな格好になると思うと少し怖い。
私はそういったカワイイ系統が似合うキャラでは無いのだ。
「わかった。急いで帰るから」
「変身しなくても最大出力、いや体力は2倍程度は上がっている筈だよ」
どれどれ、試しに走ってみる。
おお、身体が軽い。
あっという間に私の住むマンションに到着だ。
階段をダッシュで駆け上り、玄関の鍵を開けて中に入る。
この体力だけでも使えるな。
「他に住んでいる人はいないのかい?」
「親は海外赴任中」
だから自由でいいとも言えるし家事が面倒くさいとも言える。
でもまあ、その前に変身の確認だ。
リビングにある大きな鏡の前に立つ。
「服は脱いだ方がいい?」
「変身する時に自動で脱げるし、変身を解いたら自動で着用するから大丈夫だよ」
便利なご都合主義だ。
それなら変身してみよう。
でもやり方をまだ聞いていないな。
「変身はどうすれば出来る?」
「変身したいと強く思うだけだよ」
キラキラなステッキとかは必要ないのか。
まあいい。それでは変身だ。
「変・身!」
まばゆい光が私の周囲を包む。
着ていた服の感触が消える。
これ、他から見たらヌードショーだよな。
生JKの魔法ヌードショーだ。
こんな私でもちょっとは需要があるだろうか。
なんて思っているうちに光は熔け、元の世界に戻る。
さて、変身後の姿はどうなっただろうか。
鏡を見る。
えっ、間違いじゃ無いよね。
周囲を確認し、そして鏡を再度見る。
背景からして映っているのは間違いなく私の筈だ。
なら何でこうなった!!!
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