迷鳴恐響〜短編怪談集〜
夜蛙キョウ
第1話 あけてください
あれは、大学2年の頃でした。
その日はバイトを終え、一人暮らしのワンルームに帰宅した頃には疲れ果て即ベッドに寝転んでグダグダしていました。
10分程経った頃、唐突に玄関のドアをノックする音がして声が聞こえました。
「あけてください」
帰宅したのは23時半頃でツレが来る予定も連絡もない。そもそもツレなら「あけてください」なんて言ったりもしない。
そんな事を考えているとまたノックと声が聞こえる。
トントン
「あけてください」
トントン
「あけてください」
ここで「あ、ヤベー奴だ」って思ったけど、帰宅したのはさっきだし部屋の電気はつけているから在宅してるのは恐らくバレてる。居留守は使えない。
どうする?どうする?
思考がまとまらずに硬直してると今度はセンサー式の廊下の電気が点滅を始め、声も大きくなる。
ドンドンドン!
「あけてください!」
ドンドンドンドン!
「あけてください!」
深夜にも関わらず壁が揺れるほどドアを叩いている。
怖すぎて仕方なかったがこのままでは警察に通報されかねないので恐る恐る玄関に向かう。
音を立てないようにコッソリとドアスコープを覗くとそこには、、、何も居なかった。
「え?」
間の抜けた声を出してしまった。
気づくと声も音も止んでいた。
怖くて開ける気にはならないが外も気になる。
そこでチェーンロックをかけてからドアを少しだけ開けてみた。
アパートの電灯に照らされた通路が静寂を称えてそこにあった。
「なんだったんだ」
そう思った時に不意に視界の隅に動くものを見つけた。人の拳くらいありそうなデカい蜘蛛が植え込みがある方へ消えていくのが見えた。
ギョッとして蜘蛛を見つめていると蜘蛛は植え込みの手前でピタリと止まる。
その瞬間耳元で囁くような声が聞こえた。
「許さないから」
私はドアを勢い良く閉めると鍵をかけて部屋に戻り布団を被って朝まで震えていた。
結局その日は朝まで何事もなく過ぎ。
翌朝明るくなってから玄関を見てみると
昨夜のヤツのものと思われる蜘蛛の脚が一本、
ドアに挟まれ、潰されて落ちていた。
それを見た瞬間、もう一度耳元でハッキリと声が聞こえたんだ。
「許さないから」
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