異世界不動産～あなたの異世界を探す御供をさせて頂きます～

お客様名『山本 勲』その弐～「不動産屋の従業員達」～

「異世界って？」

「その名の通り、異世界でございます。さぁこちらへ」

　恭しく、俺をカウンターへ誘う。

　椅子に座ると、男は無駄のない動きでさらりと、内ポケットから名刺を取り出した。

「ニューワールド不動産の店長をしております。世望（よもち）と申します」と言い、両手で差し出された名刺を受け取る。

「よもち……さん。下の名前は……あんら」と呟いた。珍しい名だ。

　すると、カウンターの奥のパーテーションから、女性店員が現れた。

　黒髪をアップで纏めている……美女だ。

　あどけない童顔に、真っ赤なリップ。

　それよりも、視線が下に吸い込まれる。

　パッツンパッツンの黒いスーツジャケット。

　白いカッターシャツの胸元から、ボリューミーな肉塊が顔を出す。

　絶対領域を究めしスカート。

　――エロい……。エロ過ぎる。

　死んでも、性欲は残っている事が分かった。

「あら、お客様ですね。珍しい」と言うその声は凄くセクシーだ。

　女性店員は、オッパイの谷間から名刺を取り出すと、さっと俺に手渡した。

　まだ温かい……。

「副店長の肌島（はだしま）でございます。今後ともよろしくお願い致します」

「こ、こちらこそ、よろしくお願い致します。　下の名前、シシって言うんですね」

「よく変わっていると言われます」

　そう言うと、肌島は「あら。チル、ラリ。お客様におしぼりとお茶をお願いね」とパーテーションの方に向かって声を掛けた。

「はーい」「ほーい」と、子供の無邪気な声が聞こえた。

　子供が働いているのか？　と俺は思ったが、現れたソレに目を疑った。

　マリオネットだ……動いている!?

「ひぃッ!?」

　木彫りのアンティークドールタイプと呼ぶのだろうか？

　お揃いのデニムのオーバーオールに、男の子は青いシャツ、茶色の毛糸の髪。女の子は赤いシャツ、金の毛糸の髪。

　頬が赤く、大きく丸いキラキラの瞳……感情が籠っていない無機質な笑顔がとにかく不気味だ。

　マリオネットだが糸が見えない。

　まるで魂が宿っているかのように、勝手に動き、喋っているのだ。

　男の子が、頭上に掲げたお盆におしぼりを置き、近づいて来た。

「オッサン。おしぼり。やる。受け取れ」

「お、おっさん……」

「こら、チルッ!!　お客様でしょ」と肌島が注意した。

「いえ、別に構わないです……。オッサンだし」

　そう言うと、俺は、恐る恐るおしぼりを手に取った。

「オッサン、オッサン。茶をしばけ」と、今度は女の子が頭上に掲げたお盆に湯飲みを置き、近づく。

「茶をしばく？」

　今度は、世望が注意した。

「こーら、ラリ。お客様だぞ。すみませんね、まだ子供なモノで。ちなみに茶をしばくとは、お茶を飲むと言う事です」

「は、はぁ」

　ピョコピョコと歩くマリオネットに視線を奪われていると、2人が近づき手を伸ばして来た。

「オッサン。チップくれ」「オッサン。チップちょ」

「チップ？　そう言われても俺、財布持っていないしな」

　そう言うと、肌島が「この子達の手を握って頂ければ結構ですよ」と言われ、そっと2人の手を握った。

　やはり、温かくも柔らかくもない、木の指だ……。

「チャリン!!」「チャリン!!」と言うと、嬉しそうにチルとラリは入口近くのお菓子のガチャガチャへと向かった。

　ガチャリ……ガチャリとハンドルを回し、飛び出した丸いお菓子を嬉しそうに食べている。

「さて、お客様。本日はどのような異世界をお探しでしょうか？」

　世望の問いかけに、「あの、そもそも異世界ってどういう事ですか？　ここは何？」と訊ね返した。

「お客様の、新しい人生と可能性を共に創造し、そのお手伝いをさせて頂ければと」

「つまり？」

「全く別の世界……つまり異世界にて、貴方の理想の人生を歩んでみたいと思いませんか？」

　そう言い、笑顔を見せ付ける世望。

　すると、今度は肌島が口を開いた。

「当店は、あらゆる異世界を揃えておりますの。きっとご満足頂けると自負しておりますわ」

　とは、言うモノの、2人の言っている意味が分からない。

　異世界に……俺が行く？　住む？　人生を歩む？

「それって……。俺が異世界で生まれ変わる……って事ですか？」

「オプションで転生する事も出来ますし、そのまま転移する事も可能でございます」

　そう言うと、世望はパソコンのキーボードを叩き始め、「まずはお客様のPVがどれだけあるかお調べ致しますね」と告げられた。

「PV？」

　肌島が答える。

「パーソナル・バリュー。つまり、"貴方の価値"ですわ」

　続けて世望が口を開いた。

「お客様の生前の行いが加点と減点を繰り返し、そのPVがあの世での貴方の資産となります。また、輪廻転生をする際の候補にも影響しますね」

「そんなシステムがあるんですか……」

　世望はプレートを取り出すと、「ではここを人差し指でタッチして下さい」と指示する。

　そして画面を見た世望は笑顔でこう言った。

「えー。山本様のPVは50万と14PVですね」

「それって、結構あるんですか？」

「いえ、ゴミクズです」