異世界不動産~あなたの異世界を探す御供をさせて頂きます~
羽之 晶
お客様名『山本 勲』その壱~「あの世の不動産屋」~
俺は確実に地獄行きだ。
もう何日、この暗いトンネルを歩いているのだろうか?
なのに全く疲れないし、腹も減らない、喉も乾かない。おまけに眠くもない。
行儀よく一列となり進む者達の中に、俺と同じく自殺した者は一体何人いるのだろうか?
俺は、
死因は電車にアタック……さっきも言ったが自殺だ……。
仕方ないだろ。
もう、生きる気力もなくなったのだから。
あの世なんて本当にあるとは思っていなかったが……どうやら正しかったようだ。
更にだいたい数日後……。
ようやくトンネルから外に出る事が出来た。
「あれが、三途の川?」
畦道の向こう側に大きな川が見える。
必死に泳いでいる者や、木船に乗っている者……。
クルーザーなんてのもある。
畦道の半ばまで歩いた時、何気に横の茂みを見ると、遠くの方に建物が見えた。
周囲の人は気付いていないらしい。
俺は、後ろの爺さんに声を掛けた。
「なぁ、あの建物なんだと思います?」
「うるさい、さっさと歩けぃ」
前の若い女性にも声を掛けた。
「あの、アレなんだと思います?」
「ちょっと、肩触んないでくれる!!」
俺だけにあの建物が見えているのか?
見に行きたい衝動に駆られているが、そう出来ない理由がある。
誰に説明された訳でもないが、何故か分かるのだ。
――この行列から抜けると、もう列には戻れないと言う事が。
現に、行列の外でじっと佇み、羨ましそうにこちらを見つめる者達もチラホラいる。
きっと、興味本位で列から出た事で、戻れなくなってしまったのだろう。
大人しく、川を渡るべきか?
だが、渡ってどうする?
生前の情報通りなら、自殺者に待っているのは、耐え難い拷問と苦しみだけだろう。
かと言って、あの建物に向い、何も無ければ、俺は一体どうなってしまうのだろうか?
畦道の周囲で、彼らのように彷徨い続けるのか?
この道の先で、生前の行いを清算するべきなのだろうか?
………………
………………
………………
いや、行列から抜ける!!
拷問は嫌だ、苦しいのは嫌だ。
それよりも、あの建物が気になって仕方がない。
そう思い、俺は……列から抜けた。
直ぐに、俺が居たスペースが詰められた。
もう戻れない。
俺は茂みの中に入り、ただひたすら進んだ。
そして、ようやくその建物の全貌が見えた。
『アナザーワールド不動産』
そう書かれた電飾看板。
ガラス張りの店頭には何枚かの紙が貼られていた。
この場所には似つかわしくもないが、至って普通の不動産屋のように見える。
建物に近づき、自動ドアの外から店内を眺める。
アーチ状の白いカウンターにイスが8脚。
テーブル席は2つ。
客は居ない……。
暖色の照明に照らされた店内は、アンティークショップの様にも見える。
カウンターの中から、7:3オールバックの男が、こっちを見てニコリと爽やかな笑顔をしている。
入ってもいいのだろうか?
いいよな……。
俺は、思い切って自動ドアを潜った。
「いらっしゃいませ。本日はどのような異世界をお探しでしょうか?」
「異世界?」
その男は、笑顔でそう言ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます