第63話 処罰というものは


 翌朝、俺は王宮から出て離れに戻り、いつものように運動を始めた。


「おはようございます」


「おはよー」


ギディが今朝は遅れずにやって来た。


「えっと、あの、行商中に起きるのが遅かったのは、その寝付けなくて」


なるほど、枕が変わると眠れないってやつか。


俺は基本的にどこでも眠れる。


前世じゃ居眠りの常習犯だったし。


いつの間にかグロンまで一緒に走っているのには笑った。


お前、ここは王宮だからそんなに心配しなくていいんだぞー。




「あの、コリル様。 実はお願いがあって」


「うん」


井戸で水を浴びながらギディが思い詰めた顔をして、何かを言おうとしている。


「やっぱり俺の従者、辞めるか」


予想はしてた。


普通の子供には無理だよな。


いくら俺より少し年上で、生活で苦労してたり、親の命令だったりしてもさ。


「いえ、それは絶対に有り得ません」


お、強く否定してきた。


「実は、エオジさんとデッタロ先生に師事させていただきたいのです」


「えっ」


自分の弱さを知って、魔法も剣も強化したいということらしい。


「従者は今まで通り続けさせていただきます。


コリル様は家事が壊滅的にダメですからね」


ほっとけ、まあ、そうだけども。


「分かった。 王宮には要望として出しておく。


ただ二人の師には自分で頼めよ」


従者として働く傍ら、兵士としての訓練を受けることにしておけば給金も減らない。


兵士なら危険手当が付くから、今より割は良いはずだ。


「はいっ、ありがとうございます」


うれしそうな顔で朝食後、さっそく出掛けて行った。


俺もヴェズリア様のところにお願いに行くかな。




 王宮に入ると何故かヴェルバート兄に捕まる。


「せっかく泊まったのに朝食ぐらい食べていけよ」


あー、そっか。


期待させちゃったか。


「すみません。 朝の鍛錬があるので」


俺は偏食が激しいので、母さん以外と食事をするのは好きじゃない。


テキトーに誤魔化しておく。


 とりあえず、お茶に付き合えと言うのでおとなしくついて行った。


廊下を同じ歩調で歩く。


ヴェルバート兄は背丈が頭一つ高いのに、俺に合わせて歩いてくれる。


「コリル」


「はい」


ヴェルバート兄も言いたいことはあるんだろう。


だけど、それ以上、何も言わずに肩を叩いてくれた。


前世では一人っ子だった俺だけど、今世は兄が居て、妹が居て、本当に良かったと思う。




 王族専用の部屋で妹たちも含めて、ゆったりとした時間を過ごす。


父王は仕事で忙しいらしい。


 俺は、心配かけたお詫びも兼ねて、ヴェズリア様の執務室と母さんたち侍女の控え室に小赤の水槽を贈った。


この水槽は、東の部族から王族に献上されたガラス工芸品だ。


小赤と、赤くない小金も混ぜて、十匹以上入っている。


ガラスの器は勿体ないかなって思ったけど、小瓶じゃ王宮内だとちょっと寂しいからね。


「餌をきちんと与えれば、ここに入っている魔石で一年は大丈夫ですから」


まだ試験中だから、死んでも騒がないでとお願いしておく。

 

「ええ、ええ、可愛くて気になっていたの。


ありがとう、コリル」


ヴェズリア様も侍女さんたちも気に入ってくれた。




「私にはないのか?」


と、ヴェルバート兄が残念そうだ。


「ヴェズリア様たち女性は魔獣を飼うことがありませんから、せめてもの慰めに」


俺は忙しい皆に癒されて欲しかった。


触れなくても、観ているだけで癒されるものもありますよって伝えたかった。


「そうよ、ヴェルバートにはグリフォンがいるじゃない」


ヴェズリア様の言葉で兄様も諦めたようだ。


「そういえば、あまり魔獣を飼う女性はいませんね」


家で家畜を所有していて、世話をしている女性はいるが、自分専用で飼っている者はあまりいない。


「妹たちが大きくなるころには、安全でおとなしい魔獣が飼えるようになっているかもしれませんね」


俺たちはそんな話で盛り上がっていた。




「賑やかだな」


父王が入って来て、俺が立とうとすると止められる。


「コリル、お前は私たちの家族だ。


あまり他人行儀にしてると妹たちも混乱する」


俺は妹たちのために、しばらくは平民志望アピールを止めたほうが良いみたいだ。


「分かりました」


ふむ、表面上だけ王族かあ、難易度が高そう。




「それと、例の件だが」


東の砦から罪人たちを護送する兵士たちが今日、王都をつ。


王宮では部族会議が招集され、東の砦で減った兵士を補充するための募集も始まるそうだ。


「兵士たちの処分はどうなりそうですか?」


彼らも俺のせいで事件に巻き込まれたようなものだし、気になる。


「通常なら、王家不敬罪で極刑だが、今回は魔道具を使われている。


主犯の兵士と協力した者は再教育として、ヒラの兵士から始めることになるな」


特別訓練コースらしいよ、ぐえっ。


「では、東の部族の若者たちは?」


「そこは部族ごとに決まりはあるが。


今回は異例中の異例だが、部族長が辞任を申し出ている。


部族会議待ちだから、しばらくの間は罪人の兵士たちと同じ扱いになるだろう」


あー、あの部族長さん、辞めるのか。


後任とか、どうなるんだろ。


まあ、俺には関係ないけど。


「心配するな。 部族長の息子が王都で修行中だったから、そいつを一時的に部族長とした。


後は周りの部族長が監視し、相談に乗る」


「あ、はい、丁寧な説明をありがとうございます」


お礼を言ったらため息を吐かれた。


「まったくお前は」


ヴェルバート兄たちも苦笑いしている。


ああ、またやっちまった?。


すみません、急には直らないので長い目で見てください。




 東の砦の事件から、ほぼ一ヶ月が過ぎた。


部族長会議で東の部族長は引退が認められて、長子が跡を継ぐ。


チラリと見たけど、筋肉ムキムキのオニイサンだった。


さっさと東の部族から王都に逃げ出すほどの危険察知の能力はあるみたいだし、これからに期待かな。


捕まった兵士と部族の若者は、西の砦で三年間の再教育らしい。


ご愁傷様である。


 西の砦では、増えた分を東の砦に移動させることになった。


人数が増えると食料問題とか色々あるからね。


でも東の砦には女性兵士がいるので、移動希望者が殺到したそうだ。


ほんっと男って単純だよな。


東はこれからヤーガスアとキナ臭くなるっていうのに。


あ、それも脳筋魂をそそるのか。




 ヤーガスアの女性たちはどうなったかというと、働きたい者は王都のいくつかの店で受け入れが決まった。


ただ、しばらくの間は最低限の給金しか出ない。


一応、密入国の罪人扱いだからね。


結婚の約束をした兵士たちも罪人で三年間は会えない。


その後なら自由に結婚して良いってことになった。


 バカ息子は、王都の監獄でかなり厳しい取り調べがあったそうで。


最終的には生涯牢獄だが、温情として毒物を与えられる。


どんな自白があったのか、子供の俺には教えてもらえないけど、もう生きてはいないと聞く。


 東の部族のその後の噂があったな。


ヤーガスアとの繋がりが疑われた元部族長の妻の一人で、バカ息子の母親である女性が逃げ出そうとして、その場で夫に斬られたという話だ。


財産を持ち出そうとしていたらしい。


おそらく着の身着のままならば見逃してもらえただろうに。


まあ、それでも魔獣の森で生き延びれるのかは知らないけどな。


それ以降は、ヤーガスアから来た者たちは静かになったということだ。


 うん?、誰か俺の耳にさりげなく入れてないか、これ。


軍の諜報機関からの俺に対するお詫びだったりするのかな。


知らんけど。




 俺はたまに手を合わせて、彼らの冥福を祈る。


初めて俺自身が関わった事件での死者になるからね。


どんな罪人だろうと、記憶の無い魂に戻れば皆同じ。


輪廻の輪に乗れることを俺は願う。



 

「こーにいたまー」


可愛い妹たちは二歳。


俺はこの春で十三歳になった。


実は近いうちにまたシーラコークに行く。


もうヤバい予感しかしない!。


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