第61話 報告というものは


 東の砦から二日を掛けて、俺たちは王都に戻って来た。


帰って来たのは俺と、エオジさんと、ギディの三人だけ。


バカ息子たち罪人は砦の兵士たちによって後日護送されるらしい。


まだ父王には事情も話してないのに、いきなり連れてくわけにはいかないからね。


 他の行商メンバーは、祖父じい様がそのまま引き連れて次の目的地に向かって行った。


行商を続行するために祖父じい様は来たのか。


任されたのに、ちゃんと行商の仕事を果たせなくて、ごめんなさい。




 俺って、巻き込まれ体質なのかもね。


これもきっとこの世界での輪廻の輪に乗るための修行だ。


そう思うことにした。


でもね、神様、ちょっとやり過ぎじゃない?。


もう、お腹いっぱいだよ。


「はあ、なんだか気が重い」


王宮の階段が見えて来ると、これから報告しなきゃいけないことを思い出して暗い気持ちになる。


とりあえず、一旦、祖父じい様の店に寄って荷物を下ろした後、王宮へ向かった。




 あっさりと門を抜けて階段を上がり、無事に離れに到着した。


弟たちを厩舎へ送り、じいちゃんたちにもお土産を渡す。


「ほう、東の森の魔獣の素材か。 ありがたい」


そう言ってもらえてうれしいよ。


 テルーからは手紙を回収出来たと教えてもらう。


証拠になる手紙は父王に渡してあるそうだ。


「あの大鷲も楽しんだようだな」


俺が出掛けてからしばらくは不機嫌そうだったが、突然、飛び立って手紙を持ち帰って来た。


帰ってきた時はすごく機嫌が良かったらしい。




 いつもは周囲の森しか飛ばない大鷲には、もちろん縄張りが存在する。


しかし、魔力を持つ魔獣となれば話は別。


「あれだけ大きな空を飛ぶ魔獣はグリフォンぐらいだからなあ」


もしかしたら、北の森周辺はテルーには少し狭いのかもしれない。


「ねえ、じいちゃん。 飛ぶ魔獣に竜種はいないんだよね?」


テルーが自由に飛ぶのはいいが、どっかで格上の魔獣に出くわさないか心配だ。


「飛龍か?。 まあ、目撃情報はないこともないが。


今のところは確認出来ておらん」


そか、空を飛んでるから、実際は本物の飛龍かなんて分からない。


前世の記憶でもドラゴンやワイバーンは物語の中にしか登場しないもんな。


いや、現実にいたら超怖いけどさ。




「やはり、ここか」


厩舎にヴェルバート兄が入って来た。


「コリルが戻ったと聞いたから離れに行ったのだが、従者しかいなくてな」


あ、ごめんなさい。


「ギディに荷物の整理を頼んで、俺は弟たちの世話をしてました」


父王には先にエオジさんが報告に行ったので、呼び出しがあるまで待機しとけって言われてる。


「ただ今戻りました」


俺は簡単な礼を取る。


「まあ、無事で良かったよ」


えへへと頭を掻く。


「なんじゃ、コリル。 また何かやったのか」


えー、じいちゃん、ひどい。 またって何、またって。


「うん、ちょっとね」


否定出来ない自分がいる。

  



 ヴェルバート兄の用事は父王の呼び出しだったので、ギディも一緒に行くために離れに呼びに行く。


なんかさ、最近俺を迎えに来るのはヴェルバート兄が多い気がするんだけど、意図的なの?。


俺が兄様には逆らえないと思ってるの?。


チラリと見た金髪の王太子殿下は十三歳になって、ますます男らしくなった。


そんなヴェルバート兄は俺が王宮に入るまでずっと付いて来る。


何故か、ずっとニコニコしてるんだよね。


 俺は、先に小赤の様子も見てこようとシーラコークの夫婦を訪ねた。


「お帰りなさいませ、殿下」


赤毛のヒセリアさんが丁寧に挨拶してくれるが、もう少し砕けて欲しいとお願いする。


旦那のパルレイクさんは、今は学校へ教師として行っているそうだ。


 小赤の成長具合を確認。


まあ十日ぐらいしか経ってないんだけどね。


「お土産の小赤は概ね好評でしたよ」


「まあ、それはうれしいです」


シーラコークからまた入荷出来るように手配を頼んでおいた。




 さて、ぐるぐる遠回りしても行かなきゃいけないんで。


「ただいま戻りました」


呼ばれたのは謁見室である。


ということは、商人としての対応が必要だなと覚悟を決める。


俺の後ろにギディとエオジさんも並んでいた。


「今回はご苦労であった、コリルバート殿」


おおう、父王に殿って言われたのは初めてだ、怖いいいい。


「ギディルガ殿、騎士エオジもご苦労だった」


「はっ」


三人で正式な礼を取る。




「では、詳しい話を聞かせてもらおうか」


謁見室の中には父王の他にヴェルバート王太子殿下に正妃ヴェズリア様、他に執務室の事務官が三名いる。


近衛兵が数名いるのはいつものことだ。


カリマ母さんがいないのは侍女は普通は来ない場所だからだな。


「では、私から」


エオジさんが一歩前に出て、東の砦に到着したところから話し出す。


 東の部族長の息子が最初から不穏な動きをしていたこと。


やたらと俺に付きまとい、取り込もうとしていたこと。


東の部族が用意したテントで交渉が始まったが、長老が出て来て俺の魔力を測ろうとしたこと。


すでに、この程度でも王族に対する不敬で父王の顔は険しい。


「それから取り引きの数が依頼したものと合わずに揉め始めました」


それで一旦引くことになり、部屋に戻る。


「コリルバート様が砦の責任者である私の兄と意気投合しまして」


ゴゴゴの話だとは言わなかったけど、察した人はいたようだ。


「その会話中、コリルバート様は私の兄の妻がその砦の秘書官であることを知り、砦の中に異様に女性が多いことに気付きました」


「確か、東の砦は試験的に女性の兵士も採用しておったな」


「はい」


父王の言葉に控えていた事務官が答えた。




「どこがおかしかったのだ?」


これは俺に向けている質問だね。


「はい、女性の兵士だけなら良いのですが、明らかに軍関係でない者。


そしてブガタリアの出身ではない者が多くいました」


近衛兵のお偉いさんの片眉がピクリと動く。


「隣国との境にある砦です。


地元民には他国の血が入った者もいるかと思いますが、軍の施設で他国の者が多いのはどうかと思いまして」


調べてもらったのだ、徹底的に。


「そうしたら、働いていた女性たちのうちの半数がヤーガスアからの出稼ぎでした」


エオジさんの言葉は苦い。


「採用時に身元は調べておらなかったのか」


「地元部族長からの推薦だったそうです」


「うーむ」


父王が険しい顔で唸ってしまう。




 謁見室の空気が重くなっている。


しかし、さらに重い話が続くのだ。


俺は大きく息を吐いた。


「翌日、その女性たちと恋仲だった兵士の一部が暴走しまして」


「なにっ」


あー、誰か父王に少しくらい予め耳に入れなかったのかよ。


「大丈夫です、防御結界で弾きましたから」


俺がしらっと言うと、ヴェルバート兄が少し怒り気味になっていた。


「それは、結界を張らなければ危なかったということじゃないか」


はい、ごもっともー。


 しかし、その後ギディが、俺が女性の耳を切り落としたことを話すと部屋の中がざわついた。


「魔道具だったんですよ、耳飾りが。


肉に埋まっていて取り出せなかったので、切ったんです。


後でちゃんと提出しますよ」


女性の耳はきちんと治療して、元通りになっていることも付け加えておく。




 一部兵士の暴走に東の部族の若者が加わったが、そこは部族の者たちが鎮圧した。


問題はその後に起こった。


俺は話したくないけど、この時はギディは気を失っていたし、エオジさんはいなかった。


「後処理にエオジさんたちが離れ、私とギディルガが二人でいるときに、部族長の息子に拉致されました」


謁見室が静まり返った。


「申し訳ありません、最後まで目を離すべきではありませんでした」


エオジさんが膝をついて謝罪すると、ギディも同じように謝罪の姿勢になる。


「私も力及ばす、申し訳ございません」


あー、うん。


これは俺がかばわないといけないわけだけど、言いたくないんだよなあ。


絶対怒られるもん。


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