第47話 2019年初冬、再び

黒猫は、

「ロイが事故死じゃなかったかも知れないってことはわかったわ。だけど、ジミーはどうだって言うの?」

と、先を急ぐように訊いた。

「ジミーは、自殺に見せかけた事故なのよ」

と、私は言った。

「自殺に見せかけた事故…」

と、黒猫は呟いて、

「それ、どういうこと?どうして自殺に見せかける必要があったのよ?どう見たって自殺じゃない、どうしてあれが事故なの?」

と、怒ったように私に詰め寄った。

私は、

「キッシュ、落ち着いて」

と両手で制しながら、私のなかでたどりついた仮説について語り始めた。

ジミー・カーチスは、夢をレゲエ音楽に見つけ海外留学を希望した。しかし、ジミーの両親はジミーの言葉には耳を貸さなかった。その頃から、ジミーは家に引き込まることが多くなり、何度となく家出を繰り返すようになった。

「ジミーは確か、両親がバカンスに出発した日に家を出ているの。クリスマスの夜よ」

と、私は言って続けた。

ジミーの家出に気づいたロイ夫妻が、バカンス中のジミーの両親に知らせた。しかし、ジミーの両親は、ジミーの家出をいつものことだからと気にもとめず、バカンスから帰って来ることはなかった。ジミーが発見されたのはそれから数日のことだった。

「ねえ、子供が家出を繰り返したり、親に反抗を繰り返す時ってどんな時かしら?」

と、私が黒猫に訊いた。

「私なら、文句を言いたい時か、気に食わないことがある時ね」

と、黒猫が言った。

「そうなのよ。文句かも知れないし、聞いて欲しいことがあったのかも知れない。とにかくそれに気づいて欲しくて、わざわざ両親がバカンスに出発した日に家を出たとは考えられない?」

と、私は黒猫に訊いた。

「確かにそうね。まるで親に当てつけのように家を出たとしか考えられない」

と、黒猫が言った。

「ロイの父親がロイを発見した時に叫んだ言葉、まさにあの言葉がすべてを物語っているのよ」

と、私はロイの父親の言葉をなぞった。

「お前、死ぬほど悩んでいたのか、それほどまでに苦しんでいたのか」

そして、私は続けた。

「ジミーは、そう両親に言わせたくて、自殺するふりをしたとは考えられないかしら?」

と、私は言った。

「親の注意を引くために…」

と、黒猫が呟くように言った。

「そう。そこまですればやっと自分の気持ちがわかってもらえるって思ったんじゃないかしら。そうだとすれば、カーチスの叔母さんから聞いた話も納得できるのよ」

と、私は黒猫に、メリルから聞いた話をなぞった。

去年の12月12日、メリルが故郷に娘のマリアを連れて行った日だ。ジミーの死についてカーチスの叔母に訊ねた時、叔母はメリルにこう言った。

「ジミーの車を発見した人が、車内から窓の隙間をこれでもかって程にガムテープで埋めてあったって言っていたわ。あれだけ頑丈にテープを張りめぐらせるだけでも骨がおれることだったろうって証言するくらいにね」

って、確かそう言っていたわ。

「私、その時は何気なく聞いていたんだけど、その後もその言葉がずっと引っかかっていたのよね。それって、不自然なほどにガムテープが張りめぐらされていたってことじゃないの?」

と、私が言った。

黒猫は黙って考えていた。私は続けた。

「人間って、嘘をついたり、取り繕う時って無意識にわざとらしくなったり、オーバーになったりするものじゃないかしら。まさに自殺にみせる嘘、演技のつもりだったからこそ、そこまで不自然に張りめぐらせる必要があったとは考えられないかしら?」

と、私はジミーの死の仮説を言い終えた。

「なるほどね」

と、黒猫が言った。

そして、私はこれこそが重要だとでも言うように続けた。

「もし、私の立てた仮説が間違いじゃないなら、すべての謎が解ける気がしない?ロイとトムが真っ黒い姿で現れて、ハリスとジミーが白い姿だったこと」

と、私は言った。

黒猫は、実はロイが事故じゃないこと、ジミーが自殺じゃないこと、の頭の整理がまだついていないようで、頭を掻いていた。

私は黒猫の答えを待ちきれず、うずうずして言った。

「要するに、自殺の人は黒くなるってことなのよ」

黒猫がはっとしたように目を見張って、そうか、と納得の表情で頷いた。

「それで私、一年ぶりにメリル・グリーンに連絡をして来てもらったの。今の仮説を話すためにね」

と、私は言った。

「メリルはどう言っていた?」

と、黒猫が訊いた。

「そう考えるとすべて納得がいきます、って言っていたわ」

と、私が言った。

「今さら、自殺が事故で、事故が自殺だったとわかったにしろ、どうなるものでもないような気がするけど」

と、黒猫が言った。

それを言っちゃーおしまいよ、と私はおどけて見せて

「今さらどうなるってものでもないけれど、メリルやマリアたちは真実を知りたいはずなのよ。いや、知らなきゃいけないと思うの。だから連絡したの」

と、私は言った。

「そう言えば、メリルの弟がハリスは自殺だと思っていることに、メリルが悔しがっていたわね。自殺を事故に覆す証拠がないって。さぞハリスも不本意だろうって」

と、黒猫がメリルの言葉を思い出して言った。

「そうなのよ。だから出来るだけ真実を明らかにしなくちゃいけないと思うの」

と、私はきっぱりと言った。

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