第41話 家族の連鎖
12月12日、メリルとジョージとマリアはメリルの故郷に車を走らせた。カーチス家の人たちに会うために。ジョージは、突き出た半島にあるメリルの故郷を目指して海岸線に沿って車を走らせた。
「ジョージパパの故郷に向かう時も海が印象的だったけれど、ママの故郷も海に沿って走るのね」
と、マリアが車窓から海を眺めて言った。
「そうよ、小さな漁師町だって言ってたでしょ」
と、メリルが言った。
「ママの家は漁師じゃないんでしょ。それにカーチス家も」
と、マリアが訊いた。
「ええ、もともとロンド家は厳格な家で、ママのお父さん以外はみんな立派な方だったらしいわ。カーチス家は地方では名の知れた資産家よ」
と、メリルは答えた。
「ジョージパパの故郷の海は、潮の渦が有名だったけれど、ママの故郷はどうなの?何か有名なものはある?」
と、マリアが訊いた。
「そうねえ、クジラかしら」
と、メリルが答えた。
「クジラ!ってあの潮を吹くクジラ?」
と、マリアが目を見開いて訊いた。
「そうよ。もうママも故郷を離れて30年が経つから、海の環境がだいぶ変わっているかも知れないけれど、ママが子供の頃には海岸線を歩いているとクジラの親子が潮を吹く光景がよく見られたものよ。もともとクジラ漁が昔から盛んだったところだから。半島の先端にはクジラの博物館もあるのよ。それから、有名といえばウミネコの大群が飛来する海洋公園ね」
と、メリルが答えた。
「ウミネコが飛来するですって、私行ってみたい!」
と、マリアが声をあげた。
「その海洋公園は白い石灰岩でできてることで有名なのよ。今は12月だからウミネコに会えるかどうかはわからないけれど、ママが子供の頃、夏にその海洋公園に行った時にはたくさんの群れがいたわ。そして、ウミネコとはよく言ったもんだわ、ほんとにニャーニャーって猫みたいに鳴くの」
と、メリルが言った。
「そうなんだ。本当はママの故郷も良いところなのね」
と、マリアが遠くを見るように言った。
「そうねえ、綺麗な海が売りの観光地でもあるから、そういう意味では素敵なところだと思うわ」
と、メリルが言った。
「でも、子供の頃にママからそんな話を聞いたことがなかったわ。故郷の話になると決まってママが暗い顔をするから、私もエイドもママの前で故郷の話に触れちゃいけないんだって無意識に感じていたから」
と、マリアが言った。
「そうねえ、確かにそうだったわ。あの頃は、今のように故郷を素敵な場所だなんて言えなかった。思い出すのも嫌な場所だったから。でもそんなママのせいで、マリアやエイドにまで故郷を嫌いにさせちゃったのね。今になって愚かなことだと思うわ」
と、メリルが言った。
マリアは黙っていた。
「親子が似るっていうのは、単に顔かたちが似るだけじゃなくて、価値観や習慣や思考癖まで知らず知らずのうちに似るものじゃないかって、今さらのように怖くなるの」
と、メリルが言った。
「一般には、虐待の連鎖ってこともよく聞くけど、それも同じことかしら?」
と、マリアが訊いた。
「そうだとママは思うわ。だから、連鎖を食い止めるためには、誰かがその繰り返されるパターンを止めて、流れを変えなきゃいけないの」
と、メリルが言った。
「そのために、誰かが変わらなくちゃいけない。今までと違う流れをつくるために」
と、マリアが真剣な面持ちで言った。
「今、まさにメリルもマリアも変わろうとしているんじゃないのかな」
と、それまで黙ってハンドルを握っていたジョージが言った。
「ママや私だけじゃないわ、まさにジョージパパもね」
と、マリアが言った。
「私たちが変わることで新しい流れをつくって、悪い連鎖じゃなくて良い連鎖を作るしかないって、ママは思うの」
と、メリルが言った。
「そのための家族の団結ってことね、間借りのジミーが言っているのは」
と、マリアが言った。
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