第35話 エイドの挑戦

まさに晩秋。その日は朝から雨が降っていた。ひと雨ごとに冷たさを増し、冬の到来を知らせるように。


私は、出窓に打ちつける雨だれを見ながらため息をついた。

「早いものね、この季節になると、もう一気に年末が押し寄せてくるような気になるわ」

と、私が言った。

「年末って言うと、間借りのジミーの命日だね」

と、黒猫が煙草をふかしながら言った。

そこに、メリルとマリアとジョージがやって来た。ジョージは先日会ったエイドの様子を話してくれた。

「エイドは今、それは一生懸命に勉学に励んでいるようで、正直感心しました」

と、ジョージは言った。

そしてエイドが、学校の様子や、努力の甲斐あって成績がいつも首位にいることも話したという。昼間、学校に通いながらの夜はアルバイト生活で、体は大丈夫なのか、睡眠は取れているのか、とジョージは訊いた。

「多少の無理は覚悟のうえだし、まだ若いから数時間寝ればやっていけますよ、とエイドは言っていました」

と、ジョージは言った。

「マリアと衝突したことについては、何か言っていた?」

と、私はジョージに訊いた。

「いいえ、それについては何も。敢えてそこには触れてこないといった感じで…」

と、ジョージが続けた。

エイドは終始、自分が学んだ新しい知識についてジョージに語り、それ以外は、ハイスクール時代からの友人との時間が何よりの休息だと語った。そして、今は何もかもがうまくいっているのだ、と。ジョージは、努力の成果だね、とエイドの頑張りを認めた。

「そのうえでエイドに、順調だからって油断は禁物だよ、とつい言っちゃいました」

と、ジョージは頭を掻きながら言った。

すると、マリアが合いの手をいれた。

「ジョージパパが言ったその言葉に、エイドったら急に顔色が変わって、ジョージパパまで俺が死ぬとか言い出すんじゃないでしょうねって食って掛かってきたらしいの」

と。

そして、ジョージは続けた。

ジョージは気色ばんだエイドに一瞬慌てたが、反対にとぼけてみせた。

俺が死ぬってどういうことだい?エイドが死ぬのかい?と。

「それで、エイドは何て答えたの?」

と、私は訊いた。

「はい、私が長男のことを言いにきたのではないと安心したようで、その事についてはそれきりでした」

と、ジョージが言った。そして、エイドの話を続けた。

エイドは冷静さを取り戻して、ジョージの仕事について訊いたという。ジョージは、20年以上も同じ職場で我ながらよく続けてこられたと思うよ、とエイドに話した。エイドは将来の展望についてジョージに熱く語った。ジョージは、エイドならきっと夢が叶えられるよ、と励ました。

「エイドから未来に対する希望というか、野望みたいな、そういうものが伝わってきました。私はそういう熱いものを感じたことがなかったので、なかなかエイドは凄いな、と思いました」

と、ジョージは言った。

「それにしても、エイドもかなり長男の話に過敏になっているわね」

と、私が言った。

「はい、私もそう感じました。実は誰よりも気にしているのはエイドじゃないかと」

と、ジョージが言った。

「そうかしら、そんな非現実的なこと、って馬鹿にしていたわよ」

と、マリアが言った。

「でも、どうでしょうか?もし自分がエイドの立場で、次はあなたの番よ、と言われたら…」

と、メリルはエイドの気持ちにあらためて寄り添うように言った。

「そう言われて平気な人はいないかもね」

と、私が言った。

「平気じゃないからこそ、俺の力でその“業”とやらをねじ伏せてみせるって意気込んでいるのかも知れません。エイドはエイドなりに必死に戦っているのかも」

と、メリルが言った。

「でも、戦い方が違うんじゃない?」

と、マリアがあっさりと言い捨てた。

「あんたも偉くなったわね」

と、黒猫が言った。

「そりゃそうでしょ。こうやって毎日ママやリンダたち、間借りのジミーと付き合ってんのよ。少しは大人になるわよ」

と、マリアが言った。

「今は取りあえず、学校を卒業することが当面の目標でしょうから、黙って見守るしかないと私は思います」

と、ジョージが言った。

「見守っているだけでエイドを救えるの?家族の団結は?」

と、マリアが言った。

「まだ時間はあるよ、マリア。エイドはなかなか賢い子だから心配しなくても気づくと思うよ」

と、ジョージが言った。

「そうね、エイドを見守りながら、今家族として私たちができることをやっていくしかないわね」

と、メリルが言った。

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