パンが消えた。
雫石
No.1 「パンが消えた。」
ある日、パンが消えた。そのことを、僕は早朝六時半の食卓で聞いた。
テレビはけたたましく喚きながら、その事件について語っていた。パンが消えました。パンが消えました。
どこだかの国立大学の経済に詳しい人間が出てきて「これは非常に危機的な問題です」と言った。
なるほど、と僕はトーストをかじりながら思った。
そのトーストは、もはやトーストというより、イチゴジャムであると言った方が賢明なほどにジャムが塗りたくられていた。
指先がべたつき、そのたびにナプキンで拭った。次に場面が現地からの中継に切り替わったところで、僕はテレビを切った。そうすると、テレビは黙った。
黒く、何も写さなくなった画面を眺める。しばらくそうしていると、沈黙で耳が痛くなる気がしたので、僕は再びテレビをつけた。
その時には、テレビは再び専門家の大変ありがたいお話を映し出していた。
気が付けば、手の中のトーストも消えていた。世の中不思議な事が起きるものだな、と思った。
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