そうして腐れ剣客はここにいる
「と、いうわけで、今日から我々と共に行動を共にするオウガイ君だ」
「皆、よろしくのう」
「いやよろしくじゃねぇよ誰だテメェ!!!」
フィーゴによるよく分かる異世界講座から一夜明け、早朝。
太陽が登り大地を照らすその一角で元気にツッコミを飛ばす少年の声が響いた。
朝早くから叩き起こされ不機嫌な赤毛の少年――リット。
彼の前には日頃口うるさい教官と、何故かその隣で当たり前のように突っ立っている半裸の男の姿があった。
ただでさえ意味の分からない状況なのに更にはこの男が自分たちと一緒に行動すると言われてはいそうですかと素直に頷けるわけがない。
「彼は昨日レベッカ君が洞窟内で遭難中、偶然出会った一般人だ。
【墜界】の生成時に巻き込まれたようでその影響か記憶がないとのことだが、孤立していたレベッカ君を独力で救出した実力者でもある。
今回はその実力を見込み我々に同行してもらうことになった、基本は後ろで見学をしていてもらうだけだが折を見て戦闘にも参加してもらうつもりだ。君たちもそのつもりでいてほしい」
いきり立つリット少年をあえて無視し、他二人へ向けて簡単な説明をするフィーゴ。
実は昨夜の異世界講座が終わった後、その場にいた三人である話し合いが行われていたのである。
それは主に鴎垓の扱いに関するもの。
フィーゴとしては一般人である鴎垓には訓練が終わるまでここで待機してもらうつもりであったが、それに対して反対の意見を出したのは意外にも鴎垓ではなく、ここまで沈黙を保っていたレベッカであった。
彼女が鴎垓の同行を望むのには、彼の参加による攻略難度の改善と、もしもの時に自分の抑え役になってもらうという二つの理由があった。
そのことを聞かされたフィーゴは確かにそれは有効かもしれないと考え、最終的に鴎垓の了承もあって今のこの状況が出来上がったというわけである。
とはいえそのことをわざわざ言う必要もないのでここではあくまで鴎垓の参加するという表向きの理由だけを話している。
大人しくそれを聞いていた他の二人――ディジーとミーリックは急な参加者の存在に戸惑いつつも教官がそういうのであれば納得するタイプ。
しかしリットはといえばこれまでのことを見て分かる通りそんな説明でおさまるほど大人しい気質をしていなかった。
「ふざけんじゃねぇ! いきなり勝手なこと言ってんじゃねぇぞ!
マヌケを助けただか何だか知らねぇが、灯士でもないような奴が俺たちに着いてくるなんて、そんな許可するわけねぇだろうが!!」
彼からすればありえないその提案に声を大にして非難を浴びせるリット、それを正面から受け止めるフィーゴは厳めしい顔を更に歪ませ目の前の少年を睨み付ける。
「ほう? では君は
「そ、それは……」
フィーゴのいう
「彼女が崖から落ちる原因はリット、君が言いつけを破り独断専行をしたことにある。
君を庇ってくれた彼女にマヌケなどと……本来なら自分の判断により今っ、この場で君へ帰還を命じなければならないところを被害者であるレベッカ君の訴えで取り止めているのだ。
そしてこのオウガイ君の参加は彼女たっての希望でもある。
これでもまだ、君は己の我儘を押し通すつもりかね?」
もしそうなら自分にも考えがある――。
フィーゴがそうやって暗に脅しをかけるとリットは渋々とだがこの状況を受け入れるのだった。
そうして鴎垓がこのチームに参加することがこの場にいる全員に周知されるのだった。
「それでは各自準備をして十分後ここに再び集合だ。抜かりないよう確認は怠らないように、オウガイ君はその間ここで舞っていてくれ。
渡したいものがある」
フィーゴの号令に従って皆が準備に動く中、待機の命令に手持ち無沙汰となっていた鴎垓のところへふらりと現れたのがフランネルである。
彼女は自分が商人であることと、新しい商品開発のための調査にフィーゴたちについて来ていたことを告げ、鴎垓を自分の商品開発のモデルにすると一方的に宣告したのである。
そして昨日のメイドたちをけしかけるとその場で鴎垓を着替えさせるとその出来映えを自画自賛しながらその服を着て戦うところを検証させてほしいということを言ってきた。
どうやら昨日の採寸取りはこのためだったらしく、着なれぬというのにやけに体にピッタリで驚く鴎垓。
そこへ丁度よく準備を終えテントから出てきたフィーゴにこれはありなのかと聞けばこの少女、なんとギルドの出資者の一人娘であるようでその要望はできる限り叶えねばならないらしく、フィーゴが平謝りで頼むものだから鴎垓としても断るわけにもいかず、こうして少女商人のご要望を叶える段取りとあいなったわけである。
その後ようやく準備が整った元の五人に途中参加の鴎垓を足し、そこにフランネルご一行というそこそこの大所帯になった集団は再び洞窟を目指し仮の拠点から出発したのであった。
――そして場面は戻り、
新人たちの手際の悪さに苦戦しつつもゴブリン退治を終わらせたがフィーゴたちが鴎垓とフランネルが待つ後方へと纏まって歩いてくる。
無駄な動きをし過ぎた新人たちとフォローに奔走していたレベッカが既にヘトヘトなのに対し、あれだけ縦横無尽に動き回っていたにも関わらず息一つ切らさず集団の先頭を行くフィーゴの姿に年季の違いを感じざるを得ない鴎垓。
「おー、おつかれさん。
いやはや大活躍だったのう、流石は教官殿というところか」
「おお、オウガイ君か。
いやなに、いかんせん
本来なら彼らにはもっとじっくり訓練させたいところ何だが、流石にあの数相手だとね、今の新人たちでは荷が勝ちすぎていたから仕方ない。
それでどうだね、これが所謂灯士としての戦い方なのだが、参考になったかな」
「いやー凄いとしか言い様がないのぉ!
まさに疾風迅雷の如しよ、ああも動けりゃさぞ気持ちがええじゃろ」
「ははは、君は面白いことを言うな。
まあ出来なかったことが出来るようになる快感はあるさ、それでも年には敵わないのだから世知辛いのだがね」
そうやって談笑する二人。
昨夜腹を割って話したためか、お互い遠慮のない言葉を掛け合いながらも終始穏やかそのものである。
しかしその余裕のあるやりとりが癪に障ったのか、疲労困憊のはずのリットがまたも威勢よく鴎垓へと噛みつく。
「おいテメェ、何余裕ぶっこいてんだ! 次はテメェの番だろうが!
言っとくが俺たちは手助けなんてしねぇからな、群れに出会わねぇよう精々祈っとくんだな!」
「おいリット、君はまたそのようなことを」
「ああええんじゃよ、フィーゴ殿
儂ゃ気にしとらん」
リットの失礼な物言いを窘めようと声をあげかけたフィーゴに、子供のすることだからと言って下がらせる。
納得のいっていないような顔をするフィーゴであったが本人がそういうのであればと口を開くのをやめ、庇われたとでも思ったのかリットが苦渋を滲ませた視線で鴎垓を睨み付ける。
「それに、元よりそういう段取りじゃろうて。
儂もそろそろ仕事をせねばならんかったのでな、発破をかけてもろただけじゃよ」
そういって鴎垓は腰へと手を伸ばし――フィーゴから貸し出された剣の柄を撫でるのであった。
「さあ――お次は儂の出番じゃな」
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