1ページごとに驚く家庭物語

スヒロン

第1話 ウォーカー

           1

 ここは暗い地下室だ。

“ウォーカー”たちは、ここまでは来ないだろう。

 博人は、銃を腰元にしまい、地下室へ続くドアのノブを取った。

 ガキリ。

 致命的な音量と共に、博人の心が早鐘を打つ。

 ミスだ。

 鍵を物置に置き忘れ、さらに物音を立ててしまった・・・

「グウ、オオオオ!?」

“ウォーカー”たちは、音に敏感だ。

 奴らの浮き出た血管まみれの顔が、一斉にこっちを向く。

「逃げるぞ」

 妹に連絡を取りながらそう言う。

「無理だよっ!」

 結衣の声が聞こえる。

「走らないと死ぬ!」

「やっつけようよ!」

「弾薬がもうないんだ!」

 博人は走りぬいた。

 駆けて駆けて、駆け抜けた。

 もう足が使えなくなってもいい。

 最悪、この地下室だけでも守りたい。

 あそこには、大勢の仲間がいるんだ。

 自分が犠牲になることで、仲間と妹を守れるなら。

「ああっ、お兄ちゃん!」

 致命的なミス。

 眼の前に“ウォーカー”が二匹、銃を構える暇もない。首筋に“ウォーカー”たちが思い切り噛みつき、血管が千切れ、血が噴き出す。

 暗転する視界。妹だけでも守りたかった・・・

 そして、博人の眼の前に『YOU DEAD』の文字が現れ、テレビ画面いっぱいに広がった。

「もう、弾薬を節約しないからだよ。次はあたしだからねっ」

 そう言って結衣は嬉し気に、博人からゲーム機のコントローラーを取り上げた。


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