物真似スキルで異世界の神様にラリアットするお話

橘バナナ

第1話 キラーマシン(トラック)

「はぁ、はぁ、あああ!!!」

ここには逃げる少年が1人

「この角を、曲がれば、さすがにアレも通れないはずだ。」

途切れ途切れの息を繋ぐように、少年は1人叫んだ

「マジでなんなんだよあれ!」


時は30分を遡る


俺の名前は木村道貴(キムラミチタカ)、スーパーの特売に来ている

なんてったって今日は卵が1パック100円!これを逃して一人暮らしはできないだろう

親の元で働くのが嫌になり、晴れて都会デビュー!なんて呑気なことを考えていた俺だが、今となっては普通のプログラマーだ。収入もそこそこ安定しているが、将来性がないのがこの職業の怖いところである

なるべく出費は抑えたいところだ

そんなこんなでスーパーに着いた俺だが

「やっぱり行列だな...」

店前にはざっと見たところ20人近くの曲が並んでいた

「これでも開店30分前に来たんだがな。だが、ここで諦める俺ではないぞ!」

こんなこともあろうかと、人混みの中でもスラスラと動ける服装を準備してきたのだ。カバンは最小限、全身ジャージ、狙うは卵のみ。卵、卵だけだ!!

「さてと、開店20分前か。それまでソシャゲの周回でも」

と思っていた俺だが


1人の客が叫ぶ


「みんな、逃げろ!!!!!」

突然そんな事を言われてハッとしたが、急に動けるほど人間の体は便利ではない


バリーーーーーン!ドォォォォォオン!


なんと、目の前でトラックが店に突っ込んでいた

唖然とした俺だが、列に並んでいた客を巻き込み目の前が血の海になっている様子を見て


「あっ、ああ、うわああああああああああああああああああああああああああ!!」


ダメだ!早く逃げないと!

脳がそう言ってるように感じるほど、俺の体は反射的に動いていた

だがしかし、明らかに突っ込んだトラックがこちらに向き直して追いかけてくる

「はぁ!!なんで俺狙ってんだよ!ほか行けよ!俺まだ死にたくねぇよおい!!なんでこっち来るんだよ!!」

チラッとトラックの中を見たが、なんと無人。つまりあのトラックは完全に暴走した殺戮マシーンとなっているのだ。

ブオオオオオオオオオオオオン

時速70kmをも超えていそうな速度に、普通の人間である俺はもちろん真っ直ぐな道で逃げられるはずがないので

「クソっ!電柱ガード!!!」

トラックが通れなさそうな幅を探して、わざとその狭い道を通りながら逃げていた




「はぁ、はぁ、もう、大丈夫だろ...」

こうして狭い路地に逃げ込んだ俺は、無事九死に一生を得る事が出来たのだったが、外では叫び声が聞こえる

「まるで世紀末だぞ、しばらくここにいた方が良さそうだ」

そうして俺はTwitterを開く。近所の名前を入力して検索すると、それはもうイワシの大軍のようにヒットした

「俺ん家にぶつかりやがった!」「どこに逃げればいいんだよ!」「ダブハン取れた!」

まあ、一部呑気なやつもいるが。

「はぁ〜マジで死ぬかと思ったわ。こんな訳アリな展開で交通事故で死ぬとか、異世界転生のテンプレじゃあるまいし」

とりあえず生きてることに安堵して、油断してしまったのが俺の悪い所なのだろう

ゴロゴロガガガ

突如、目の前の建物が崩れ落ち始めた

「は、はあああああああああああああ!?」

やばい!誰か俺を助けてくれ!死ぬううう!

ゴゴゴゴゴゴゴドガガガゴォォォォォォォォォォォン......


「はぁ、はぁ、せっ、セーフ...」

命からがら、何とか狭い路地を出ることができた。


ん、狭い路地を、で、た...?



「よう、お兄さん、異世界転生は好きかい?」



目の前に迫るトラックが俺にそんなことを言ってるように見えた


俺はフッ、と笑い、そっと目を閉じた。

ゴリュ








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る