第31話 演奏終了後

「最っ低だったね……って言いたいけどおにいちゃんだから許す」

「どういう心境なの夏海ちゃん……。かいくんお疲れ。はいコカ・コーラ」

「俺炭酸苦手って知ってるよね? わざとだよね?」

「代金はかいくんのお財布から引き落とされているから安心してね。ダイジョーブ! 飲めなかったらボクが飲むから!」

「自分が飲みたいなら素直に言えよ。その方が可愛げがあるし」

「お兄ちゃん、今、寧々のこと可愛いって言った?」

「なんでお前はそこで張り合うんだよ!……もうなんか、疲れた」


 演奏より疲れるってどういうこと? 密度たかすぎぃ。

 俺はため息をつきながらコーラを受け取りのどに流し込む。俺の金だ。文句は言わせん。実際寧々はあーと悲痛な叫びを漏らしていた。ふん、ざまーみろ。そして咽る。


「げほっグッ、ガっゲホゲホ……はぁはぁはぁ……。なんてもん飲ませんだアホ! 死ぬとこだっただろ!」

「えー!? 自分で飲んでたのに!?」


 甘いのは好きだけど、炭酸が苦手。将来お酒飲めない。俺、酔えない……ハァ。


 コーラを寧々に押し付けると夏海が袖を引いてくる。あとでなんか買ってやるから嫉妬すんなと言おうと振り返ると指さしていた。

 その先には普段着に着替えていた月見里の姿がある。

 俺と遊園地に行ったような小洒落た格好じゃない。どこにでもある灰色のパーカーだ。髪もくるくるにからまっていて重たそうに見える。だが不思議と表情は晴れている気がした。


「おーい、月見里せんぱーい! こっちこっち、こっちですよ!」

「……」


 恥っず! こういう時ってどう対応すればいいの? ほんとわかんない。誰か教えて。

 月見里もアハハ……とひきつった笑いをしている。寧々のメンタル強すぎ案件。 だが呼ばれたからには無視するのは忍びない。月見里は歩調を速め俺たちに近づいてきた。……午後ティー買ってんじゃねぇ。

 午後ティー俺も飲みたいな。買ってこようかな。

 月見里はペットボトルの蓋をぱきっと開けながら歩いてくると寧々とハイタッチ。寧々はメンタル本当に強いなぁ。感心するわ。

 

「その、心配かけてごめんなさい」

「いえいえー、ボクは全く気にしてないですよ」

「少しは気にして欲しかったわ……」

「俺らより宇賀神に言えよ。あいつが一番心配していたんだから」

「明日美ならさっき会ったからその時に言っておいたわよ。会ってないの?」


 ……あいつ、月見里に挨拶して俺になしかよ。 

 月見里は苦笑しながら一口含み続けた。


「今日は本当にありがとう。それと邪険にしてきてごめんなさい。あれはその本心じゃなくてなんというか……」

「おい夏海。2位の人が素直だぞ。明日雪でも降るんじゃないか? 有希だけに」

「それ寒い。お兄ちゃんでも寒いよ……」

「……もういいわ。あなたには今まで通り接していく」


 今度は寧々がひきつった笑いをして俺と月見里を交互に見ていた。見てんじゃねぇよ。助けろアホ。

 呆れたように息を吐いた月見里は少しだけ顔を背けるとさっきよりも小さな声で話し出した。


「さっきお母さんと話してきたわ。その、自分の意思を伝えてきた」

「おーそうか」

「結構な言い争いになってね、演奏より疲れたわよ。全く、話聞かないんだから。だからお父さんにも逃げられるのよ」

「んん? まぁよかったな」

 

 なにやら不穏な言葉が聞こえてきたが突っ込んだら危険なにおいがしたので心に留めておく。寧々も察したようで黙っていた。

 

「それで、最終的にどうなったんだよ。押し切れたのか?」

「ええ、まぁ、そうね」

 

 まとめるとこういうことらしい。

 月見里母は最初は食い下がってきたのだが月見里が普段見せない頑固さとわがまま(俺が見せられていたのは一体。わがままとはなんぞや)を発揮するとしぶしぶ折れてくれたらしい。

 今までは母親が強情だったからあきらめていたが、


「意見を言えば通るものね。言わなきゃ損だわ」


 ということらしい。これはこれで危ない気もするが。ま、俺は関係ないです。知りません。

 親子関係も前よりはよくなった、のかな? そんなところだ。


「さて、結果発表そろそろだが、見るか?」

「どうせお兄ちゃんはビリだよ。それか論外」

「かいくん暴走してたもんね」

「言い方、言い方気を付けて。ほら、観客の反応もよかったじゃん。ね?」

「確かに良かったけどさ」

「お兄ちゃん……はぁー」


 ガチのため息じゃん。傷つくわ。

 俺も負けじとため息をつき結果発表のは見ずに帰る旨を係員に伝える。講評は郵送でお願いし3人に向き直った。

 

「さて。帰るか」



―――なかがき


 次話で第一章最終話です。最後までお付き合いください!

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