10.クレプス
現れた作業台の前でショウは作成物のカテゴリを絞っていく。
予想通りと言うべきか、ノートが提案したガントレットは盾の項目に入っていなかった。
次に防具、腕と目に映る名前の羅列が目まぐるしく変わっていく中で、目的のモノを見つけるショウ。
『ガントレット』の名前を選択する。
すると立体空間に置かれた作業台に金属製の籠手が3Dモデルで表示された。
よく街で見かける冒険者などが装備している一般的な防具。
ゲームの世界では新鮮味も面白味も無いそのモデルを見ても、ショウの気分はあまり上がらなかった。
「なぁ、ノート。これ、やっぱり盾を作った方が良いんじゃないかい?」
肩越しに御者台でこちらを眺めていたノートに、ショウが意見する。
それに対してのノートの反応は、笑顔での頷きだった。
「お兄さんの言いたいことは分かるさ。こんな『普通』のヤツじゃさ満足できないんだろう? だーいじょうぶ、ちゃんと考えてあるさね」
「考えって……デザインを変えるとか?」
「それもあるけれど――私が試したいのは、『これ』さね」
御者台から降りてきたノートがショウの隣へ並び、表示されているガントレットの『使用素材』の欄を指差した。
作成の際に使われる素材は、『皮』、『布』、そして『インゴット』。
それぞれのカテゴリに分類される素材のランクによって作成物の品質、性能、レアリティなどが決まり、希少素材などを追加してスキルの付与も行うことが出来る。
皮の場合、レベルの低いフォレストウルフの皮より強敵なデザラプトの皮を使った方が上質なモノを作れる、といった具合だ。
その中で、ノートが指を差した素材は『インゴット』だった。
ショウはその真意が掴めず、首を傾げる。
「えっと、どういうことだい?」
「つまりさ、この使用素材の金属を『盾』に変えるのさ。そうすれば、盾としての役割を持った籠手が出来る、ってわけさね」
「そんなことが……あっ! そういえば、俺がゲームを始めた頃にケンも『シールドクレイモア』って武器を持っていたな。攻撃力は下がるけれど、盾としても使えるって」
「それもひとつの例さね。このゲームは工夫次第で『なんでも』作れるのさ」
「なるほど……それは面白そうだ」
「おっ、良い顔になったね。それじゃ、まずはガントレットを作成予定に入れて、これに使う盾を見てみようさね」
俄然やる気が出たショウはノートの助言を受け、とんとん拍子に素材となる盾を選んでいく。
以前使っていたウッドシールドより大きく、防御性能が高い『カイトシールド』を選択し、素材を決める。
アヤたちとの決闘が終わってからろくに採取へも行けてなかったこともあり、手元にあるのはそれ以前に集めた素材の残りと、イベント初日にアヤと討伐した(ショウは居ただけだが)『アースイーター』の素材で作成することにした。
同じアースイーターの皮と言ってもそれにも品質があり、レベルの高い個体からドロップした高い品質の素材などは装備することになるガントレットへ使うようにする。
他にも希少素材や上級素材と言われるモノは除き、ひとつランクを落とした素材でカイトシールドを作成することになった。
「あっ、『自動防御』のスキルはさ盾に付与しておこうか。その『ヒヒイロカネ』で付けられるはずだからさ」
「ん? 良いけれど、どうしてだい?」
「発動した時のダメージカット率が違うのさ。盾に付与しておいたものを引き継いだ方が高性能のまま使えるっていう小技さね」
「ははっ、確かにこれは熟練者にしか分からない技かもね」
自慢げに鼻を指で擦ったノートが、胸を張る。
もっと褒めて欲しそうな雰囲気に気付かないふりをして、ショウはカイトシールドを作成した。
光が粒となって弾けると、姿を現した盾をそのままにして、続けて新しいスクロールを消費するショウ。
先程チェックを付けたガントレットを選択し、再び3Dモデルを呼び出す。
「使用素材の変更と……追加。よし、後はデザインだけれど」
「お兄さんってさ、右利きだよね?」
「ああ、そうだよ」
「じゃあ右手は取り回し重視で肘下までにして、逆に左手は肘の上までカバーできるようにするとかさ」
「左右に役割を持たせるのは良いね……えっと、こんな感じかな?」
ガントレットの形状を変更するように動かしていた手を止めたショウがノートにそれを見せる。
覗き込むように彼の身体にすり寄るノート。
ふんふん、と頷く目下の髪から良い香りがショウに届く。
曲がりなりにも忍者なのにこんな香りがして良いのだろうか、と頭で考えながらもショウは頬を赤らめて、鼻の頭を掻いた。
「んー、なかなか良いと思うさね。さっそくこれでさ作ってみようよ」
「……了解っと」
確認が終わり、自分から離れていったノートが期待の目を向けて来たので、ショウは腰に掛けていた『万能槌』を手に気合を入れる。
先程までの邪念を振り払うように集中し、設計図を保存して立体空間を閉じる。
編集したガントレットの設計図と、その上に置かれたカイトシールドとその他の素材、それらに向かい、槌を振るう。
盾の作成と同じように使用されたモノが光に包まれ、一つになる。
それが弾けると素材ががあった場所に、イメージ通りのガントレットが姿を現した。
『クレプス:自分用に作ったフルプレートガントレット。作成者:ショウ・ラクーン 【物防アップ・神】【HP増加・神】【自動防御】【マルチガード】【特効耐性・神】【属性攻撃耐性・神】【反射効果時間延長】【神通力】【一心集中】』
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