13.フォレストウルフ討伐
林の中へ戻り、再開したフォレストウルフ討伐任務は順調に進んだ。
正面からの攻撃はショウが防ぎ、スタンを取る。
その隙を突いてルナールがとどめをお見舞いする。
回り込んだり奇襲をかける増援には、セラスが本領を発揮した棍術で『吹き飛ばす』。
それぞれの立ち回りがうまく嚙み合うようになった頃、ルナールからひとつの提案を出された。
「あたいひとりで戦ってみたいっす。今の自分の実力がどれほどなのか知りたいので」
その提案に、ショウは――
「分かった。でもまずは一対一でやってみよう。他の相手は俺とセラスに任せて、全力でやってみると良い」
「はいっす、アニキ!」
一回の戦闘で複数の狼を相手にすることが恒常的な戦いで、最初からいきなり全部の相手は不安に思ったショウは条件を出した。
しかし、それは杞憂だったと次の戦闘で知ることになる。
「ほっ! はっ! ていっ!」
『ギャ、ギャワンッ』
ショウが作った外衣を羽織ってから、ルナールの動きが格段に良くなっていた。
瞬時に距離を詰め、攻撃。相手からの攻撃は素早く身をひるがえして躱す。
与えるダメージは大きくないものの、そのパターンを繰り返しているうちに一匹の狼が光の粒となった。
「やるじゃないか、ルナール。全く危なげが無かったよ」
「へへっ、どうもっす。それもこのアニキの作ってくれたマントのおかげっす!」
「どうする? 次は二対一でやってみるか? 危なくなったら援護に入るから」
「やってみたいっす!」
生き生きと頷くルナールを見てショウは、素直な子分……というよりお転婆な『妹』ができたような気分になる。
ピョコピョコと動く耳に目が行き、思わずルナールの頭を撫でてしまうショウ。
反抗するわけでも無く、彼女は少し照れながら尻尾を揺らした。
『ギャインッ』
『ギャワンッ』
『キャンッ』
続けざまに狼三匹分の断末魔が聞こえ、二人は振り向いて身構えた。
少し離れた所で援護に回っていたセラスの方向から聞こえたため、ショウは一瞬肝を冷やす。
「セラス、大丈夫か!? ……セラス?」
駆け出そうと足に力を入れたショウが見た光景は、昇っていく大量の光の粒に囲まれたセラスの背中だった。
その物々しい雰囲気を醸し出していた背中が、ゆっくりと二人に向き直り――
「すいません、つい力を入れ過ぎたみたいです」
てへっ、と笑うセラス。
目だけが笑ってなかったが、どうやら狼たちは憂さ晴らしに付き合わされたようだ。
ショウが彼女に駆け寄り、辺りを見回す。
どうやら危険は無いようだ、と確認すると――
「ルナールばかり気遣ってごめん。今度からはセラスもフォローするからな」
ショウはルナールにやったように、セラスの頭を撫でる。
それを受けて、セラスはビクッと小さく肩を跳ねさせるもそれ以上の抵抗は見せずに、大人しくなった。
「ひゃっ――ショ、ショウさん。あの……もう、これじゃなんで私、モヤモヤしてるのか分からないじゃないですか」
「ん? ……まぁ、無理だけはしないこと。何かあれば言ってくれ」
「は、はい」
「さすがアネゴっす! 一気に三匹も倒すなんて! すごいっす!」
そんなセラスにルナールが飛びつく。
回した腕の力を強くすることで興奮を表す様に、テンションを上げた。
「あ、ありがとう。その……ルナールもごめんね」
「? なにがです?」
「ううん、なんでもない」
そう言ってセラスがルナールと顔を見合わせる。
お互いに笑い合う二人を見て、ショウは肩を竦めて軽く息を吐いた。
なにか様子がおかしかったセラスも、いつも通りに戻ってくれた様で安心する。
「ルナールの方はもう少しだし、俺たちの方もこの調子でちゃっちゃと片付けよう」
「はいっ!」
「了解っす!」
その後そんなに時間を掛けずにフォレストウルフ討伐クエストは二つ分、無事に終了した。
――
街への帰り道。
街道を歩いていた三人はクエスト達成条件を満たしたことを喜びながら、軽やかに歩を進めていた。
しかし、道の先に城壁が見える所まで来ると、セラスとルナールの顔に陰りが出始める。
「あの、アニキ――」
「ショウさん、やっぱり今回の件は私ひとりで解決したいと思うんです」
「……」
セラスが俯き、申し訳なさそうな声色でショウへ言った。
その言葉にルナールも続く。
「あ、あたいも。クランからはもう抜けてるし、クエストさえ報告できれば奴らとは縁切りだし、それからは自由にできると思うっす」
「元々、棍を管理できなかったのは私の責任です。ショウさんに矢面に立ってもらう訳には――」
「ふ、ふたりとも、ちょっと待ってくれ」
セラスとルナールに詰め寄られたショウは、手を上げて一旦彼女たちの話を止める。
「俺は別に率先して騒ぎを大きくしたい訳じゃない。たいして力になれないかもしれないけど、もしもの為に傍で見守っていたいだけだよ」
「それじゃ、やっぱり街へ行くんですか?」
「うん。ルナールの件はもう過ぎた事だし今から何を言っても相手にされないだろうけど、嫌がらせなんかの可能性はあるだろ? 俺たちが一緒ならそういうのもやりづらいと思うんだ」
「アニキ……」
「逆にセラスに関しては、ギルドが関わるかどうかで対応が変わってくると思う。これからいろんな冒険をするために、綺麗に片付けておいた方が絶対に良い」
「それは……確かにその通りだと思います。でも、もしショウさんが作ったモノだってバレたら、また迷惑が――」
「その時はその時だよ。それに、大切な仲間のことで蚊帳の外になりたくない。協力させてくれ」
二人の頭に手を置いて、ショウは自分の決意を語った。
それを一身に受けたセラスとルナールは頬を染めて、照れ笑いを浮かべる。
「頼りになる『アドバイザー』も居るし、とりあえず俺たちは普通にクエスト報告をしよう。リリィさんにも話があるし」
「わ、分かりました」
「よし、じゃあ行こうか」
頷く二人を見て、ショウは歩き出す。
随分と懐かしく感じる始まりの街、『エーアシュタット』へ向けて。
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