14.薬草集め

 初めてのモンスター討伐を終え、しばらく休憩した後、ショウとセラスは連れ立って丘を過ぎた林の入り口まで来ていた。

 木々通しの間隔はそれなりに広く、昼間の今であればそこは木漏れ日が差していて十分に明るい。


「それじゃ、セラスも薬草を集めに?」


「はい。プリーストだと戦闘力が低いらしく、討伐の依頼は難しいだろうと、ギルドの受付の人が」


「経緯は俺と一緒か。俺も同じことを言われたよ」


「本当はお兄ちゃ――知り合いが一緒にプレイしてくれるはずだったんですが、用事ができたらしくて。それで私ひとりで……」


「ははは、そこも一緒だ。いきなりひとりでって言われても、困るよね」


「まったくですね」


 お互い顔を見合わせて、笑い合う。


「それじゃ、今日のところは協力して薬草を集めないか?」


「それはこちらこそお願いしたいくらいです!」


「って言ってもさっきの戦闘を見てれば分かったと思うけど、あまり役には立たないと思う」


「そんなことは……このお借りした杖、とても手に馴染んで良い感じですし、誰かが一緒だと心強いです」


「気に入ってもらえて良かった。じゃあ、さっそく探してみようか」


「はい! 他の冒険者の方からの話だと、林に入ってからすぐに生えているらしいですけど……」


 頷きながら、セラスは自分の足元をキョロキョロと見回した。

 ショウも倣って地面を注意深く見てみる。

 先ほどの戦闘ではまったく貢献していない彼にとって、ここで名誉挽回して年上の威厳を保ちたいところであった。

 が――


『モォー』


 ショウの隣にいた仔牛が何かを見つけたようで、ある木へとショウを『引っ張っていった』。


「あっ! あれじゃないですか?」


 セラスが木の根元に生えている青々とした草を指差す。

 光に当てられているからだろうか、その草は他の雑草と比べると特別な光を放っているように見えた。

 二人は近づき、ショウがその草に触れる。

 すると、触れた草がモンスターを倒した時のような光の粒となって消えた。

 視界の隅にアナウンスが表示され――


 『薬草×1を手に入れました』


 念のためにインベントリを開いて、アイテムを確認する。


「うん、これみたいだね。あとはこれを二人分の必要数、集めよう」


「分かりました。キラキラしているから見つけやすいですね」


「お前も、よく分かったな」


「もしかして、この仔はそういうのが得意なのかもしれませんね」


『モォー』


「そうなのか? じゃあ、適材適所ということで……」


 この分だと何とかなるかな、とショウは胸をなでおろした。

 あとはあまりモンスターと出会わなければ良いんだけど。

 林の中は明るく、それなりに見通しが利く。

 木の陰からいきなり出てこられるとさすがに驚くが、これならば注意を怠らなければ大丈夫だろう。


「では私が周囲を警戒しますので、ショウさんは薬草の採取をお願いできますか?」


「そ、その方が良いかもね。分かった、じゃあ次に行こう」


 目を輝かせながら鼻息荒く棍を構えるセラスの言葉に、ショウは苦笑いで答えた。

 出てきても良いように、というより出てこないかなと若干の期待を感じさせる雰囲気に、ショウは気付かない振りを決める。

 彼はセラスと共に仔牛に連れられて林を歩き出すのだった。


 ――


 それなりに時間を掛けて、ショウたちはなんとか必要数の薬草を集め終えることができた。

 林に入ったところまで戻ってきて、一度辺りを見回してみる。

 どうやらこの近くにモンスターは居ないようだ。


「この辺りは大丈夫そうだね。このまま道まで戻ろう」


「はい、そうですね。でもあまり油断しないように行きましょう」


「あははっ、結局出てきたモンスターを全部任せちゃったからね。セラスに従うよ。お前もご苦労様な」


『モォー』


 薬草集めの最中、スライムやアルマジロの殻を持った兎『アーマーラビット』と何度か遭遇した。

 しかしその戦闘すべてをセラスに任せたため、この時点でショウの立つ瀬はまったく無かった。

 彼はなにをしていたのか……囮役に徹していたのだ。


「そ、そんな……ショウさんが居てくれたから薬草も無事集められました」


「ここのモンスターが弱いのか、俺のHPを削りきるのに時間がかかってくれて良かった。防御力も低いみたいだし、俺」


「でもおかげで回復魔法の『熟練度』が上がりました! 私ひとりだったら、もっと時間が掛かっていたかもしれないですし」


「ま、まぁ……役に立ったなら良かった」


「そんなことより、早く戻りましょう! またモンスターが出てきても任せてください!」


 セラスが扱い慣れたように棍をブンブンッと振っている姿を見て、ショウは今日何度目になるか分からない苦笑いを浮べる。

 幸いにもモンスターと遭遇することは無く、街へと続く道に出ることができた。

 そこから二人は、安心したように雑談をしながら帰路へつくのだった。

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