第137話 商店街に到着
◆エルちゃん視点
「エルちゃん、本当に1人で大丈夫?」
「魅音お姉さんが一緒に付いてこうか? 良し! 手繋ごっか♪」
「だいじょーぶなの! ちとりでいけゆもん!」
「本当? お姉さん心配だなぁ......」
「んみゅ! もんだいなち!」
ぐぬぬっ......瑠璃奈お姉さんと魅音お姉さんが心配してくれるのは嬉しいですが、これは僕の闘いなのだ! 1人でおつかいと言う任務をこなさなければ意味が無い。お姉さん達の好意を無下にするようで後ろめたい気持ちではありますが、ここは丁重にお断りをしよう。
それにこれ以上イチャイチャしてるとかえでねーたんに申し訳が無い。別に浮気をしてる訳ではありませんが、この光景を見たらかえでねーたんが悲しむかもしれない。好きな人を悲しませる事は紳士として失格だ。
「そっかぁ〜エルちゃん、怪しい人に付いて行ったら駄目よ?」
「んみゅ!」
「エルちゃんの決意は分かったよ。ならお姉さん達は陰ながら応援してるね♪」
「エルちゃんファイトだよ♡」
「あいあと!」
最後にお姉さん達に再び抱きしめられてキスをされちゃったけど、こうして警察のお姉さん達と僕は別れ目的地へと向かうべく公園を後にしました。
「…………」
別れた筈でしたけど......あれ、瑠璃奈お姉さんと魅音お姉さんが付いて来てる? 木の後ろに隠れてるつもりだろうけど、普通に丸見えだ。
「…………」
まあ良いか......気付かないふりをして進もう。僕も大人だからね。ここはあえて指摘をせずにここから颯爽と立ち去るのがベストだろう。
「あ、おうだんほどーなの」
この白い線が引かれてる所の上は歩いても良い所なのだ。左右の確認をしっかりとして、青信号の時だけ渡る。僕も色々とお勉強をして覚えて来たけど、未だに分からない事ばかりです。あおいねーたん曰く交通ルールと言うらしい。
「みぎよち! ひだりよち!」
あ! 信号が変わっちゃった......ぐぬぬ。致し方無いですね。信号が変わるまで待つとしよう。
「んにゅ?」
お? あんな所に自販機がある。知らない間に自販機が新しく増えていますね。横断する前に少し見に行ってみよう。丁度喉も渇いていたし♪ 冷たいしゅわしゅわが飲みたい。
「しゅわしゅわ〜♪ ありゃ!? しゅわしゅわがないの!」
ふむふむ......黒いしゅわしゅわのジュースが無いのは残念ですが、代わりに初めて見る飲み物が売ってるぞ。しかし、この自販機と言う魔道具はいつ見ても凄い。お金を入れてボタンを押すだけで、どんだけでもジュースが出て来るんだもん。中身どうなってるのか開けて見てみたいものです。
「フリフリ? しぇいく?」
何じゃこれわ? 絵を見る限り、女の子がジュースを楽しそうに振ってる。ジュースの中にゼリーが入ってるのかな? お金には余裕が少しあるし......物は試しに買ってみるか? 未知の物には僕も興味がある。僕はある意味この好奇心のお陰で、かえでねーたんやあおいねーたんに教わった事をちゃんと覚える事が出来てるのかもしれない。
「ぐぬぬ!? と、とどかないの......」
こういう時は本当にこの身体は不便だ。欲しい飲み物のボタンが上の段にあるせいで、僕の身長だと背伸びをしても届かない。背のかっこいい紳士な男性に憧れるけど、僕のこの貧相な身体では期待出来なさそうだ。
「…………ごくり」
2つの方向から視線を感じる。ひとつはあの黒づくめの怪しい2人組と瑠璃奈お姉さんと魅音お姉さんの2人組だ。それに気のせいか上や物陰の隙間からも視線を感じる気がする。流石にそれは僕の自意識過剰なのか気にしすぎてるだけなのか......今日の任務は何かが起こりそうな予感がするぞ。
エルちゃんが首を傾げながら色々考えてる姿を見て、エルちゃんを見守る大人達とタマちゃん達は皆んな暖かい目でこっそりと見守っている。上空には沢山のドローンと高度500メートルの所にはヘリコプターが一機上空で待機をしている。
そして、エルちゃんが通る道や周辺は現在歩行者天国となり車の通行は禁止となっている。警察官が50名程付近を巡回し警備もかなり厳重だ。キララが警察に根回しをした結果である。
【いらっしゃいませ〜♪ 当たりが出たらもう一本♪】
「ふぁっ......!?」
おいおい、マジか。この自動販売機喋ったぞ!? まさか......こんな所でインテリジェンスウエポンに出会うとは思っても見ませんでしたよ。いや待てよ? これは本当にインテリジェンスウエポンなのでしょうか? 試しに挨拶をしてみるか。
「おはようなの♪」
【おはようございます〜♪ 当たりが出たらもう一本♪】
あ、挨拶が返って来た......やはりこの自販機は意志があると言うのでしょうか? ふむ......試しにお金を入れてみよう。
「ちまった!? じゅーえんだまがないの!」
気になるジュースのお値段140円かぁ......お札を入れる場所はあるけど、万が一にも5千円札を入れてお釣りが返って来ないと言うリスクもある。そう考えると自販機にお札を入れるのは怖い。
「こ、これわ......!?」
自販機の横......僕の視線の先には、何と100円玉が落ちていたのです! 10円玉が落ちてるのは見た事がありますが、100円玉が落ちてる所を見たのは初めてだ......
「ぐふふ♡」
まさに天下を取ったような気分です♪ 今日の僕は運が良いかもしれません。この100円を入れたらこのジュースが買える!
「…………」
ふむ、一旦冷静になろう。昔の僕なら何の躊躇いも無くこのお金を使っていただろう。だけど今は、僕はかえでねーたんやあおいねーたんの妹なのだ。僕のこの行動一つで、かえでねーたん達まで卑しい風に見られる可能性がある。
「よち......」
そうえば商店街の方にも交番があった筈です。ならばこの100円玉を交番に届けよう。前にかえでねーたんに教わったことがある。【道端に財布等の落し物が落ちてたら交番に届けるんだよ♪ 物を失くして困ってる人が居るからね】と言ってました。良い事をして徳を積むと周り巡って、それがいつか自分に返って来るのだ。
それにあおいねーたんもこの前こう言ってました。【良い子にしてるとクリスマスの日にサンタさんがやって来て、欲しい物を枕元に置いて行くんだよ〜♪】と言ってたのだ。
サンタさんにプレゼントが貰えるように精進せねば......サンタさんにかっこいい刀を僕はお願いするつもりだ。僕の持ってる伝説の杖だけでは少々心許ないからね。いざと言う時にかえでねーたんやあおいねーたんを守れるくらいには強くならなくちゃいけない。
「…………」
僕も一ノ瀬家の人間として恥じぬ行動を心掛けねばなるまい。かえでねーたん達みたいに僕も優しく思いやりの心を持つのだ!
―――――――――
★商店街にて★
人々の行き来が活発で活気に満ちた商店街。アーケードの下には、スーパーマーケットや個人商店が数多く並び何処か温かさと懐かしさを滲ませるような親しみのある場所である。エルちゃんはついに商店街の入口前へと辿り着くのであった。
「ふぅ......」
何とか無事に辿り着く事が出来ました。途中道を何度か間違えちゃったけど、何故か僕が行く先の道に工事中と言う看板が立っていて道が封鎖されていたのだ。早乙女建設と言う平仮名で書かれている看板がそこら辺に立て掛けられていました。
その他にも怪しい男の人に話し掛けられて、身の危険を感じたその時に、二足歩行で歩く目のキマッていた大きな兎さんと遭遇したのだ。その兎さんが奇声をあげながら怪しい男に突っ込んで行き、追い払ってくれたお陰で何とか命拾いをしました。僕はその兎さんにお礼を言おうとしたのですが、兎さんは僕に親指を立てて頑張れと言わんばかりに何処かに去って行きました。
他にも道中に色々とありましたが、何とか商店街の場所まで無事に辿り着く事が出来たのです!
「くんくん......じゅるり」
おお! めっちゃ良い匂いがする! この商店街に来るのも何度目でしょうか? かえでねーたんやあおいねーたんと一緒にこの商店街でお買い物をしてるので、僕は色々な方と顔見知りになったのだ。
―――エルちゃんはご機嫌な様子で商店街を散策し始めるのであった。
「お! エルちゃんじゃないか!」
「あ! おいたん!」
「お? 今日はお姉ちゃん達と一緒じゃないのか?」
「ふふーん♪ ちとりでおかいものなの!」
「あばやぁ! エルちゃん1人でおつかいかい!?」
「えっへん!」
ここのお店は田中精肉店と言うお肉屋さんで、僕に声を掛けてくれたのは田中のおじさんだ。ここのおじさんが揚げる牛肉のコロッケはまさに至高の一品です♪
「エルちゃん出来たてのコロッケあるぞ〜♪ 食べるか?」
「むむ!? たべゆ!」
「お金は要らないから好きなだけ食べな♪」
「おいたん、あいあと!」
「本当エルちゃんはめんこいな♪ 何だか孫が出来た気分だわい♪」
エルちゃんは精肉店の前にあるベンチに座り熱々のコロッケを美味しそうに頬張るのであった。
「もぐもぐ〜♪ コロッケおいちいの!」
「そかそか♪ エルちゃんは本当に美味しそうに食べるなぁ♪ 良し、コーラもサービスするよ!」
「ふわぁああ♡ しゅわしゅわ!」
「はい、どうぞ♪」
「おいたん! あいあと!」
「焦らずゆっくり食べなさい」
エルちゃんが美味しそうにコロッケを食べていると通行人の人達がエルちゃんを見てクスクスと微笑ましい様子で見つめていた。中には立ち止まってうっとりとしながらエルちゃんを見つめる者も居るくらいである。
「あらぁ〜エルちゃん! おはよう♪」
「やまだのおばしゃん! おはようなの!」
「あら? 楓ちゃんや葵ちゃんと一緒じゃないのかい?」
「ちとりでおかいもの!」
「ええ!? 1人でお買い物......大丈夫なのかい?」
「だいじょーぶなの!」
僕に話し掛けて来てくれた方は、精肉店の向かい側にあるお魚屋さんの山田のおばさんです。かえでねーたんやあおいねーたんを子供の頃から知っているそうで、お姉さん達と一緒にここを訪れた時は僕も良くしてもらってるのだ。商店街の人達は情に厚く優しい人が沢山居るので僕はこの場所が大好きです♪
「あ、そうだ。今朝、新鮮なマグロが入ったんだけどお刺身食べるかい?」
「さしみ?」
「あ、エルちゃん食べた事無かったかい? 待ってて、今持って来るさね」
マグロとなる食べ物は聞いた事が無いぞ? またしても僕が食べたことの無い未知の食材かな? 何にせよ美味しい食べ物に違い無い!
「マグロはお魚さんの事だよ。醤油に付けて食べると美味しいぞ〜おじさんも刺身は大好物だよ」
「おいちそう!」
「お、エルちゃんお刺身が来たぞ〜」
「おさちみ!」
エルちゃんの元にはいつの間にか多くの人が集まり、皆それぞれエルちゃんに食べ物や飲み物を差し入れするのであった。
◆
「はぁ......はぁ......」
「お姉ちゃん大丈夫?」
「ええぇ......何とか無事にエルちゃんを守る事は出来たわ。問題はここからよ」
エルちゃんにバレないように陰ながらサポートすると言うのは、思ってた以上に中々大変です。道中本物の不審者と出くわした時は、流石に私達が出ようと思ってたのですが、兎さんの着ぐるみを着た喫茶ラフォーレの店長、姫島のお兄さんがエルちゃんを守ってくれたのです。その他にも奏さんや早乙女さんの助力もあり、エルちゃんを商店街に誘導する事に無事成功しました。
「あらあら、エルちゃん凄いわね」
「まあ、エルちゃんは商店街の人気アイドルだからね〜お姉ちゃんとしても鼻が高いよ♪」
「葵ちゃん、エルちゃんの周りに人が集まって来てるよ」
「ここなら、皆がエルちゃんの事を見てくれているから安心出来るね♪」
エルちゃんが美味しそうに食べる姿を見ていると心が和むわね♪ 年配の方達もエルちゃんを自分の孫の様に接しています。私達も昔から良くして頂いていますが、純粋で素直なエルちゃんの人気は目を見張るものがあるくらい凄まじいです♪ エルちゃんの周りには、老若男女問わず沢山の方が集まっています。
「ん!? あ、葵ちゃんあそこ見て!」
「あ、あれは......さっきの婦警のお姉さん2人組だね」
「エルちゃんを見ている目がやばいわよ! あの方達は本当に警察官なのかしら!」
「似た者同士と言うか......楓お姉ちゃんもエルちゃんと接してる時、似た様な顔してるよ?」
「え、本当?」
「う、うん。むしろあの二人よりも変態不審者に見えるよ。レディがして良い様な顔はしてないかも」
ぐふっ......何故か味方に裏切られた様な気分です。しかし、いくら早乙女さんが寄越したエルちゃんのボディーガードとは言え......あれは危ないわ。そのうちエルちゃんを襲うかもしれません。警察官とは言え同じ人間です。ここは私がしっかりと目を光らせるべきね。
「なっ!? 葵ちゃん! あの婦警さんこっち見てドヤ顔したわよ!」
「お姉ちゃんは一旦落ち着こうね。早乙女さんが紹介してくれた婦警さんだから大丈夫だよ。エルちゃんの事になると直ぐ暴走するんだから......」
「だって! あんなケダモノの様な目でエルちゃんの事を見ているのよ! あの人達は絶対にやばい人だよ! きっとあの顔はエルちゃんとイチャイチャする妄想をしてるに違い無いわ!」
「お姉ちゃん......ブーメラン刺さってるよ」
エルちゃんを取られると思うと私の内心は穏やかではありません。海で例えるなら、凪の状態から荒波に変わった様なものです。可愛い妹を持つ姉は苦労すると言いますが、エルちゃんも葵ちゃんも可愛すぎて魅力的なので更に大変です!
「すぅ......はぁ......落ち着くのよ私」
一旦冷静になろう。私とした事が......こんな事で取り乱すのはらしくありませんね。普通に考えたらエルちゃんは私と将来結婚をすると言ってくれているのです。どんなに魅力的な雌が来たとしてもエルちゃんの私に対する愛は決して揺らぐ物では無いわ。きっと大丈夫......よね?
「あ、お姉ちゃん。前方から女子高生のグループが来てるよ」
「女子高生......」
「あ、エルちゃんの所に......あぁ、エルちゃんの頭撫で撫でしてる。エルちゃん嬉しそうに喜んでるよ」
「葵ちゃん、ちょっと姫島のお兄さんに連絡するわね」
「え、姫島さんに? どうして?」
「若い女をエルちゃんに近付けさせない為よ!」
「お、お姉ちゃん......もしかして嫉妬してるの?」
「ぐすんっ......だってぇ」
「全く、本当に世話の焼けるお姉ちゃんだね。よしよし♪」
楓の苦難はまだまだ続くのであった。
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