第91話 エルちゃんの特殊能力

 




 ◆エルちゃん視点





「かえでねーたん、いってらっしゃいなの!」

「は〜い♡ それじゃお仕事に行ってくるね♡ エルちゃん、お姉ちゃんの頬っぺと唇に行ってらっしゃいのチューして♡」


 僕の日課は、毎朝かえでねーたんを玄関でお見送りする事です。かえでねーたんの頬っぺたと唇にチューするのは、朝の挨拶には欠かせない大切な儀式です!


「ディフフ.......じゃあ、良い子にしてるんだよ?」

「んみゅ! きをつけてなの!」


 かえでねーたんは笑みを浮かべながらお仕事へと行ってしまいました。夜には帰って来ると分かっては居ても心配です。


「かえでねーたん、行っちゃったの.......さびちい」


 かえでねーたんは、美人さんだから夜道に変態不審者の方に襲われる可能性だって大いにあるのです! 最近思うのですが、やはり僕も一緒に付いてくべきでは無いでしょうか? 伝説の杖を装備して、かえでねーたんの護衛をする.......完璧だ。今日かえでねーたんが帰って来たら聞いてみるとしよう。あ、でも家にあおいねーたんを1人にしてしまう.......ぐぬぬっ.......美人なお姉さんが2人も居ると色々と苦労しますね。


「んにゅ?」


 《カサカサ.......♪》


「お! ゴキオくん!」


 そして言葉を覚えるに連れて、不思議な.......いや、これは僕だけなのかもしれません。かえでねーたん達は分からないそうですが、僕には動物さんや虫さんの言葉が理解出来るのです。言葉が通じると言えば良いのかな? かえでねーたん達の天敵.......我が家に住んでいる【漆黒の黒い悪魔】の異名を持つゴキオ君。僕がこの家に初めてやって来た頃に激戦を繰り広げて戦った魔物です。種族はゴキブリと言うそうだ。


 《エル殿、おはようございます!》


「おはよーなの!」


 《先日は我が妹、ゴキ子の誕生日祝いのプレゼントありがとうございました。妹も大層喜んでいましたよ♪》


「んみゅ! またおかちあげるね!」


 かえでねーたんもお仕事へ行き、あおいねーたんは現在洗濯やお茶碗等を洗って忙しそうにしています。僕がゴキオ君と会って話す時は、必ず周りに僕とタマちゃんしか居ない時だけだ。ゴキオ君とその妹のゴキ子ちゃん。二人とも凄い優しくて良い子なのに、話しを聞くと波瀾万丈で、話しを聞いたボクまで泣いてしまいそうになった程です。僕もスラムで色々と苦労をして来たので、ゴキオ君達とは色々と共感が出来るのかもしれません。まあ、ゴキオ君達を人と呼ぶのかどうかはさて置き.......


 《何かあれば、何処へでも馳せ参じまする。エル殿からのご恩はこのゴキオ、一生忘れませぬ!》


 僕がたまにおやつの食べ残しを少し分けてあげて以来、僕とゴキオ君との付き合いは始まったのだ。昔は互いに争った事もあったけど、今ではボクの良きお友達でもあるのだ!


「あ、びちゅけっとあるの! これあげゆ!」


《おおぉ.......エル殿、こんなご馳走を頂いてしまって良いのですか?》


「んみゅ!」


 しかし魔物と言葉が通じるようになるとは.......人生何が起こるか本当に分かりませんね。まあ、ただ一つだけ言える事は、ロリエルフになってから僕は幸せです♡ 女の子歴が段々と長くなればなるほど、自分が男だった頃の感情は希薄になって行き、今ではスカートを穿くのに抵抗感があまり無い事に自分でも正直驚いてる。人は順応すればそれまでなのかもしれませんね。


 《にゃ〜ん!?》


「あ! タマちゃん、ごきおはたべたら、めっなの!」


 《分かってるわよ。あたしはこう見えて潔癖症なのよ! ゴキブリ何て食べないわよ!》


「よちよち♪」


 《何よ! あたしに気軽に触らないでくれる?》


「ふぇ.......ぐすんっ。タマちゃん.......なんで、しょんなこというの?」


 《だぁああああ!! 分かったから、泣かないでよ! もう、本当に世話が焼けるわね!》


 白猫のタマちゃんの性別は雌です。しかも、中々のツンデレ具合ですね。日頃はツンツンして尖っていますけど、根は優しい精霊猫さんだと言う事は僕は知っています。タマちゃんは、僕が家に居る時とか常に僕を見ていてくれるのです。何だかお姉さん達みたいですね♪


 《タマ殿、おはようございます》


 《ふん、私に気軽に話しかけないでくれる? ゴキブリの分際で.......おはよう》


 僕、ゴキオ君、ゴキ子ちゃん、白猫のタマちゃんに良く我が家の庭に遊びに来る小鳥のピーちゃんで、密かに仲良し同盟を結んでいるのだ。この同盟のリーダーは勿論僕である。この同盟の名前は【エルちゃんズ】だ。種族の垣根を越えて、時には助け合ったり、強敵等が現れた際にみんなで協力をすると言った内容だ。ちなみに副リーダーは白猫のタマちゃんである。


 《あ、えるちゃんとタマちゃんだ!》


「おお! ゴキ子ちゃん、おはよーなの!」


 《おはよぉです! それとこないだもらった食べ物美味しかったです! ありがとうございました! ですが、こちらはお返しに何も渡す物が無く.......》


「きにちないで! らいじょうぶなの!」


 この子はゴキオ君の妹のゴキ子ちゃんです。優しくて素直な子で、いつも僕の事を尊敬の眼差しで見つめてくれる素敵なゴキブリさんです!


「んみゅ.......」


 《どうしたのエルちゃん?》

 《どうせエルの事だから、またろくでも無い事を考えているんでしょ.......》


 前々から思ってた事なのですが、ゴキオ君やゴキ子ちゃんに名前を付けてあげたいなと思うのです。まあ、ゴキオ君やゴキ子ちゃんが迷惑で無ければの話しだけども。


「よち、なまえつけてあげゆ!」


 《え、名前ですか?》


 《ちょっとエル? 悪い事は言わないわ。貴方のネーミングセンスは壊滅的だからやめときなさい》


 全く、タマちゃんは相変わらず失礼な事を言いますね。タマちゃんに付けたブライアンと言う名前は、秒で却下されたし.......中々かっこいいと思うのだけどなぁ。


 《エル、前にも名前付けようとしてたよね? 確か.......ゴキサブロウ、ゴキエール、ゴキタロウ、ゴッキー、ゴキスタシア、クリームパン、108円とか色々と酷すぎるわよ.......》


「ぐぬぬっ.......」


 タマちゃんには口論で勝てる気がしない。流石は精霊猫と言った所でしょうか。いつも、何かと僕が話すと全て論破されてしまいます。


 《あ、葵お姉さんが来るよ! ゴキオとゴキ子は早く行きなさい! ここはあたしが時間を稼ぐから!》

 《むむ、タマ殿かたじけない! ゴキ子、ほら行くぞ》

 《は〜い、エルちゃん、タマちゃんばいば〜い!》


 タマちゃんが葵ちゃんの元へと向かい、猫なで声で葵ちゃんにスリスリと甘えている。その隙にゴキオとゴキ子はこの場を後にして身を隠した。


「あらあら、タマちゃんどうしたの?」


 《にゃ〜ん♡》


「可愛わね♡ タマちゃんも甘えん坊さんなのね♪ よしよし♪ さてと.......」


 ふぇ? 何でしょうか.......あおいねーたんがニコニコしながら僕の方へと近付いて来ます。しかも、心無しか目が笑っていません! 笑ってるのに笑ってないのです!


「エ〜ル〜ちゃ〜ん」

「はわわ.......!?」

「脱いだ服を籠に入れる時は、持ち物全部出してと言ったよね? 気付かずにそのまま洗濯しちゃったよ.......おかげでポケットティッシュが他の服にも付いちゃったよ.......」

「あちゃあ.......」

「あちゃあ.......じゃありません! それに食べたおやつのゴミはちゃんと後始末しておいてね。 ごみはゴミ箱にポイするんだよ? それとトイレでおしっこした際はちゃんとレバーを引いて流すのよ? さっき見たら流れて無かったよ.......それから」


 ぐはっ.......これはまた長くなりそうです。あおいねーたんのお説教はまだまだ続きそう。よし、こうなれば僕の秘奥義を使う時が来た!


「あおいねーたん! ぴったんこちよ!」

「うぐっ.......突然どうしたの?」

「あおいねーたん、だいしゅき♡ すりすり♡」


 ふふっ.......こうすればかえでねーたんなら、まず間違い無くイチコロです。きっと、あおいねーたんもかえでねーたんと同様にちょろい筈!


「エルちゃん、そうやって有耶無耶にしようとしても駄目です。ちょっとこっちにおいで」

「んみゃああ.......!? しょんな.......ばかな!?」

「私は楓お姉ちゃんと違って甘くはないからね? さあ、後で私と一緒にお勉強もしましょうね〜♪」

「..............」


 こうして僕はあおいねーたんに抱かれたまま、強制的にリビングへと連行を余儀なくされるのでありました。

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