第55話 ケーキ屋さんの危ないお姉さん

 

 ◆ 大学生優花視点



「うわっ.......やばい大雨だ!」

「優花! とりあえず雨宿り出来そうな場所を!」

「あ! 真奈、あそこにケーキ屋さんがあるよ!」


 急に土砂降りの雨が降って来たので、急遽雨宿り出来そうな場所を探して走りました。私達は濡れても構いませんが、幼いエルちゃんが雨でびしょ濡れになったら風邪を引いてしまうかもしれません。それだけは避けなくては!


「――――――!!」

「エルちゃん!? 濡れちゃうから早く行くよ!」


 エルちゃんが大雨の中ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んでいます。まるで大雨を初めて見るかのような反応です。私は無理矢理エルちゃんを抱っこして、たまたま近くにあったケーキ屋さんの中に急いで入りました。


「いらっしゃいませ! お客様大丈夫ですか? 今タオル用意しますね。少々お待ちくださいませ」

「ありがとうございます! いきなり降って来たので驚きましたよ〜天気予報も当てにならないですよね」


 ケーキ屋さんの優しい女性店員さんが、3人分の真新しいタオルを用意してくれました。エルちゃんは扉越しから大雨を見て目をキラキラと輝かせて見ていたと思えば、今度は店内に視線を向けた後、一目散にケーキが置いてあるガラスのショーケースに走って行き目が釘付けです。小さい子は本当に好奇心旺盛ですね.......店員さんもエルちゃんのその愛らしい行動を見てクスクスと微笑んでおりました。


「あらあら♪ 可愛いお嬢ちゃんだね〜ケーキ好きなのかな?」

「――――――!?」

「あぁ、驚かせてごめんね? 私はここで働いてる店員さんだよ」


 エルちゃんが店員さんとショーケースを見て首を傾げております。


「――――――?」

「うふふ.......」


 気の所為でしょうか? 店員さんの目がギラギラと輝いて見えます。まるで、肉食動物が獲物を見定め狙いを付けているかのようです。


「―――――――――?」


 エルちゃんの方は透明なガラスに興味津々で、指先でつんつんとしてみたり顔を近付けて匂いを嗅いでます。エルちゃんはまだ幼いので、色々と分からない事があるのは仕方ないとは思いますが.......もしかしたら何処かのお金持ちのお子さんなのでしょうか? 俗に言う箱入り娘.......


「..............」

「エルちゃん? どうしたのかな?」

「んぅ.......」


 エルちゃんが熊さんの可愛らしい財布を開けて、中を覗いて真剣な表情を浮かべております。ケーキを買おうとしているのでしょうか? しかし、エルちゃんのお財布の中をチラッと見てしまいましたが、お金が足りません。ここの店のケーキは質が良いのか全体的に値段はお高めです。


「――――――。――――――?」

「えっ.......エルちゃんまさか.......この6号サイズのケーキ欲しいの?」


 エルちゃんがじっーと指を咥えながら見つめる先には.......豪勢なチョコレートケーキの6号サイズが我ここにありとショーケースの中に置いてあります。とても美味しそうなケーキなのですが、これは恐らく6〜8人分のケーキのサイズですね。値段も7500円.......お高い。


「――――――?」

「300円かぁ.......」


 エルちゃんが財布から取り出した金額は総額300円。背伸びをしながら店員さんに渡そうとしています。しかし、エルちゃんの身長は低く、レジが置いてある台には到底届きそうにありません。


「ふにゅっ.......ぐぬぬっ!?」


 エルちゃんはぴょんぴょんとその場で飛んでみたり、再び背伸びをして店員のお姉さんにお金を渡そうとしています。


「はぅ.....................」

「店員さん!? 大丈夫ですか!?」


 何とケーキ屋の女性店員さんが立ったまま気絶しています! しかも、目がハートで私が呼び掛けたり店員さんの顔の目の前で手を降っても反応しません。エルちゃん恐るべし.......見てるだけで癒されます♡


「はっ.......!? わ、私は一体.......」

「店員さん、大丈夫ですか? でも、気持ちは分かりますよ。この可愛いと尊いを兼ね備えた純粋な幼女.......エルちゃんの前では、皆簡単にやられてしまいます。私も何度か心肺停止に陥りそうでしたので」

「なるほど.......こんなに可愛い子を見たのは初めてです.......しかも、エルフのコスプレをしているのかな? 私が昨日読んだ18禁の金髪エルフの女の子が、手足を縛られながら女の子に犯されると言うお話し.......ゲフンゲフンっ。あ、お恥ずかしい所をお見せしてすみません」


 店員さんも顔を赤くしています。店員さん自分で見事に自爆しましたね。まあ、趣味は人それぞれですから。


「.......…」

「ケーキ欲しいのかな?」


 エルちゃんがケーキをじっーと見ています。


「―――――――――!」


 エルちゃんと言葉は通じなくともこれは、はっきりと分かります。この6号サイズのケーキをエルちゃんは購入しようとしているのです!


「お嬢ちゃん? こっちのケーキは大きいから1人では食べ切れないよ? お嬢ちゃんの手元のお金も足りないし.......」

「.......んにゅ? ――――――?」

「はぅっ.......か、可愛い♡」


 あ、これは店員さん今度こそ完全に堕ちましたね。エルちゃんの必殺技、涙目からの上目遣い.......やべ、見てる私も鼻血でそ。エルちゃんは天使ちゃんなのか小悪魔ちゃんなのかどっちなのでしょうか? 箱入り娘の穢れを知らない純粋な視線.......こんなのを見てしまったら.......どうりで世の中ロリコンが多い訳ですよ。私も短い間だけど、エルちゃんと行動を共にして自分の中で何かが目覚めてしまいそうな感覚があります。心の中に居る猛獣が暴れだしてしまいそうで怖い.......エルちゃんは魔性の幼女です!


「はぁ.......はぁ.......」

「真奈、大丈夫?」


 真奈が.......どうやら不治の病【ロリコン】に掛かってしまったようです。この病気の恐ろしいところは、発病してしまうともう治らないのです。現代の最先端医療の技術を持ってしても治すことは出来ません。発作が起きそうになったら、可愛い幼女を抱くか愛でるしか無いのです。しかも、エルちゃんは小柄で抱き心地も最高で、可愛くて良い匂いがします。不安そうな表情を浮かべてこちらを見た時のエルちゃんは控えめに言って最高です! スマホにその愛らしい姿を収めたいですね。


「かえでねーたん.......あおいねーたん.......」


 エルちゃんがケーキを見ながら、家族のお姉さんなのかな? 寂しそうな声で名前を呟いてます。エルちゃんのお姉さんの名前は、かえでさんとあおいさんと言うのかな?


「うぅ.......ぐすんっ」

「エルちゃん!? どうしたの?」


 エルちゃんが床にぺたりと座り込んでしくしくと泣いてしまいました。もしかしたら、エルちゃんは家族の皆の為にケーキを買おうとしているのでしょうか? 自分の少ないお小遣いを使って、お姉さんたちを喜ばせようと?


「エルちゃんよしよし♪ 私がケーキ買ってあげるから泣かないで? ね?」

「優花.......私も半分出すよ! 割り勘しよう!」


 優花達のやり取りを見ていた女性の店員が、ホールのケーキを出して箱に詰めています。何と、お代は要らないと.......


「お嬢ちゃん、お姉さん達と良かったら食べて♪ 丁度このケーキは廃棄寸前だったから、お姉さんは皆んなで食べてくれると助かるよ♪」


 優花と真奈は口を揃えてこう言った。


「「女神だ.......」」


 こう言う時に限って、真奈とは良く被ります。真奈とは付き合いが長いというのもあるからかな? まさに以心伝心。


 流石に申し訳無いと思い、私と真奈でお金を出そうとしましたが、店員さんに断られてしまいました。それとエルちゃんと出会った経緯や事情も簡単に話しました。


「そうなのね.......エルちゃんはもしかしたら、お姉さん達を喜ばせようとしてたのかな? 熊さんのお財布を持ってひとりで出掛けて、お姉さん達にプレゼントをしてサプライズ?」


 店員さんはケースの中からショートケーキを一つ取り出して、エルちゃんに渡しました。エルちゃんは驚いた顔をしながら困惑しています。


「うふふ.......可愛いですね♪ じゃあお姉さんが食べさせてあげる! エルちゃん♪ はい、あーんしてください」

「――――――?」

「遠慮しなくても良いですよ〜ほら、食べないとお姉さんが食べちゃうよ?」


 店員さんがフォークでショートケーキをエルちゃんの小さなお口の前に持って行き、ほれほれと餌付けしようとしています。


「――――――。―――――――――?」

「どうぞ♪」

「――――――!? ――――――。」


 エルちゃんはケーキを食べるかどうか悩んでいた。




 ◆エルちゃん視点




「ふぅええ.......大雨だ! しゅごい! しゅごいのぉ!」

「――――――!」


 雨がポツポツと降って来たと思えば、突然土砂降りの雨へと変わりました。僕が住んでたスラムの街ではこんな沢山の雨は降ったことがありません! 僕は年甲斐も無く幼子のように思わずはしゃいでしまいました。


「――――――!?」

「んみゃあ.......!?」


 目付きの鋭いお姉さんは慌てて僕を抱えながら、近くのお店の中に一緒に入りました。明らかに高級感溢れる.......僕みたいな卑しい人間が来るような場所ではありません。綺麗な白い建物に豪華な装飾品が並んでおります。ここの街はお金持ちの方が沢山住んでいるのでしょうか?


「うにゅ? あ、あれは.......!?」

「――――――?」


 何だあの透明な壁は.......しかも、美味しそうな食べ物が沢山.......あの甘い食べ物は、前にかえでねーたんの知り合いの方が食べさせてくれた物に似ています。


「うぅっ.......かえでねーたん.......あおいねーたん」


 かえでねーたんに勝手におかちを食べてしまった事を謝ろうと思って家を飛び出したのは良いけど、冷静に考えたらあおいねーたんに何も言わず出て来ちゃった.......あ、後で怒られちゃうかな? はわわっ.......ど、どうしよう。


「あぁ.......僕は何て事を.......でも、お家の帰り道も最早分からなくなっちゃったし.......」


 何か僕、最近涙脆くなったような気がする。何かあるとすぐ涙がでちゃうもん。もしかえでねーたんやあおいねーたんに嫌われたら僕はもう立ち直れる気がしない.......


「うぅ.......ぐすんっ」


 何で僕は後先考えずに動いてしまったのだろう.......これじゃ自分で自分の首を絞めてる様なものだ。かえでねーたんを探しに行くと行っても何処に居るのかも皆目見当がつかないのに.......しかも、かえでねーたんを探しに行って自分が迷子になるとか、笑えないよね.......


 せめて目の前にある甘い食べ物をお姉さん達にプレゼントしよう。そして、お姉さん達にごめんなさいと謝るのだ! 幸いお姉さんから頂いた財布の中にはお金らしき硬貨が入っています。このお金で大きい甘い食べ物を買うのだ! お姉さん達と皆んなで食べるのです!


「――――――♪」

「ありがとうございます。お姉さん達にもお世話になりました」


 このお姉さん2人にも何かお礼をしなくては男の名折れです! 最初は目付きの怖いやばい人だと思ってたけど、僕に美味しいパンや飲み物をくれたり、頭を撫で撫でしてくれたりと優しいお姉さんだった。


「店員さん! この大きな甘い食べ物下さい!」

「――――――。――――――?」


 お姉さん達は皆驚いています。僕が心配してるのは、このお金で買えるのかどうかだ。この街のお金の金額は分からない.......と言うか分からない事しかない。言葉も分からないし文化も.......


「お金.......これで足りますか?」

「「「―――――――――♡」」」


 お姉さん達の表情が.......もしかして足りないのかな? 僕お皿洗いなら出来ると思うから、それで買えないだろうか.......お姉さんにプレゼントする物の為なら何でもお手伝いしますよ!


「――――――♪」

「ふぇ? それ食べても良いのですか?」


 店員のお姉さんがにこにこしながら、僕の目の前に甘い食べ物を差し出して来ました。食べて良いのなら食べちゃいますよ? 本当に食べて良いのかな?


「―――――――――♡」

「..............…」


 いや、美味しい物を僕だけ食べるのはやっぱり駄目だ。お姉さん達と皆んなで食べればもっと美味しい筈だ。ここは我慢我慢。


「――――――?」

「すみません.......やっぱり遠慮しておきます。僕はお姉さん達と一緒に食べたいのです」

「――――――♪」

「はわぁっ.......!? 何で抱っこするのですか!?」


 店員のお姉さんは我慢できずと言った様子でエルちゃんを優しく抱っこする。頬をスリスリしたりエルちゃんをムギュっとして御満悦の様子だ。


「僕はこう見えて男なのですよ!? 今はこんな身体ですがれっきとした男なのです!」

「――――――♡」

「ちょっ.......ちょっと待って下さい! お、落ち着いて.......ふわぁっ!?」


 この後エルちゃんは店員のお姉さんや大学生の優花と真奈にめちゃくちゃに愛でられるのであった。

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