第26話 真夜中のコンビニ


◆葵視点

 

「何!? 今の音は!」

「ヒィッ!?」


 私は驚きの余り思わずエルちゃんを強く抱きしめてしまいました。エルちゃんも音に反応して、身体をビクビクと震えさせています。


「今の音は何!?」

「お姉ちゃん! 分からない、一階の部屋から物音したよね」


 楓お姉ちゃんも今の音で目が覚め、慌ててパジャマ姿のまま寝室から出て来ました。


「葵ちゃん、お姉ちゃんが様子見てくるから寝室で待ってて」

「お姉ちゃん一人だと危ないよ! 私も見に行くよ! エルちゃんは寝室で待っててね♪」


 私はエルちゃんを寝室へと連れて行き、ベッドの上に降ろしたのですが、エルちゃんは私の服の袖をちょこんとつまみながら離れようとはしません。


「――――――。」

「エルちゃん、良い子だからここで少し待っててね〜すぐ戻って来るからね〜」

「――――――!?」



 ・・・数分後・・・



 結局私が折れて、エルちゃんを下の階に連れて行くことにしました。だって……エルちゃんがうるうるとしたおめめで、私の足にしがみついてからの上目遣いでこちらを見るんですよ? はっきり言って反則です。


「私が先頭行くわよ。葵ちゃんはエルちゃんを守ってて! 泥棒が入った可能性もあるわ」

「うん……エルちゃん〜大丈夫だからね〜お姉ちゃん達が一緒だから」


 お姉ちゃんは押し入れから、父が昔に野球で使ってた金属バットを片手に取り、勇敢に前を進んで行きます。私は半泣きしてるエルちゃんをあやしながらお姉ちゃんの後ろをついて行きました。



 ◆とある幽霊視点



「悪さをする輩は天誅です!」


 私は怪しげな変態2人組を驚かして撃退してやりました。乙女の下着は何とか無事に守られました。私は急いで下着を元の場所に戻して居たのですが、一匹の白い子猫ちゃんが私の方を見つめながら震えていたのです。


「あらあらぁ〜可愛いらしい子猫ちゃん♪ 怖かったよね、もう大丈夫! 私が変態を追い払ったから♪」

「にゃ……にゃーん……」


 私は猫ちゃんに近付こうとして、リビングの窓をすり抜けて家にお邪魔しました。猫ちゃんはプルプルと怯えております。


「猫ちゃん、ごめんね。私は物にしか触れないの……霊力を使えば生きてる者にも触れなくも無いのだけど……」


 私が猫ちゃんをしばらく見つめていたら、ここの家の住人がリビングに恐る恐る入って来ました。


「――――――! ――――――?」

「あらあら!? あらまぁっ!? 何て可愛い女の子達なのかしらっ!?」

「――――――。」

「はぁわわ……女の子の手を握ってよちよちと歩いてる小さい女の子めちゃくちゃかわよっ! え? まって、耳が長いし金髪だしどういうこと!? めっちゃ庇護欲そそられるのですが!? もう無理! 何この可愛い生き物!」


 私は久しぶりに発狂してしまいそうです。あの小さな女の子……優しく抱き締めてあげたい……あぁ……本物の天使なのかしら……お姉さんに手を引かれてビクビクと怯えながら私を指さして……え? 私が見えてるの?


「あらぁ? 可愛いらしいお嬢ちゃん♪ こんばんは♪ 私が見えてるのかな? お姉さん達にはどうやら見えてないみたいだけど」

「――――――!?」


 小さな女の子はビクビクと怯えながらこちらの様子を伺っております。私は怖がらせ無いように優しく笑みを浮かべながらそっと近寄ります。


「ぐすんっ……」

「!? 怖がらせちゃったかな……お嬢ちゃんごめんね」


 どうやら私が怖くて、ボブカットヘアーのお姉さんの足にしがみついて泣きそうな顔をしております。私は一旦諦めて、その場を離れる事にしました。


「怖がらせてごめんなさい……お嬢ちゃんがもう少し大きくなったら、また会ってくれるかな? それまでお嬢ちゃんの事見守ってるからね」


 私はこの小さな女の子を観察してみる事にしました。やる事も無いし暇なので、この家の守護霊になります。私が居る限り泥棒や変態不審者等を一匹足りとも入れません!


「――――――。うぅっ?」

「え……お嬢ちゃん私の事が怖かったのでは……?」


 何と小さな金髪の女の子は、泣きそうな顔をしながらも恐る恐る私の元によちよちと歩いて近づいて来たのです! そして首を傾げながら鈴の音の鳴るような愛らしい声で!


「―――ボ――――――ク??」


 今この子僕って言ったのかしら!? 幼女が………僕って………


「え!? お嬢ちゃん今、自分の事を僕って……まさかのボクっ娘!? 何て言う超レア属性なの!? SSRじゃん! キタコレっ! ボクっ娘幼女って、属性メガ盛りてんこ盛りじゃん! やばい、母性に目覚めそう。私ついにママ属性獲得疑惑ぅっ!? やばい、妄想が限界突破しそう! ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」

「――――――!?」


 小さな女の子は大きく目を開いて、驚きの余り唖然としていました。おっと、私とした事が……1人で盛り上がってしまいましたね。


「お嬢ちゃん大丈夫だよ♪ 私はそこら辺にいるようなありきたりなお化けだよ♪ 私は可愛い者の味方よ! お姉ちゃんが撫で撫でしてあげるからこっちにおいで♪」

「はぅ……」

「お嬢ちゃんっ!? え? 大丈夫っ!?」


 小さな女の子は突然気絶して、床に倒れてしまいました。



 ◆楓視点



 私はリビングのドアを意を決して開け、部屋の電気を付けました。


「あれ? 誰も居ない……と言うか部屋も荒らされていないわね」

「にゃ〜ん!」

「あら♪ タマちゃん大丈夫?」


 タマちゃんが私の足元に寄って来てスリスリしています。私は少し怯えているタマちゃんの頭を優しく撫でながら周りを見渡しましたが、これと言って何も起きて居ませんでした。


「お姉ちゃんっ! 大丈夫!?」


 リビングに葵ちゃんがエルちゃんの手を引いてやって来ました。


「うん、大丈夫だよ。と言うか何も荒らされた痕跡も無いよ」

「まじ? 一体なんの音だったんだろう……」


 するとプルプルと震えていたエルちゃんが、私の足元から離れてリビングの壁に向かって一人で話し始めました。


「――――――?」

「え? どうしたのエルちゃん? 何かあるの?」


 そして私と葵ちゃんは、エルちゃんの事をしばらく観察しておりました。エルちゃんは窓の外に向かって何かを話し掛けて居るようです。そして私はエルちゃんの視線の先に目線を向けました。


「あっ! 下着取り込むの忘れてた!」

「あちゃ〜エルちゃん下着の事をもしかしたら教えてくれたのかもね」

「そうかもしれないね。危ない所だった。ちょっと取り込んで来るよ」


 しかし、ここで思わぬ事態が発生しました。


「ヒィッ……!?」

「「エルちゃんっ!?」」


 エルちゃんが小さな悲鳴を上げた瞬間、床に倒れてしまったのです! 私と葵ちゃんは慌ててエルちゃんの元に駆け寄り、容態を確認します。タマちゃんも心配そうにエルちゃんに近寄りました。


「あ、あぁっ! お姉ちゃん! ど、どうしよ!?」

「葵ちゃん落ち着いて! こういう時はまず動かさないで呼吸してるのか確認だよ。意識が無い人は舌が落ち込む事もあるから舌根沈下してないか、それと口腔の中に食べ残しが無いかも確認しなければ!」

「っ!? エルちゃん呼吸してないよ!?」

「脈拍は!? これは……葵ちゃん、急いで気道確保しなくちゃ危ない!」


 私は頭の中が真っ白になりそうでしたが、冷静に状況を分析して的確に処置を施そうと動きます。


「お、お姉ちゃん。気道確保……確かヒーヒーフーだったよね!?」

「誰か生まれるの!? 葵ちゃんそれはラマーズ法だよ! 全然違う! 葵ちゃんは見てて私がやる!」


 まず呼吸が無いのを確認したらすぐに人口呼吸です。


「口の中をチェックよ。開ける時はまず指を交差させて、親指を上の歯に、人差し指を下の歯に当てて……よし大丈夫」


 葵ちゃんが不安そうな顔で見守る中、私は冷や汗を書きながらエルちゃんの鼻をつまんで、大きく息を吸ってエルちゃんの口に息を吹き込みました。


「エルちゃんごめんね! すぅぅううううっ! フゥッ〜!」


 私は容態を確認しながら慎重に人口呼吸をして行きます。



 ◆エルちゃん視点



「んん……ゲホッゲホッ!」


 な、何だ!? 何か目を開けたらお姉さんの唇が僕の唇に!?


「――――――!?」

「――――――!!」


 ん? 何やらお姉さん達が騒がしい様子です。あれ? 僕そうえばいつの間に床に寝そべってたんだろ? そうえば謎の女性の人が居たような……ぐぬぬ……思い出せぬ


「お姉さん、僕は大丈夫なので……わぷっ!?」

「――――――!」

「えぇ!? 何でお姉さん泣くのです!? 何処か痛いのですか??」


 僕の身体に思い切り抱き着いて号泣する2人のお姉さん。2人は僕の身体を念入りに調べて、何やらコソコソと話しております。僕は未だに状況が良く分かっておりませんが、泣いているお姉さん達の頭を優しくなでなでしてあげました。女性には優しくしなければ、男が廃ると言うものです!


「お姉さん、そろそろ離して欲しい……ぐぬぬ……苦しいです」

「――――――!」


 僕は2人のお姉さんの大きな胸によって完全にサンドイッチとなっております。前を向けば大きな胸。後頭部にも大きな胸の感触。このお姉さん達は抱きつき癖があるのは知っていますけど、最近頻度が上がってる様な気がします。


「ん? お姉さんどこ行くのですか? こんな夜遅くに」

「――――――♪」


 僕はお姉さんに抱っこされながら、何処かに連れて行かれました。



 ◆楓視点



「一時はどうなるかと思ったけど、本当に良かった。お姉ちゃんの心臓が止まるかと思ったよ……」


 あれからエルちゃんが目を覚ましてから、しばらく2人で様子見をしていたのですが、何とも無さそうです。恐怖のパラメータが振り切って気絶してしまったのかもしれませんね。エルちゃんは怖がりさんなので。


「安心したら少しお腹空いたね」

「あらあら〜この時間に食べるのは少し気が引けるけど、葵ちゃん、コンビニ行く?」

「お、いいね! 深夜のコンビニは少しワクワクするよね! エルちゃんも連れて行く?」

「そうね。その前に下着取り込んでからね」


 この時間なら人も居ないだろうし、私達が付いているのでエルちゃんを近くのコンビニへと連れて行って見ましょうか。エルちゃんがコンビニではしゃぐ姿が何となく想像出来てしまいますね♪ エルちゃんの反応が楽しみです♪


「3人でコンビニ……トゥエンティーヘブン行こっか♪」


 深夜ですけど、エルちゃんの初めての外出です♪ それでは、いざ真夜中のコンビニへ! そして私達は下着を取り込み、服を着替えてからお財布等を持って玄関へと向かいました。


「――――――?」

「エルちゃん大丈夫でちゅよ〜今からお姉ちゃん達とコンビニ行きましょうね〜」


 私は不安そうな表情を浮かべているエルちゃんの頭を優しく撫でてから、抱っこして外に出ました。


「――――――。――――――?」

「お外出るの初めてだね♪ この時間は人もあんまり居ないと思うから大丈夫だよ♪」

「お姉ちゃん、エルちゃん準備出来たよ〜それじゃあレッツゴー!」


 何だか葵ちゃんのテンションが高いですね。エルちゃんは周囲をビクビクとしながら目を見開いて驚いております。私達3人はそれから他愛無い話しをしながら夜道を歩きました。


「――――――!?」

「あれは……車だね。エルちゃん、あれは乗り物だよ〜」

「エルちゃんはさっきから色々な物に興味津々だね〜」


 我が家の幼いお姫様は好奇心旺盛のお年頃です。どうやら停まっている車が気になる様子です。さっきまで私の腕の中でプルプルと震えていたのが嘘のようです。今ではあちこちに指さして私達に向かって何か言っております。


「エルちゃん! もう少しでコンビニだよ! お姉ちゃんばかりエルちゃん抱いてずるい!」

「あらあら〜じゃあここからはエルちゃんを真ん中にして、3人で手を繋いで行きましょうか♪」


 私はエルちゃんを降ろしてからエルちゃんの右手を握り、その反対の左手は葵ちゃんが握ります。エルちゃんは何だか少し恥ずかしそうに頬を赤らめております。エルちゃんは何しても本当に可愛いです♡



 ◆エルちゃん視点



「なっ!? 何なのだここは……夜だと言うのにこんなに建物が明るいとは……」


 僕は2人のお姉さんに連れられて謎の建物の前までやって来ました。最初は外で手を繋ぐのは恥ずかしいなと思って、やんわりと断ろうとしたらお姉さん達が寂しそうな顔をするので、致し方なく手を繋ぐ事にしました。


「お姉さん! 余所見してたら危ないですよ! 何だこの目の前の透明な壁は!?」

「――――――♪」

「あ、危ない! お姉さんぶつかるよ!」


 そして次の瞬間、お姉さん達が近づいたら透明な壁が横にスライドしたのです! 僕は辺りを警戒しながら明るい建物の中へと足を踏み入れます。


「ここは……店? 貴族の通う店なのでしょうか……」


 辺りは綺麗な内装で高級そうな商品が所狭しと並んでおります。そして次の瞬間、僕の背後の透明の壁が勝手に閉まったのです!


「何っ!? 閉じ込められた!? お、お姉さん大変ですよ!」

「――――――♪」

「あれ、お姉さんどこ行くのです!? ま、待ってぇ〜!」


 僕は慌ててお姉さんの後を追いかけて、建物の奥に足を踏み入れます。僕はお姉さんを守りながら冷静に辺りを観察します。


「これはもしや魔導書!? こんなに沢山並んでる……魔導書って中々入手困難で金貨数枚はするような代物の筈。何でこんなにあるのだ?」

「――――――!?」

「これも魔導書なのかな?」


 僕はいくつか魔導書を手に取り中身を確認しようと1ページ捲ってみると中は……


「ぴゃあっ!? 女の子が裸で!?」

「――――――!?」


 2人のお姉さんが何やら慌てて、僕が持っていた魔導書を取り上げて棚に戻します。確かにあの魔導書は刺激が凄く強かったです。あれは伝説の色慾の魔導書アスモデウスなのかもしれません。あの魔導書は僕の手に負える代物では無いですね。


「はわっ!? あ、あれは!?」


 僕はそいつを一目見た瞬間、身体が思わず動いていました。飲み物が沢山並んでいる中にこないだ晩御飯の時に飲んだオレンジジュースがあったのです!


「間違い無い、あの入れ物は僕が飲んだ飲み物だ! 欲しい!」

「――――――♪」

「ぐぬぬっ!? 何だこの透明な壁は!? 僕の前に立ちはだかると言うのか。目の前にオレンジジュースがあると言うのに!」


 僕は透明な壁をバンバンと叩いて見たり、押してみたりしましたが透明な壁はビクともしません。


「どうすれば開くのだろう……お姉さん、これ欲しいのですが」

「――――――♪」

「ん? この突起物をどうするのです?」


 僕はお姉さんの言葉が理解出来ずに頭を悩まさせておりました。



 ◆楓視点



「エルちゃん〜はしゃぐ気持ちは分かるけど、コンビニの中は走り回っては行けませんよ〜」

「――――――!」

「ん? それは……」


 私と葵ちゃんはエルちゃんが手に取っている物を見て、慌てて取り上げました。


「エルちゃんっ!? それはエルちゃんにはまだ早いからメッだよ!」

「エルちゃん、これは楓お姉ちゃんみたいな変態が買うエロ本なの……純粋なエルちゃんが見たらダメな本なの」

「葵ちゃん……私、エロ同人誌派なの」

「お姉ちゃん、突っ込むとこそこで良いの!?」


 私はエロ本を棚に戻して、エルちゃんの後を追いかけます。エルちゃんは興奮しているのか走って今度はジュースの売っているコーナーへと向かいました。私と葵ちゃんはエルちゃんのその姿を見て思わず笑みが漏れてしまいます。


 「「っ!?」」


 私達は今尊い光景を見ております。エルちゃんが扉式のリーチインの前でオレンジジュースを取ろうと必死にもがいているのです! エルちゃんは恐らく引っ張れば開くという事を知らないのかもしれませんね。何だか見てて微笑ましいですね。


「うぅ……」

「エルちゃんこれはね〜こうして引っ張るんだよ♪」


 エルちゃんはお目当てのオレンジジュースを手に取りご満悦の様子です♪ エルちゃんはどうやら他の飲み物も気になっているみたいですね。時間はあるのでエルちゃんとコンビニをゆっくり見て回ろうと思います♪

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