夢に銀色

kinatu

第1話


 提出物を出さない。それがせめてもの意思表示。


 「どうした、河都。お前が出さないなんて珍しいじゃないか。」


 そうです。真面目がモットーの私からしたら、こんなことは一大事なんです。

 それくらいのことをしたんですよ、先生は。


 「先生のせいです」


 私は少し頬を膨らませて言った。

 この言葉に含めた意味に気づいて欲しいような、欲しくないような。

 どっちつかずの気持ちで先生を見る。


 「先生のせい?俺何かしたっけ?河都の成績下げたとか?」


 冗談まじりに言いながら、顎に手を当てる。

 先生の手を視界に入れたくなかったのに、見えてしまった。

 

 数日前、突如現れた銀色の輪っか。

 その輪っかは先生の指にピッタリとはまっていて、先生の笑顔と同じくらい輝いている。

 

 銀色の光は私には強すぎたみたいだ。

 受け止めきれずに視界が霞む。


 顎のところくらいまで何かが込み上がってきて、唾が飲み込みづらい。

 私は声が震えないように気をつけながら、


 「先生は、とっても悪いこと、したんです。先生のこと嫌いになるくらいに。だから、提出物は絶対出しません。」

 

 と、先生の目を見ながら言う。

 驚いた顔をした先生は手をそっと下ろす。 


 銀色の光が視界から消え、込み上がっていたものが少し落ち着く。


 提出物を出さないくらいでしか表せないこの気持ち。

 だけど心のどこかで気付いて欲しいと思ってしまう。私の気持ちが伝わったって何も変わらないのに。


 「そのうち出します。きっと近いうちに。」


 先生の目を見ずに言い、先生に背を向ける。


「おい、河都!」


 今さら呼び止めたって遅いんだから。


 先生のばーか。


 冷たい何かが私の頬を伝った。

 

 その滴は、先生の指に光る銀色を映して輝いていた。

 

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夢に銀色 kinatu @ki_natu

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