つめたい不動明王

@Fushikian

第1話

 わが家には祖父の代から伝わる不動明王像がある。祖父は海軍の兵士だった。戦後復員してこの家に帰ってから、この仏像を買い求めたという。祖父の妻である祖母は蓄財の才があった。祖母がいなければこの家は建たなかったとよく父が言っていた。新しい家の仏壇にこの不動明王が迎えられた。この仏像にはおおきな特徴がある。クリスタルガラスでできていた。

 専門の仏師ではなく、祖父の戦友だったガラス職人がつくった。仏間に日が差すと不動明王はサンキャッチャーのように光を反射した。

小学校低学年のころに、一度だけこの仏像を私は持ち出した。友だちの聡に見せようとしたのである。聡の母は驚いて「こんな大事なものを」と私からそっと取り上げると仏壇に置いた。

 「おうちの人を呼ぶわ。仁志くんじゃ落とすといけないから。でもきれいね」と微笑む。

 TVゲームに興じて、飽きると近所の空き地で野球をした。仏像はすっかり忘れていた。日が暮れると父と聡の母が迎えにきた。「だまって持ち出すな」と父は慣れない様子で私を叱る。聡の母のてまえもあってか。そのまま父と家路に就いた。触れたとき不動明王がひんやりしていたことを、今でも思い出す。

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