第14話 王女殿下の末路

ユージェニー王女殿下は打ちひしがれて膝をついていたが、その時俄かに庭園が騒がしくなる。


 黒を基調とした軍服を着用した王立騎士団員が数名庭園にバタバタと現れたからだ。


 パーティーの参加者が一体何事かと囁き合っているのを見向きもせず彼らはまっすぐにユージェニー王女殿下とアドリアン達のいる方へ足を運ぶ。


「あっ、フェルナンド隊長! 特徴に当てはまる人物はあそこにいますね!」

  

「クレメント・グラミリアン! 貴殿の父が違法である人身売買と行ったことと領地からの税収を横領していることで逮捕状が出ている。貴殿もその悪事に加担していた証拠があり、出頭命令が出ているので、我々と同行してもらおう」


 フェルナンド隊長と呼ばれていた人物がクレメントに同行命令を出す。


「えっ!? あのクソ親父!! 一体何ヘマをしているんだよ! せっかく王女殿下の婚約者にもなれたのに!」


 クレメントは悪態をつきながらも騎士団員に強制的に連行されて行った。


 クレメントは美少年顔を激しく歪ませており、最早見る影もない。



 クレメントが連行された後、彼に同行命令を出したフェルナンドはまだその場に残っていた。


「ユージェニー王女殿下。殿下にも出頭命令が出ています。私と一緒に来て下さい」


「何でわたくしがそんな犯罪者みたいな扱いを!?」


「逮捕された人物と親しい人物には話を聞くことになっているのです。今回の場合は、悪事に加担していたクレメントとユージェニー王女殿下はお付き合いされていたのですよね? 王女殿下も悪事に加担していないかの確認を含めて話を聞かせて頂きます」


「そんな……」



 ユージェニー王女殿下はフェルナンドに連れて行かれ、庭園から退場した。



 騎士団が去った後、徐々にパーティーは喧噪を取り戻したが、犯罪者として捕まった生徒がいるというのは少なからずショックを与えた。


「黒い噂があることは知ってはいましたが、今日のパーティー中に逮捕されるなんて思ってもみなかったですわ」


「私も予想だにしていませんでした。まだ王女殿下の婚約者だった頃、後で何と言われようともっと強く働きかけて、強引に引き離しておけば、殿下まで連行されることはなかったかもしれません。何を言っても無駄だと諦めていたのです。それにいくら注意をしても彼女は聞く耳を持たなかったから、もうどうなっても自業自得だと思っていましたが、あまり後味のいいものではありませんね」


 アドリアンは少しへこんでいた。


 確かにユージェニー王女殿下のことは良く思っていなかったし、人の外見ばかりで判断している彼女に人間関係でいつか痛い目を見ればいいとも思っていたけれど、こんな風に犯罪者の仲間のような扱いをされるのを望んでいた訳ではない。


「アドリアン様のせいではないですわ。王女殿下自身の問題です。確かに後味は良くありませんが、忠告を無視してそれでも己の道を突き進んだ王女殿下にこそ非がありますわ。たまたま連行されたのが今日だったたけで明日だったかもしれないし、一一週間後だったかもしれない。早かれ遅かれこうなっていたと思いますわ。だからアドリアン様は気に病む必要はありません」


「フローレンス嬢……」


「それよりも私、アドリアン様に是非お尋ねしたいことがあるのです」


「何ですか?」


「王女殿下に言っていた初恋の少女。あれってうぬぼれでなければ私のことだと思うのですが、思い出せなくて。どこでお会いしましたか?」


「あれは王城の庭園ですね。その時、王女殿下の婚約者を決めるお茶会に参加していたのですが、王女殿下に瞳の色の件で気持ち悪いと言われ、泣いていたのです。泣きながら走っていたせいでいつの間にか庭園まで走っていたようでそこであなたに会いました」


「……あっ! そう言えば昔、瞳の色が違う男の子にお会いしましたわね。すっかり忘れておりました。あれがアドリアン様だったのですわね」


「思い出して頂けて良かったです」


「学園での出会いが初めてだとばかり思っておりましたわ」


「あなたのご実家に挨拶に行った時、前髪を上げて眼鏡を外していたのもわざとですよ。もしかして私のことを覚えていないかと淡い期待をして」


「うっ……も、申し訳ありませんわ」


「フローレンス嬢の反応から覚えていないことはわかりましたが、今思い出してもらえたので満足です」

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