第9話 ピクニックにて
アドリアンとフローレンスは婚約して以来、二人で過ごすことが多くなった。
お昼休みはお互いの友人同士の付き合いとバランスを取りながら一緒に過ごせる時は一緒に過ごし、学園の休校日である土曜日・日曜日・祝日は城下町に遊びに行ったり、お互いの屋敷に行ったり、少し遠出のピクニックに行ったり……という具合に交流を深めている。
フローレンスがメラール公爵邸を訪問した時、ちょうどアドリアンの母であるイヴォンヌも妹であるサビーネも屋敷にいたので、アドリアンに紹介を受けた。
その日はメラール公爵邸でアドリアンとフローレンスでお茶会をする予定だったが、急遽席を追加で用意して、四人でのお茶会になった。
フローレンスは初対面の二人にきちんと挨拶をして、二人もフローレンスに挨拶を返す。
二人はフローレンスのことを好意的に受け入れた。
アドリアンの元婚約者であるユージェニー王女殿下は二人ともよく思っていなかった為、王女殿下に婚約破棄されて評判の良い令嬢と新たに婚約出来て心から喜んでいた。
逆にアドリアンがアンベール侯爵家を訪問した時は、フローレンスの母であるレティシアと弟のジェレミーがいたので、アドリアンは挨拶をした。
特にジェレミーは姉しかいない為、”将来、あなたの義兄になる人よ”とアドリアンを紹介すると、すごく喜んであっと言う間にアドリアンになついた。
両家揃ってはまだ顔を合わせていないが、とりあえずアドリアンとフローレンスは相手の家族で顔を合わせていない者がいなくなった。
フローレンスはアドリアンと様々な場所に訪れたが、中でも気に入ったのはピクニックだ。
使用人に大きなバスケットにサンドウィッチやフライドポテト、ナゲットなど簡単に手づかみで食べられる料理を詰めてもらい、二人で馬車に乗って郊外の野原へ行った。
馬車に揺られることおよそ一時間。
着いた場所は開けた野原だった。
青々としてどこまでも広がる草原に、野生の花々が咲き乱れている。
こんなに広々とした草原は街中にはない。
運が良いことにこの日は快晴で、空の青と草原の緑のコントラストが美しい日だった。
「ここは家族と時々来ていたのですが、気持ちのいい場所ですね」
「アドリアン様はここに来られたことがあるのですね。このような場所があるなんて知りませんでした」
この頃にはフローレンスはアドリアンのことを”メラール様”ではなく”アドリアン様”と呼ぶようになっていた。
「まだ子供の頃でしたので、ここでサビーネと一緒にくるくると走り回りました。シロツメクサの花冠も作ってサビーネの頭に飾ったりもしましたね。あまり上手くは作れなかったのに、サビーネが嬉しそうにしていたのは今でも覚えています」
「アドリアン様、私達もシロツメクサの花冠を作りませんか? 今日の思い出にぴったりですわ!」
「そうですね。作ってみましょう」
二人はシロツメクサの花冠を作り始めた。
フローレンスは手先が器用なので綺麗に作れていたが、アドリアンの作った花冠は客観的に見て不格好だと言わざるを得ない。
「アドリアン様、出来ましたわ! このようなものは初めて作ってみましたが、割と上手く出来たように思います」
「フローレンス嬢の花冠は綺麗に出来ていますね。私は昔と変わらず上手くは出来ませんでした」
「私が作ったものはアドリアン様に差し上げますので、アドリアン様が作ったものは私に下さい。このようなものは出来栄えではなく、気持ちが大切ですわ」
「気持ち……そうですね。上手く出来るに越したことはありませんがその人を想って作るということが大切ということですね」
二人は自分が作った花冠を相手に渡し、頭に飾る。
二人は大きな木の下に敷物を敷いて座り、持参していたバスケットを開ける。
「アドリアン様、そろそろランチにしましょう。今日のランチはサンドウィッチにしてみました。二人で食べられるように多めに持ってきましたわ」
「ありがとうございます。次は私の家で用意します」
「サンドウィッチは何種類かあって、ハムときゅうり、卵、ベーコンとレタスとトマト、チーズとレタスの組み合わせになっているそうですわ。苦手な野菜がわからなかったので、もし苦手な野菜があれば無理して食べなくても構いませんから」
「私は特に野菜の好き嫌いはないから全種類美味しく頂きます。因みにフローレンス嬢は何か苦手な食べ物はありますか?」
「私はピーマンが苦手ですわね。苦味が苦手です。果物で言うとメロンは好きではありませんわ」
「そうなのですね。今後の参考にします。早速頂きます」
お腹が空いていた二人はもくもくとバスケットに入っていたサンドウィッチとフライドポテトとナゲットを食べる。
用意した分はほぼ全部食べてしまった。
食べ終わった二人は水筒に入れてきていた紅茶を飲んでひと息をつく。
そして大きな木に寄りかかって座り、肩を寄せ合って微睡んでいた。
二人を暖かな日の光が降り注ぎ、緩やかな風が流れる。
それは穏やかな午後の微睡みだった。
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