【完結】がり勉地味眼鏡はお呼びじゃない!と好きな人が婚約破棄されたので私が貰いますわね!

朝霞 花純

第1話 婚約破棄

王立ワーズ学園のダンスパーティーの最中、突如似つかわしくないヒステリックな声が響き渡る。


 王女ユージェニーはリボンやフリルでゴテゴテと過剰に装飾され、それでいて胸元が大きくはだけたピンクのドレスを身に纏い、婚約者ではない男性――クレメント・グラミリアンを伴い、婚約者であるアドリアン・メラールと対峙している。


 クレメントはユージェニーに見えないようにしながら、アドリアンに勝ち誇ったかのような顔を向ける。


「アドリアン・メラール! あなたとは婚約破棄するわ! あなたみたいながり勉地味眼鏡なんて王女たるわたくしの婚約者にお呼びじゃないわ!」


「婚約破棄、了承致しました。私の両親には私から説明しておきますので、国王陛下夫妻にはあなたから説明して下さいね。では、私はこれで失礼します」


「ちょっと待ちなさいよ!」


「これ以上、まだ何か?」


「わたくしはあなたと婚約破棄して、真実の愛で結ばれたクレメントと新たに婚約するの! 彼、素敵でしょう? ……あなたと違って。あなたはメラール公爵家という血筋と成績首席というところはいいけど、その見た目でこの私の婚約者なんて恥ずかしいわ。婚約破棄されたからと言ってわたくしに付き纏わないで頂戴ね」


 クレメントは少し小柄だが、確かに整った顔立ちをしている。


 風に飛ばされそうなふわふわした明るい茶髪にクリっとした愛嬌のあるピンクの瞳で可愛い系で小動物を思わせるような美少年だ。


 しかし、クレメント程度の顔立ちならばそれこそ国内で指折りの美形集団であるユージェニーの親戚の中に混じったら霞んでしまう。


 ユージェニーの審査眼が曇っているとしか言いようがない。



 それに対して、アドリアンは髪の色は混じりけのない漆黒で、目にかかるほど前髪を伸ばし、おまけに分厚い眼鏡をかけている為、顔立ちや瞳の色は不明だ。


 ただ、見えている鼻筋や口元は形がよく、肌も陶器のように真っ白ですべすべである。


 背がすらりと高く、しかも足が長く腰の位置は高いというスタイルは頗すこぶる良いのに、前髪と分厚い眼鏡の印象が強すぎて、誰もそこに目が行かず、地味で垢ぬけない印象の青年だ。


 彼の印象と成績首席が重なって彼のあだ名は”がり勉地味眼鏡”。


 公爵令息につけて良いようなあだ名ではないはずなのに当の本人は気にする素振りもない。



「そんなこと、頼まれてもやりませんよ。そこの男爵令息とお幸せに」


 そう告げてその場から離れようと足を進めたアドリアンは言い残したことがあるのかくるりと彼らの方を振り返る。


「そうそう、婚約破棄はあなたから言い出したことなので慰謝料は請求させて頂きます。そこの男爵家令息の実家のグラミリアン家にも請求させて頂きますので悪しからず」



 そして、今度こそ立ち去ろうとすると、ある一人の令嬢が彼の前に立ちふさがる。


 フローレンス・アンベール侯爵令嬢。


 才色兼備として名高く、学園の高嶺の花だ。



「フローレンス嬢?」


「お待ちになって、メラール様。今しがたユージェニー王女殿下とあなたの婚約は破棄されましたわよね?」


「ええ。そうですが……」


「でしたら、是非私と婚約して頂けませんか? 私とあなたの仲ですし、私に婚約者はおりません」


 フローレンスの言葉に周囲がどよめく。


 高嶺の花がいくら公爵家令息とは言えがり勉地味眼鏡に婚約の申し入れをするなんて。



「本当に私でよろしいのですか?」


「ええ。私はあなたいいのです」


「わかりました。婚約を結びましょう。あなたの屋敷に挨拶と共に書類は持って行きます」


 周囲がドキドキしながら見守る中、アドリアンは申し入れを受け入れる。


 アドリアンが受け入れないことを願っていた令息は、心の中で涙を流した。


「お待ちしておりますわ」



 フローレンスは優雅に立ち去る。


 ……のように見えたが彼女の内心は小躍りしていた。


(まさか王女様が婚約破棄するなんて。王女様の婚約者だから諦めていたけれど、もう諦める必要はないわ。王女様、彼を手放して下さってありがとうございます! 彼は私が貰いますわね!)

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