Fünf
それから一週間と日を置かず、アーサー王軍に追いつかれたモードレッドは、即座に開戦の狼煙を上げ、敵を蹴散らそうと躍起になった。仲間の騎士も巧みに槍を振りかざし、カンタベリーの丘は血の赤に染まった。
「いいか、イセ。まずは五芒星の楯を持った、あの太陽の騎士を殺せ。あいつが生きていると厄介だからな」
敵味方が入り乱れる中、オベロンはイセの肩に止まり、兜越しに小さく囁いた。モードレッド軍に鋭く切り込む、勇敢な王の甥。古傷を物ともしない彼こそが、太陽の騎士・ガウェインだった。
「うん、分かった。その後は、僕の好きにしていい?」
「ああ、構わんぞ。邪魔だと思ったやつは、片っ端から殺してしまえ」
それを聞いたイセは、力強く馬を走らせると、あっという間にガウェインに肉迫した。彼が守りの体勢に入り切らない内に、怒涛の一撃を食らわせる。
「――っ!」
ガウェインは咄嗟に楯をかざしたが、その重い攻撃に少なからず驚いた。寸での防御が間に合わなければ、今頃は串刺しになっていただろう。
「ガウェイン卿!」
「心配は無用だ。私が相手をする」
隣にいた騎士を下がらせたガウェインは、突如目の前に現れた騎士を睨んだ。真っ黒な鎧と相反するような、真っ白な処女楯。煌びやかな戦闘馬と、兜に覆われた顔面。彼が一体誰であるのか、アーサー王軍の騎士には全く分からなかった。
「来い、愚かな敵兵め! 誰であろうと容赦はしない!」
――ガウェインの言葉を皮切りに、両者は激しくぶつかり合う。その鮮烈な現場は、まるで焼け焦げるかのように白熱していた。
二人は槍を突き合わせ、それぞれ相手の楯を貫いた。鋭い刃は重い防御を貫通し、そのまま互いの肩に突き刺さる。
「ぐっ……!」
ガウェインは即座に剣を取り、黒騎士と完全に打ち合った。磨かれた一閃は火花を散らし、周囲が一瞬明るくなったように思えた。
周りの騎士たちは驚いた。かの有名なガウェインと対等に戦っているのは、一体誰であるのかと。鮮血で濡れた鎧兜の隙間から、謎の騎士の素晴らしい武術が見て取れるのだが、それが何者に酷似しているのかまでは、人々にはさっぱり分からなかった。……たった一人、対峙しているガウェインを除いては。
「……っ! この動き、まさか――!」
騎士が馬を手繰り寄せた動作を見て、ガウェインは刹那、かつての円卓の騎士の面影を見た。しかし次の瞬間、騎士の振り下ろした剣が肩に直撃し、彼はどさりと落馬してしまう。
ガウェインが鈍痛に襲われているのを見ると、黒騎士も馬から飛び降り、そのまま勢いよく飛び掛かった。ガウェインは体勢を立て直す暇もなく、ランスロットにやられた古傷を叩かれ、うめき声を上げながら地面に倒れ伏した。
「な、何故だ……! 貴様は何故、王に敵対するのだ……!」
容赦なく剣を振り上げる彼を見て、ガウェインは息も絶え絶えに告げた。出血と疲労で目がかすみ、消え入るように意識が遠のいていく。
「貴様は、トリスタン卿のっ――」
――彼の切ない声は、ついに最後まで響くことなく、儚い丘の風とともに散った。敵が微動だにしないのを見て、黒騎士・イセは再び馬に飛び乗り、無情に敵陣へと切り込んでいく。彼の進んだ後には、大勢の騎士の死体と、無残な血の赤だけが残されていった。
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