Drei

「ローマ皇帝の息子が、あの妖精だと……?」

「聞いたこともない……。あいつの戯言か……?」

 オベロンが得意げな表情を見せる中、騎士たちは怪訝な面持ちで囁き合った。いきなり現れた青年が、自らを妖精の王だと名乗り、更にはローマ皇帝を引き合いに出したのだ。戸惑うのも無理はない。

「貴様ら、何をごちゃごちゃ言っている。私はモルガン・ル・フェの息子でもあるのだ。私を疑うなど、実に無意味で愚かなことだぞ」

 妖姫と名高いモルガン・ル・フェは、ゴールの王であるウリエンスと結婚する前、ユリウス・カエサルと関係を持った。そのときに生まれた子どもが、紛れもない彼なのだ。

「……妖精の王が、俺に何の用だ」

 モードレッドは仲間の声を遮り、オベロンに向かって乱暴に言葉を吐いた。するとオベロンはニヤリと笑い、騎士たちの間を優雅に飛び回った。

「見たところ、貴様はあのアーサー相手に手こずっているらしいな。本当は手を貸すつもりなど微塵もなかったのだが、少し気が変わった。こちらの条件を呑むと言うのなら、貴様に協力してやらんこともない」

 モードレッドは少し眉をひそめたが、しかしすぐに考え直した。この妖精の言う通り、彼らは敵勢力に押されつつある。協力してくれると言うのなら、不審がるよりもむしろ感謝するべきだった。

「……条件は?」

「なに、簡単なことだ。私の清き友人を、貴様の仲間に加えてもらいたい」

 そう言うと、オベロンは指を鳴らし、茂みの奥を一瞥する。ガサガサと音のする方を見ると、やがて一人の少年が姿を現した。

「彼の名はイセ。幼いながらに腕の立つやつだ。有能な騎士が増えることは、貴様にとっても悪い話ではないだろう?」

 イセと呼ばれた少年は、装飾の美しい黒い鎧に身を包んでいる。銀掛かった白い髪と、凛とした紫苑の瞳は、青年のように凛として大人びていた。

「聞いたことのない名だが、一体どこの騎士だ」

「いずれ分かることだ。とにかく、やつの強さは保証する」

 オベロンはイセの傍に立ち、モードレッドに妖しい視線を送った。それは有無を言わせず、相手を頷かせるような仕草だった。

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