殺戮オランウータン対エルフニンジャ

夏川冬道

第1話

帝都に殺戮の嵐が吹き荒れていた。ある死体は楡の大木に逆さ吊りにされ、また、ある死体は胴体と首が泣き別れするという無惨な死体に成り果てていた。しかし殺人の頻度とは裏腹に犯人に繋がる証拠は発見できず手をこまねいていた。


「イカれた殺人鬼に帝国軍が翻弄されっぱなしとは先祖に申し訳がたたない!」

 帝都の優秀な貴族で帝国守備兵のエリートであるジョン・ヤマダは神出鬼没の殺人鬼に翻弄される現状に憤りを隠せないでいた。

「しかし、ヤツは自分に繋がる証拠を完全に隠滅して行動している……手詰まりだ。オレはどう行動すればいい?」

 ジョンは頭を抱えていた。思考を巡らせても堂々巡りになっていた。どこかに事件解決の糸口をつかめればいいのだが何もわからなかった。そこにジョンの執務室の外からノックの音がした。

「誰だ……執務室に入ってこい」

 ジョンの返事に扉から入ってきたのはジョンの副官のランドと巫女服のエルフ少女であった。ジョンは訝しげな表情をした。

「ジョン様、この者が面会したいと言ってきました」

 ランドは鉄面皮な表情でジョンに答えた。

「お前は何者だ……」

「わたしはエルフの巫女イリア……実は帝都で続発する連続殺人事件の犯人を知っています」

 ジョンは驚愕した!あのイカれた殺人鬼の正体を知っているだと!

「ほう……詳しく教えてもらおうか」

「あの者は人間の手には負えない野獣……そこでわたしたちにこの件について任せてほしい」

「何を言っている! 帝都市民の安全を守るのが我々の使命だぞ!」

 するとイリアは懐からペンデュラムを取り出し、ジョンの目の前で揺らし始めた。徐々にジョンの意識がぼんやりし始める。これはエルフニンジャに伝わるヒュプノス・ジツだ!

「決して悪いようにしません……この事件は人間の手には負えない………それにこの件に関してはわたしたちにも責任の一端があるのでわたしたちが始末をつけなければいけません……いいですね?」

「あぁ、わかった……この件はお前たちエルフに一任しよう……いい知らせを頼む」

「安心してください……わたしたちが何とかしましょう」

 イリアは穏やかな表情を浮かべるとジョンの執務室から退室した。


◆◆◆◆◆


帝都近くにある深い森の奥深く……今日の不気味なまでに静まり返っていた。その静けさはまるで何かに怯えているようであった。その静寂な森を駆けていく複数の影があった。それはまごうことなきエルフニンジャであった。エルフニンジャは文字通りエルフのニンジャであり森の守護者であった。森での一挙一動はエルフニンジャに監視されていると思え! そのエルフニンジャはなぜ森の中を疾走しているのか?それを森のルールの逸脱した獣を狩るためである。エルフニンジャは巧みに森の中にある獣の痕跡を見分け追跡していた!そしてエルフニンジャの一群はついに獣の姿を捉えた!

「グルルル……イヤーッ!」

 血走った眼でエルフニンジャを捉え、エルフニンジャに投石攻撃を仕掛けてくる恐るべき獣、殺戮オランウータン! エルフニンジャは投石攻撃をステップ回避! 身軽な身のこなし!

「我らエルフニンジャ一党!貴様は森のルールを逸脱した! それ故に貴様を狩り殺す!」

「グルルル……コロス!」

 怒れる殺戮オランウータンは自らの獣性を発露した!その肉体からは強い殺人鬼の闇のオーラが放たれていた!

「ウォーッ!!」

 殺戮オランウータンはエルフニンジャの一人に向かって突進!エルフニンジャはカタナを構え応戦した!すさまじい鍔迫り合いが発生する!

「殺戮オランウータンを狙え!」 

鍔迫り合いの最中エルフニンジャは弓を構えた!そして次々に殺戮オランウータンに向かって弓を連射する!なお、エルフニンジャには矢避けの加護が備わってるので矢の攻撃は無効だ!

「グワーッ!矢攻めとは卑怯だぞ!」

 流石の殺戮オランウータンも弓矢の集中砲火には耐えかねたのか苦しい表情だ!カタナのエルフニンジャはその隙を逃すほど甘いエルフニンジャではない!

「そこだ!」

 カタナが一閃!殺戮オランウータンの右腕が両断された!殺戮オランウータンはたまらず悲鳴を上げる!しかし殺戮オランウータンの両目は強い殺意の意思は消えない!

「グォーッ!」

「ウギャーッ!」

 殺戮オランウータンの左爪がカタナのエルフニンジャを捉えた!カタナのエルフニンジャはピンボールの玉めいて吹き飛ばされる!

「ドーンブレイドさんがやられた!」

「いい奴だったのに! みんな行くぞ!」

 エルフニンジャはすぐさま突撃を敢行!一気に殺戮オランウータンを叩き潰す算段だ!

「グルルル……コロスコロスコロス!」

 殺戮オランウータンは切断された右腕の痛みに悲鳴を上げながら狂暴化!左爪は凶悪なまでに鋭くなった!エルフニンジャと殺戮オランウータンどっちが勝つか!恐るべき闘気が森を包み込む!

「食らえ! エルフカトン・アロー!」

 エルフニンジャが放った超自然の炎の矢が殺戮オランウータンを襲う!

「エルフライトニング・イアイ!」

 紫電を纏ったカタナの斬撃が殺戮オランウータンを襲う!

「トルネイド・フィスト!」

 暴風めいたエルフニンジャのカンフー奥義が殺戮オランウータンを襲う!

「ウォーッ!」

 隻腕殺戮オランウータンの狂暴な雄たけびが響き渡る!


◆◆◆◆◆


エルフニンジャと殺戮オランウータンの暴虐の戦場はまるで大嵐の過ぎ去った後のようであった。あたりにはエルフニンジャたちの死体が転がっていた。エルフニンジャの猛攻をしのぎ切った隻腕殺戮オランウータンだったがその身体は満身創痍であった。しかし殺戮オランウータンの目にはいまだに強い殺人の意思が宿っていた。今は身体を休めなければならないと身体を引きずりながら逃亡しようとしていた。だがそれを阻まんとする影が現れた。

「殺戮オランウータンよ……アナタはここで殺す」

 それはエルフの巫女、イリアだった。殺戮オランウータンは左爪を構える!

「死になさい! エルフカトン・メギドフレイム」

 イリアの手からエルフカトン・アローでは比較にならない火炎弾が殺戮オランウータンを襲う!エルフニンジャの激戦で消耗していた殺戮オランウータンはこれには耐えられなかった!

「グォーッ!この恨み晴らさでおくべきかー!」

 殺戮オランウータンは断末魔めいた雄たけびを上げるとメギドフレイムで焼き尽くされ灰になった!

「エルフニンジャも犠牲者が出てしまったわ……しかし森の平和は守られた」

 かくして殺戮オランウータンの凶行は終わったのだ。


◆◆◆◆◆


深夜の深い森の中、殺戮オランウータンの切断された右腕が地面に落ちていた。それを見つめる影は殺戮オランウータンの右腕を拾い上げるとニヤリと笑った。

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