第58話 「命無き戦士」





「死体!?どうしてそんな物が!?」


アルバ殿は混乱して叫んでいたが、私には分かった。


“もしや、その死体には、既にバチスタ博士と同じ細工が施されているのでは…!”


アームストロング氏は、私達が見た事を話して聞かせる。それに、アルバ殿も、博士がどうなったのかは知っているのだ。


「アルバ。メルバ。多分その死体は、バチスタ博士のように利用するためにある物だ。だから手を出さず、我々は早急にオールドマンを探し出し、捕らえたらすぐに逃げよう」


「わかったわ」


アルバ殿は頷いたが、話の途中からメルバ殿は顔に手を当て、悔しそうな顔をしていた。私は気になっていたのだ。案の定、メルバ殿は手を上げてこう言った。


「わりい、ジャック。俺、どうしても死体部屋のロックが出来なくて…」


すると、アームストロング氏は、打って変わって厳しい態度になった。彼は声を荒げてメルバ殿に詰め寄る。


「なんだと!?そんな重要な事を、なぜすぐに報告しない!もうこの館は危険かもしれないぞ!」


「だから、ごめんって」


気まずそうに顔を逸らし、メルバ殿は謝る。私は割って入ろうかとも思ったが、メルバ殿も一人前の捜査員だし、それはやめておいた。


「ああもう!その部屋はどこにあったんだ!」


「えっと、入り口近くの、曲がり角手前に…」


メルバ殿がそう言おうとした時、何かが私達の前に飛んできた。私は飛行体の運動音を聴き分けていたので、それを叩き落として、みんなに注意喚起をする。


「攻撃です!皆さん体を伏せて!アルバ殿!ロペス中将を守って下さい!」


「了解!」


私が潰したり、燃やしたりしたロケットからの煙で、すぐに何も見えなくなった。でも、アルバ殿は「目」を持っているし、メルバ殿も少しならそれがある。問題はアームストロング氏と、ロペス中将だ。私は、アームストロング氏を探す。


「アームストロングさん!私の声を聴いて、近くへ来て下さい!シールドを張ります!他の皆さんも、出来るならそうして下さい!半径5メートル以内であれば、完全なステルス化を行えます!」


煙の中から、返事があった。


「わかった!みんな!聴いたか!?」


「ええ!もちろん!そっちに行くわ!」


だが、メルバ殿は返事をしなかった。1人で戦うのに精一杯なのかもしれないと思い、私はまた叫ぶ。その間にこちらへ銃撃があったので、元を探して狙撃し、恐らく私は既に、5体の敵を倒した。


“敵の体力は無限だ。彼等は永久機関をエネルギーとして与えられている。だが、凍らせれば!その事を伝えなければ!”


「皆さん!敵は永久機関を背負わされています!凍らせて下さい!エネルギーの循環を不可能にするのです!」


「ええ!こちらは3体始末したわ!これより、冷却させます!ロペスさん、作業中は援護して!めくらめっぽう、撃ちまくるだけでいいわ!」


「オーケー、嬢ちゃん!」


そこらじゅうで戦っている仲間の声がする中、メルバ殿の気配だけがしない。私は戦闘に夢中になっていたが、一瞬だけそれをやめ、メルバ殿特有の、強火力エネルギー炉を探した。


“無い…?なぜ…?遠くへ離れてしまったのか?”


どう探しても、メルバ殿のエネルギー炉だけ見つからない。


ロペス中将の体はすぐに見つかる。手前には敵が迫っていた。私はそれを急速冷凍させ、すぐに葬る。そしてまたメルバ殿を探した。


アルバ殿の小さな両目。私の後ろに居る、アームストロング氏の正しき永久機関。みんなあるはずだ。


“そんなにすぐに、エネルギー停止に追い込まれる訳もあるまい?どうしたんだ?メルバ殿はどこへ消えた?”


「アームストロング殿!メルバ殿が見当たりません!アルバ殿!あなたの目で何か分かりませんか!」


私がそう叫ぶと、爆炎と炎の向こうから、アルバ殿の金切り声が聴こえた。


「ちょっと待って!こいつら数が多くて、ええい!まとわりつかないでよ!ロペスさん大丈夫!?」


「うるせえな!こっちも一人引っ付いて来てるんだ!このままじゃあぶねえ!ターカス!なんとかならないか!」


その時、その場の物音の内、敵の体が軋む音、爆弾が爆発する音が、ほとんど止んだ。どうしてそんな事が起きたのかは分からないが、私は視界を保つべく、送風機で煙を吹き飛ばす。すると、意外な者が現れた。


「メルバ殿…!?」


そこには、勝利の微笑みを湛えたメルバ殿が立っていて、みんなに向かってこう言った。


「あの部屋で、俺、プログラミングのコンピューターを見つけてたんだ。でも説明がまどろっこしいし、一人で行ってきた。なんとか、俺一人でも停止出来たぜ」


それを聴き、アルバ殿は飛んで喜び、ロペス中将とアームストロング氏は胸を撫で下ろした。





「それにしても、人間の中にロボットを埋め込み、遠隔操作による爆撃などを行うのか。厄介だな」


私達は、死んだ人達の墓を取り急ぎ形だけ作り、凍らせた体は、新しいシップを呼び寄せて、厳重に運ぼうという話をした。オールドマンの屋敷からはもう引き上げなくてはいけなかった。ロペス中将がかなりの怪我をしていたからだ。


メキシコへの帰りのシップで、私達は話している。私達の傍らには、凍った博士の体が、保存袋に入れられていた。


「ああ。どう考えても、街中で混乱を起こすためだ。オールドマンは、その手段を持って逃げたんだろう。奴が逃げそうな先へ、追わなきゃならない」


メルバ殿は、深刻な様子でそう話す。


「しかし、オールドマンの知り合いらしい博士すら、こんな事にするとはな。冷酷な奴だ」


私はそこで何かを言いたかったが、博士の入れられた樹脂製の袋を振り返る事も出来なかった。





私達が帰ってから、私はホーミュリア家にはまだ戻らず、検疫を受け、更にロボットとしての検査をし、あとは、捜査の行く末の話に加わった。どうやら私“ターカス”は、捜査員ではなくとも、重要参考人として扱うと、アームストロング氏から話があった。



「シルバ殿」


「お久しぶりです、ターカス」


私達はまた一同に会し、銭形殿を悼んでから、話を始めた。


「遠隔操作の生物兵器。しかも人間、ですか」


シルバ殿は、凄まじいスピードで私達の話を整理し、データ化しようとしているようだ。彼はいくつものウィンドウにそれを違う形で書き留めている。日付、場所、時間、人数、エネルギー性質、攻撃形態等々。


「もしそれが街中に解き放たれれば、大変な事になる」


アームストロング氏はそう言う。腕を三角巾で吊って、頭に包帯を巻いたロペス中将も、「うむ」と頷いた。私も自分の見た事は話した。


シルバ殿の返事を待っていると、彼は一つだけウィンドウを新しく立ち上げ、それをこちらに向けないままで、こう話した。


「次にオールドマンが行く場所ですね。彼の隠れ家については、実はいくつか調べがついています。皆さんが出発してから、僕は次の手を打つため、政府の援助を受けられるように取り計らい、オールドマンの身辺を洗いました。出てきたのは、3箇所です」


「3箇所…」


私はその多さに、少し不安に思って、そう声に出してしまった。シルバ殿は頷く。


「それはどこなんだ、シルバ」


アームストロング氏がそう言うと、シルバ殿がこう答える。


「1箇所はシベリア、もう1箇所はニューヨーク。もう1箇所は…メキシコシティです。皆さんは、オールドマンがこの内のどこに行きたがると思いますか?」


私達は、それを聴いた時、全員が同じ事を考えただろう。その場に、緊張した沈黙が立ち込めていた。





つづく

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