第23話 「潜む者」





「世界連が主導して…!?そんな事、あるはずがない!」


私がそう言うと、エリックはまた呆れ笑いをした。私は更にこう言う。


「だって、グスタフに指示をしている者が誰かも分からないんでしょう!?それに、そんなのは非現実的な虚構です!」


その時グスタフは俯いていたが、もう一度顔を上げると、こう言った。


「じゃあ、汚職を見抜いた職員が変死をするのは、現実的なのか?」


私は何も言えなかった。確かに、もうそんな事は言っていられない非常事態だったのだ。


「グスタフが利用しているいくつかのキャッシュサービスのデータへ、俺は潜り込んだ。うまーく隠された一つの会社で、給与や賞与なんて目じゃない、とんでもない金額の送金がされた記録があった。そして、相手のアカウントを探って…長い時間は掛ったが、送金をした人物の名前を確かめられた」


私は緊張し、興奮しながら「誰だったんです」と聞く。エリックは立ち上がりながら答えた。


「ミハイル・マルメラードフ。世界連、暴力犯対抗室の室長だ」


「それは、どこからお分かりになったので…?」


「初めに見つけたのは、偽装された捨てアカウントだったさ。でも、アカウントの情報を得るために、キャッシュサービスのネットワークへ侵入した。一時的にジャックしたんだ。すると、デバイス使用者の氏名と住所が出てきた」


「でも、それは…」


そんな事をする人物が、当たり前に正しい情報を入力しているはずがないと思った。思った通りに、エリックは頷く。


「ああ。偽名で、デタラメな住所が登録されていたよ。ご丁寧に証明も偽造したらしい。デバイスの情報も、位置情報まで偽装されていた。でも、デバイスと位置情報の偽装は、元々あったデータに上書きをしなきゃできないものだ」


「そこから割り出したのですね…」


エリックは壁際まで歩き、そこへ背を預けると、腕を組んでこちらを向く。


「そのアカウントからは、2年間で計4回の送金がされ、どれも莫大な金額だった…世界連からグスタフへ送金をした記録は、帳簿に残されているはずがない。そんな必要はポリスにはねえからな。だからこれは、俺の主人が睨んだ通りの、一大汚職事件のはずだ」


「そうだったのですか…」


「ただ、分かっているのは、世界連の職員から、グスタフへの莫大な送金があったって事だけさ。マルメラードフが指示を出しているのかまではわかっちゃいねえ」


私が下を向いて事を整理していると、エリックは壁際からドアへと歩き出した。


「事情の説明は済んだな。お前の足を持ってきてやるよ」


私はそれを聴きながら、“このままでいいはずがない”とだけ考えていた。





「これは…」


私の手の中に、ロボットの目の部品があった。それは、アームストロングさんが渡してくれた。


「見覚えはありませんか?ヘラ嬢」


私に心当たりはなかった。だから私は「ありません」と言う。


その時、ソファで仮想ウィンドウをタップしていたシルバ君が振り向いた。


「ありました、アームストロングさん」


それでアームストロングさんも後ろを向き、シルバ君のウィンドウへ近寄っていく。私は手に持った目をどうすればいいのか分からなかったけど、そのまま持っていた。


「ほう、真っ当な家庭用ヒューマノイドだな」


「主人は、ポリスの職員のようです」


遠くに居た私にも、ポリスの職員さんの名前が見えた。


「ジミー・マクスタイン、か。ではまず、この家に行ってみよう。銭形、君も来てくれ」


アームストロングさんと銭形さんは頷き合って、シルバ君は仮想ウィンドウをすべて閉じる。私はその時、ドキドキして、怖かったけど、居間を出て行こうとした二人にこう言った。


「私も連れて行って!」


二人は振り向いて、怪訝そうに首を傾げる。それからすぐに「ダメです」と言った。


「お嬢様、これは危険な仕事です。あなたを連れて行くわけにはいかないのですよ」


アームストロングさんがそう言うから、私はもう一度繰り返す。


「いや!ターカスを連れ戻すんでしょう!?私が行かなくて、どうするっていうのよ!」


銭形さんはため息を吐いて額に手を当てた。


「我々はあなたを守るのが仕事なんだ。こんな事に関わらせたなんて知れたら、クビが危ないんです」


その言葉に私は反論出来ず、その間にドアをくぐっていった二人を睨みつけ、じっと黙っていた。


何も出来ない自分が情けなかったし、ちゃんとターカスが帰って来るのか分からなくて、私は不安だった。


「お嬢様…」


マリセルが心配そうに私を呼ぶから、仕方なく私はテーブルに戻った。





つづく

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