第19話 「大いなる陰謀」





「ねえ…その、“自動射撃システム”って、何かしら…?」


私が聞いた事に、青い髪の男の子が答える。


「あなたが居た「過去都市ケルン」の一帯は、世界連によって人類が締め出されてるんだ。近づこうとすれば射撃されて、シップも簡単に墜落する。どうやら、ターカスはそれを跳ね返せるらしいけどな」


その男の子は、なんだか納得していない様子で、私を見て、文句みたいにそう言った。


「そ、そんな事に…そんな場所にターカスを残してきて、大丈夫なのかしら?」


私は慌てていたのに、青い髪の男の子は動じないで、やや呆れたように、脇を見てこう言う。


「大丈夫だろ。まだ銭形とは勝負してねえけど、アルバを一瞬で破壊出来るんだからな」


「えっ?破壊って…?アルバって、何…?」


私がそう聞いても、青い髪の男の子は「それはいいんだよ」と言って、こっちを見てくれなかった。そのまま、話は移り変わる。


「要は!ターカスが捕らわれるとしたら、よほどの力が必要で!銭形達がケルンに侵入する時間を知ってなきゃ無理って話!」


私はそれを聞いて、なんだか物語を目の前で読まれているような気分になった。だって、それは多分、とても強い人達にターカスがさらわれていったって事だろうし、そんな事、本当にあるのかしら…?


「じゃあ、ターカスは…」


そこで初めて、お洒落な上下揃いのスーツを着た「捜査員さん」が口を開いた。彼は私に向かって、ゆっくりとこう話す。


「あなたを置いて家出をしたか、もしくは何者かに捕らえられているかのどちらかです。どちらがより可能性が高いですか?」


私はもちろん、「ターカスが私を置いていくはずがない」と言いたかった。でも、家庭用のメイドロボットを、殺されるかもしれない局面に立ち向かってでもさらいたい人なんて、居るのかしら…?


私には、確かめないといけない事がある。この数日のケルンで起きた事だって、全部知ってるわけじゃないから。私は少し顎を引き、捜査員さんを見詰めた。


「ターカスが、私を置いていくわけはありません。でも…もしターカスがさらわれたんだとしたら…今度はあなた達の思い当たる理由を、伺いたいわ」






眼帯をした彼は、名前を「エリック」と名乗った。亡き主人にそう呼ばれていたと。「型番はΨ-AH56602だよ」と何気なく彼が言った事で、少々古い型なのは分かった。ギリシャが大戦で滅んでしまってから、ギリシャ文字はこの二十年ほど、あまり使われなくなったからだ。



亡き主人の事を話してからのエリックは、部屋の真ん中に座って私達に囲まれ、胡坐をかいたまま俯いていた。


エリックは、私達が今居る場所を、「以前、世界連が持っていた凶悪犯の収容所だ」とも説明してくれた。それから彼は、こう言った。



「お前達にしか頼めないんだ。お前達は、戦闘と諜報のスペシャリストたるロボットだ。もしポリスのトップが世界連にでも話を持って行ったら、俺一人じゃ、絶対に太刀打ち出来ない。それに、兵器として発明されたロボットの内で、世界連が保有している以外に残っていたのは、お前達だけだったよ…」



私の心は、やはり痛んだ。エリックの言う事が正しいのだとしたら、これは、大いなる陰謀によって理不尽に殺された人のための、報復であり、遺された意志の貫徹だ。でも、選ぶ方法によっては、エリックもただの殺人犯となってしまう。だから、言葉を慎重に選んだ方がいいと思った。


「エリック。あなたは、亡きご主人の意志を貫ければよいのですね?それなら、どこかに、その「グスタフ」の息の掛かっていない人物は見つけられなかったのですか?」


エリックは俯いたままで、ゆっくり首を振った。めまいを起こしているように。


「居ないよ…ポリスを直接動かせる権限を持った者は、全員グスタフの手駒みたいだ…俺は、それもおかしいと思ってる…要は、ポリスを動かしているのは、グスタフだって事になる…」


「グスタフがポリスを?グスタフより上の立場の者は居ないのですか?」


「居るよ。でも、全員強い権力は持ってない。グスタフの方が、現場指揮のトップであるがために、即座に権限の行使が出来て、発言力もある…」


私は、彼が話している事を聞いていて、ますますエリックの話を信じる気になった。でも、だとしても、その「グスタフ」を葬るより、その企みを白日の下に晒して彼の罪を裁く方が、正しい道だと思えた。


「エリック。あなたは認めないかもしれませんが、やはりあなたの起こそうとしている事は、非道な行いなのです。そんな事は、あなたの主人も望みません。あなたさえその陰謀の犠牲となるかもしれません。そんな事は、あなたのご主人は許しませんよ」


私がそう言うと、エリックはゆらりと首を上げ、私を睨みつけた。


「…そうだ。これは、俺の意志だ」





つづく

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