第18話 「捕らえられたワケ」





私は、腕を磁力錠で縛られたまま、彼に反論した。


「ここに居る者達は、自分の意思で来たわけではないのでしょう。あなたに従う者など居ないはずですよ」


そう言うと彼はつまらなそうな笑いを漏らし、私をじっと見詰める。その時初めて、彼が真剣な顔をしているのを見た。そしてその表情は、だんだんと苦悶に歪むように力なくなっていった。


溜息を吐いて、彼はある話を始めた。




「俺の主人は、ポリスの一職員だった。データ管理の一部を担わされていた…」


初めは、私のほかに居た同じ型のロボット達も、大して興味を持っていなかったが、あるところでみんな顔を上げた。


「改ざんを発見したのは偶然だったが、それが主人の命取りとなった…」


彼は地下室より上を見上げて、天に昇った主人を恋しがるような顔をした。


「よく調べてみれば、ポリス自体が、武器密輸、及び売却に関わっている証拠が出てきたんだ…もちろん主人は真っ向から勝負したりはしなかったし、メディアに売ろうともしなかった…だから、グスタフという、自分のよく知る上司で、それなりの地位にある者のところへ、その話を密告するつもりでいた…それは日記に書いてあった…俺がその日記を読んだのは、主人が何者かに密かに殺された後だ…」


その場に居たロボットは、もうあっという間に、釘付けになって話を聴いていた。


「その後は俺が調べた。グスタフこそ武器売買の指図をする張本人で、奴は更に上からの指令で…これは誰かは分からないが…とにかく上の人間から、領地を広げるための戦争を助けるよう、指示されていたらしい…原因は、食糧問題だとよ…俺の主人は、そんな事で殺されたんだ…!」


だんだんとロボット達は彼に向かって同情に満ちた目を向けるようになって、彼は最後にこう言った。


「まあ、他人様の弔い合戦のために人を殺そうなんて、思うはずもないだろう…でも、俺一人じゃ、この世界を牛耳るポリスの権力には、勝てない…だから、頼む…」





「ねえマリセル。ターカスはどうして帰って来ないのかしら?」


「さあ…それは本当に、わたくしにも分かりません、お嬢様…」


「変だわ。私が居る所にはいつも駆けつけてくれたし、私を放っておいてどこかに行くはずないもの」


私とマリセルはそう話して、二人でお茶を飲んで、「バステマ」を食べていた。ふわふわの生地にクラブの香りが華やかに香る焼き目。それはとても心が和んだけど、ターカスが帰ってくるまでは、心配が拭えないもの。


私は後ろを振り向き、歩行器をちょっと動かした。ソファに陣取って、何事かをひそひそと喋っている「捜査員さん」達に、私は近寄っていく。


「ねえ、あなた方。あなた方のお話ししている事を、私にも分かりやすく聞かせて頂くのはいけませんかしら?」


すると、私を振り向いた、アームスーツ(と呼ぶらしい)の戦闘員さんは黙り込み、もう一人居た大人のポリス捜査員さんも、口を噤んだ。でも、白い髪の男の子は答えてくれた。


「本当は、一般市民に聴かせてはいけないのですが、ホーミュリア様、あなたの意見も伺いたかったのです」


「おいシルバ!」


大人二人が慌てだすのがなんだかおかしくて、私は「じゃあ、聴かせてちょうだい」と先を急かしてしまった。


白い髪の少年は少々俯いていたけど、何かを整理し終わったのか、顔を上げて私の目を見る。


「ターカスが居なくなったのは、あなたが僕達に連れられて行く時の前後、数分もないでしょう。あなたは、「家に銭形殿が現れる数分前に、ターカスは出かけて行った」と言いました。そして、あなたがその場を離れるとなったら、ターカスは遠くに居てもそれを確かめられますから、すぐにあなたを追ってくるはず…」


私は、あんまり男の子の言う事が正確だから、びっくりしてしまった。


「え、ええ、そうね…」


男の子はなおも真剣な顔で、私にこう訴える。


「ターカスが負傷して破損する可能性は低いです。それなら、今度はターカスが家出をしたのかと思いたいですが、彼は必ずあなたについてくる。それが出来ないとなると、誰かに破損されたのかもしれません。でも、その時刻が問題なのです」


「問題って?なぜそんなに時間が問題なの?」


大人達は必死で私達の話を聴いていながら、どこか気まずそうな面持ちだった。


「あの時、自動射撃システムは、あなたがいらっしゃった付近では、完全に停止していた。可能性は低いですが、あの土地に元々居た者か、もしくはシステム停止の時間を知っている者以外に、ターカスを破損出来た者が居るはずがないんです」





つづく

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