第11話「彼は知っていた」





「何!?今の音!」


私はその時家の中に居たけど、突如として大きな爆発音のようなものが家を包み、揺らした。


コーネリアがびっくりしてしまって、鉄網の中で走り回り始めたので、私は急いでコーネリアを抱き上げて、その背中を撫でる。


「コーネリア、大丈夫、大丈夫よ…」


私はおそろしくて、「外に出て確かめてみよう」と考えることができなかった。早くターカスが戻ってきて欲しいとだけ願っていると、ほどなくして家のドアは開き、ターカスが玄関口に立つ。


「…ターカス、どうしたの?何があったの…?」


「なんでもございません。少々のことですので、お気になさらないで下さい」


そう言ってターカスは服に付いた泥汚れを払っていた。


「でも、地鳴りみたいな…爆発音みたいな音が…」


「お嬢様…」


「ターカス、本当のことを言ってちょうだい」


私がそう言っても、ターカスは何も答えてくれなかった。


「…ねえ、どうして黙っているの?私、怖いわ!」


「大丈夫です、お嬢様。もう何もありませんから…」


私は歩行器に乗って、コーネリアを抱いたままターカスに近寄る。なぜかターカスは玄関から中へ入ってこようとしなかったから。


「ターカス…服が破けているわ…」


「ええ、少々、引っ掛けてしまいまして…」


「そう…ねえ、もう大丈夫なの?本当に何もなかったの?ちゃんと答えてちょうだい、ターカス」


「ええ、ヘラお嬢様。何もありませんよ。地鳴りがしたのは、私が着地を少々誤ったからでしょう。遠くから飛んで来ましたので」


「そう…」


「それより、今日は生きた蟹が手に入りましたので、どうやってお召し上がりになりますか?」


「え、ええ、そうね、どうしようかしら…」


私はやっぱり腑に落ちないままだったけど、ターカスは後ろに隠していた蟹を見せてくれたので、それから二人で家に入った。










「アルバ!大丈夫か!」


私は、「令嬢奪還の失敗」の報を聞いてから、心配をしながら3人の帰りを待っていた。


戻ってきた時、メルバはボロボロになったアルバの体を背負い、マルメラードフ部長はゆっくりとアルバをソファへ寝かせてやった。


「大丈夫じゃねえよ。機能停止にまで追い込まれた。俺が連れて帰って来たんだ…」


「メルバ、君は右目が…」


メルバもいくらか負傷しており、特に右目の部品が抜け落ちていた。


「大丈夫だ、俺の目は片目で足りる」


「マルメラードフさん、あなたは現場でロボットの修理もすると聞きましたが、彼女を直すことは…」


「ここじゃ無理だ。部品も工具もないんだからね。彼女を一度「ポリス」の本部に戻した方が早い」


「じゃあシルバ、本部に連絡して、シップを寄越すように言ってくれ」


「了解しました」


それからアルバは機能を取り戻さないままシップに乗せられ、本部へと戻されていった。







「マリセル。いつまでも泣いていないで、これからする私の質問に答えて下さい。これは捜査官としてのものです」


私たちはまた作戦を練るはずだったが、私はとにかくマリセルの話を聴きたかった。


「は、はい…なんでしょうか…?」


泣き顔を変えないまま、マリセルは私の方を振り向く。


「急にどうしたんだよ、ジャック」


「ターカスの出自についてだ」


「ターカスの…?わたくしは何も知らされておりませんが…」


「どういうことだね、アームストロング君」


私は、居間のテーブルの上にあったダガーリアの日記のうち、5冊目を取り上げて最後のページを開き、マリセルへ向けた。


「嘘をついてもすぐに分かる。この前当主ダガーリアの日記には、“亡き息子ターカスの名と、その魂をプログラミングしたあのロボット”、とあります。おそらくダガーリアが死の前日に書き残したものでしょう」


「そして、ターカスの廃棄を、マリセル、あなたに任せるとも書いている。マリセル、あなたは知っているはずだ。残らず話してもらいましょうか」


「そんな…!わたくしは、つい最近雇われてきただけです!そんなこと、知りようもございません!」


ただうろたえているようにも見えるが、日記に書いてあることが本当なら、「ホーミュリア家を守るためにシラを切っている」とも見えた。


「だが、さっきは「ターカスが雇われてきたのはヘラ嬢の弟君が亡くなった頃だ」と答えることができた。君はターカスのことをよく知っているはずなんだ」


「わたくしはつい先ごろ、ターカスがお嬢様を連れ去ったと確信して、さらにお嬢様が死んだと聞かされたのですよ!そんな根も葉もないことでこれ以上私を苦しめないで頂きたい!」


マリセルはまたおいおい泣き出して、ついにはそう叫んだ。だが私は疑いを捨てなかった。


「それは本当ですか?」


「えっ…?」


「本当にターカスがヘラお嬢様を連れ去ったのですか?私たちは、あなたが持ってきたメモを見ただけです」


「私が勝手にあれをでっち上げたとでも…?」


「あなたは早くターカスを葬りたかった。だが、軍用戦闘ロボットの寝首を搔くのは至難の業だ。そこへ、ターカスを押さえ込めそうな我々がやってきた…」


しばらく場は沈黙していた。マルメラードフ部長は話についてこれていないまま驚いていて、シルバは私が話を始めた時から、仮想ウィンドウをいじっていた。


当のマリセルは驚きと悲しみに打たれた時のように震えていたが、やがてまた叫び出す。


「わたくしが、あなた方を利用してターカスを破壊させようとしたと…!?なんてことです!わたくしはお嬢様の身の安全を考えていただけです!どうしてそんな疑いを掛けられなければいけないのですか!」


「ではマリセル、あなたは本当に何も知らなかったのですか?」


「知りませんよそんなこと!わたくしは今それどころではないんです!もう放っておいてください!」


「そうですか…」


「いいえ、あなたは知っていたはずですよ、マリセルさん」


そう言ったのはシルバだった。彼は多くの仮想ウィンドウのうち1つだけを残して、マリセルの方へとそれを向ける。


「へっ…?」


「ここに、僕が引き出した、このメキシコシティの、ロボット管理局のデータがあります」


「シルバ、君はさっきからずっとウィンドウを動かしていたが…」


シルバは画面に出たものを読み上げる。


「ホーミュリア家メイドロボット「ターカス」廃棄予定10月18日とあります。届出人は、ホーミュリア家メイド長「マリセル」、届出日は9月23日となっている。前当主ダガーリアが亡くなったのは、9月13日です」


「じゃあ、さっき君が言っていたのは…」


そう言ってマルメラードフ部長がマリセルを振り向くと、マリセルは急いでうつむいた。


「これはあなたがこの家に来てから、自分で届けたものです。メイド長とされるロボットにだけ許された権限を使って…」


シルバはそう言ってから、ウィンドウを閉じた。私は改めてマリセルに向き直る。


彼は怯えた様子はなく、だが、さっきよりよっぽど落ち込んでいるように見えた。


「マリセル…話してもらいましょうか」







Continue.

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る