夢見る熱帯魚

坂田メル

氷菓幻惑遠雷少女 第1話


『自殺したいけれどなかなか踏み出せない。そんな自分が惨めで嫌い。そんな風に思っているそこのあなた。大丈夫、私たちがあなたを助けます。詳しくはこちらをクリックしてください。』







 ▽







 ▽








 そもそもの元凶はあの夜、彼女に出会ってしまったことだ。

 いくつか原因を挙げることは出来るが、元凶は何かと聞かれれば確実に彼女が悪い。いや、悪いと言ってはいけないかもしれない。彼女たち異能者メイアがやっていることはある意味人助けなのだから。




 ▽




 8月9日水曜日。午前2時21分。僕は目を覚ました。不意に喉の渇きを感じて欠伸をしながらキッチンへと向かう。

 冷蔵庫を覗き込むがちょうど飲料物は切らしていてミネラルウォーターの1本も無い。溜め息をつく。水道水を飲むことも考えたが、最近話題のニュースである過剰消毒問題を思いだし止めた。

 過剰消毒問題とは、水道水を消毒するための塩素が規定の量より多く検出されたことにより浮上した問題である。消毒に使う塩素量を設定、制御しているのはコンピューターであり、そのコンピューターにバグが生じたことで起こった事故だった。

 多くの事をコンピューターが司るようになった。ただ、全てがコンピューターやAIに支配されていないのはひとえ異能メイアのお陰だろう。メイアとは、人間が獲得したこの世界で生き残る為のすべだ。

 30年程前。地球に大きな隕石が接近した。世界の終わりが叫ばれ、誰もがもう駄目だと諦めかけたとき、突如何人かの体が発光を始めたのだ。いや、何人なんてものではない。世界人口の半数の人間に、その時メイアが備わった。何故半数なのか。それは分かっていない。

異能者メイアである人間は選ばれたのだ』という思想が生まれなかったわけではないが、直ぐに法の整備がなされたため差別等は殆どなかった。一昔前は法律を1つ作るのにも多くの時間がかかっていたらしいが、地球存亡の危機を経験した人類は素早かった。コンピューターの指示もあり、たった3ヶ月程度で世界は生まれ変わった。

 異能メイアは自然や人心に干渉することが出来るが、限界があること。

 メイアを持たないことを意味する持たざる者ノン・メイア蔑称べっしょうではなく、ただ分けるための名称でありそこに意味は存在しないこと。

 メイアがノン・メイアを異能によって攻撃することは大罪になること。

 こういった法律のお陰で僕らノン・メイアは安心して暮らせている。もちろんメイアを守る法律だってある。

 話がずれたが人間がコンピューターに支配されていないのは分業がしっかり出来ているからだ。

 メイアに任せた方が良いこと。ノン・メイアに任せた方が良いこと。コンピューターに任せた方が良いこと。そこの線引きをはっきりさせたことが良かったのだろう。

 まあとにかく、今僕が求めているのは飲み物だ。水道水は嫌なのでコンビニにでも行こうか。

 財布と家の鍵、それから携帯端末だけを持って家を出る。

 時間にして約1分30秒。それだけで僕の運命は決まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る