第7話:クソ女

「美夜、やっぱ僕のこと好きでしょ」


 タバコを置いて、何も答えない彼女を抱きしめて囁く。「僕は君が好きだよ」と。その一言で、彼女の心音は加速して体温が上がる。


「……ねぇ美夜、もう一回しよ」


 誘うように囁いて、彼女の身体を身体を撫でる。すると彼女は、今度はちゃんと手を振り払って拒んでくれた。


「……私以外にも同じことしてるくせに」


「仕事だから」


「……仕事、辞めて」


「ごめん。仕事は辞められない」


「……私が好きなら、辞めて」


「無理」


「辞めてくれないと付き合えない」


「別に僕は付き合いたいとは言ってない。好きだとは言ったけど」


「っ……あんなに優しく抱いておきながら……!」


 彼女は振り返り、僕の頬を叩いた。その瞳にはまだ恋情が残っていた。


「ごめんね。僕はもう、どれだけ女を抱いたって、愛されたって、全く満たされないんだ。……穴が空いてるんだ。誰かに温めてもらったって、すぐに冷めてしまう。幸せをもらったって、ぽろぽろと溢れ落ちていく。虚しくて、寂しくてたまらなくなる。だからごめんね。僕は、常に人の温もりを感じていないと駄目なんだ。点滴みたいなもんだよ。これが無くなったら僕は死んでしまう」


「……依存症ね」


「自覚はある。だからさ」


 彼女を抱いたまま横に転がり、彼女を上に乗せて囁く。


「僕を愛しているというのなら、直してみせてよ。僕の心に空いた穴を。君の愛で修復して」


「……他の女も抱くけど愛してなんて……そんなの……勝手すぎるわよ……」


「……分かってるよ。だから、断って」


 彼女の恋心をぐちゃぐちゃに踏み躙りたい。彼女が向ける恋情が痛い。

 だけど、彼女を傷つけたくない。彼女の愛が欲しい。彼女を愛したい。僕を救ってほしい。

 矛盾した感情が渦を巻いて吐きそうだった。自分でももう分からなかった。彼女を遠ざけたいのか、逃したくないのか。だけど、彼女がどういう答えを出すかはなんとなく想像出来た。


「あんたを繋ぎ止められるなら、なんでもする」


「……そう言うと思ったよ」


 こうして、僕は彼女と付き合うことになってしまった。

 今でも思う。同性婚が法律で認められていて、同性愛に対する差別も偏見もなくて、そして、この時僕に彼女を愛する余裕があったのなら、僕はきっと彼女と結婚していたのだろうと。そう思えるくらい、彼女は素敵な女性だった。素直じゃないけど可愛くて、優しくて、上品で、美人で。一つ残念なところがあるとしたら、一番若くて綺麗な時期に、こんなクズみたいな女を愛してしまったことくらいだろう。

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