クールなクラスメイトに傘を貸したら
@okwkkwd
エピローグ 傘を忘れた雪女
6月———梅雨の季節になり午前は晴れ、午後から突然雨が降り出すことも多くな
ってきている、そんな時期。今日も梅雨の季節らしく昼食休憩を過ぎたあたりから雨が強く降っていた。
図書委員の仕事が終わったので、暗くなる前に早く帰ろうとさっさと玄関へ向かう。すると玄関にクラスメイトである桧山由紀がじっと立っていた。大体こういう所でじっと突っ立ってるのは傘を忘れて途方に暮れている奴だと相場は決まっている。
ややあって、桧山は意を決したように「よしっ」と呟く。このままだともう行ってしまいそうだと判断した俺は咄嗟に「おい」と声をかける。
ここでようやく桧山は俺のことに気づいたらしい。
「青山君……何かしら?私はもう帰りたいのだけど」
冷たく突き放すような言い方。学年1の学力を持ち、運動神経抜群、容姿端麗である桧山の下に、入学式の直後は男女問わず多くの生徒たちが仲良くしようと桧山のもとに集まっていた。だがそれら全ての関わりを拒絶するような冷たい言い方をしていたことが思い出される。その結果ついたあだ名は『雪女』であった。
今も「あなたと話すことなんてありませんよ」と言わんばかりにこちらを睨め付けている。だが、それに怯えていても何かが変わるわけではないのでさっさと用件を切り出す。
「傘持ってきてないのか」
「ええ、今日の天気予報見てなかったの……悪い?」
「傘貸してやるよ、俺は予備の折り畳み傘持ってるから」
「いらないわ」
ここでおとなしく傘を受け取っていれば濡れずに帰れるのにもかかわらず、さすがは『雪女』というところか、即答で俺の提案を拒絶する。だがこのまま濡れて帰るつもりなのだろうか。雨足は先ほどよりも強くなっている。
「人に借りを作りたくないの、だから走って帰ることにするわ」
こちらの疑問に先回りするように答える。
「お前が借りを作りたくないというならこれは俺の借りでいいから傘を受け取ってくれないか。女子が濡れて帰るという状況を看過すると後悔しそうだ」
べつに俺が「そうか。風邪ひくなよ」とか言って放っておけば収まったのだろう。だがこの時の俺は桧山に傘を貸すということに理由なく強情になっていた。
「はぁ、分かったわ。そこまで言ってくれるならばありがたく借りるとするわ」
他人が恩着せがましく自分に対して何か施そうとしているとき、受けている側はどうにも断りにくい。向こうもこれ以上言ってもしょうがないと思ったのだろう、渋々ながら傘を受け取ってくれた。
「ありがとう。でもこれは私の借り。必ず返すから」
そう言って俺から借りた傘を開くと、さっと玄関から出ていくのだった。
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