エリクサーを作ろう!

「さあ始まりました! アリスちゃんによる『誰でもできる! エリクサー講座』始まります!」


「誰に宣伝をしているんだ……大道芸人にでもなるつもりか?」


「お兄ちゃん! ノリが悪いですよ?」


 俺は錬金術に関しては全く明るくないのだが、アリスが全てやるからということでエリクサーの制作に付き合わされていた。


「まずは水をご用意ください!」


「続けるのかよ……」


 アリスは水を魔法で生成してビーカーに溜める。


「ここで用意する水の純度が重要なので気をつけてくださいね!」


「純度も何も、水は水じゃないのか?」


 アリスは肩をすくめて分かってないなぁという顔をする。


「水にも不純物が混ざっていることは多いです、エリクサーみたいなデリケートなものはその辺にも気を使う必要があるんですよ!」


 そういうものなのか。俺は錬金術には無縁なので水は水だと思っていた。


「まずは火炎草をすりつぶして水に溶きます」


「はいよ」


 俺は火炎草を乳鉢に入れてグリグリとすりつぶしていく。もちろん手袋はしているが、実のところ制作前にアリスにマジックバリアを張ってもらっているので素手でも問題無いそうだ。手袋は気休めに過ぎなかったりする。


 空気に触れて朱く染まっていく、コレが火炎草と呼ばれるゆえんだ。


「はい、水に溶いてくださいね」


「分かった」


 用意されておいた水に溶かすと真っ赤に染まった水が出来上がる。


「では、それを蒸留しましょう」


 そう言ったアリスの手にはやけに首の長いフラスコを持っている。


「それをどう使うんだ?」


「まずコレを入れますね」


 ざあっと真っ赤な水をフラスコに入れる。そしてフラスコの首の部分を握る。


「まず握っている左手に冷却魔法をかけましょう」


 握っている部分から結露していく。次第にその露が凍っていくようになっていく。


「で、右手で炎を出しますね、燃料でもいいですが魔法の方がお勧めです」


「だから誰にいってるんだよ?」


 アリスは構わず続ける。右手の平の上に炎が発生してそれをフラスコの下へと持っていく。


「こうやると沸騰した水が左手の魔法で冷却されてループしていくんですね」


 確かに沸騰した水は左手の部分で蒸気から水に戻って再び垂れ落ちていく。


「コレで一体どうなるんだ?」


「熱によって成分が反応して無害なものになります」


「賢者力すごい、よく分かるな?」


「賢者ですから」


 よく分からないが天啓でも降りたのだろう。俺にはそんなことは起きない話だ。


 というかさらりと二つの魔法を同時に発動しているあたりすごいことをしている。普通なら魔道士二人を用意するか、火の方は普通に何かを燃やして作るところだろう。


 そんなことを考えながら様子を見ていると、ポコポコと泡を上げていた液体が次第に青くなっていく。


「コレで一つ目の材料はできあがりですね!」


「早いな……」


「まあ時間加速魔法を使いましたからね、真面目にやったら一晩くらいかかりますし」


 時空魔法はとんでもなく大がかりなものだったはずだが……こんなちょっと面倒だから、くらいのノリで使えるのだろうか? いや、王都あたりの魔道士は普通に使えるのかもしれないな。


「ではこちら、命の草になりますが、事前に火であぶってあります」


「もう突っ込むのも面倒くさい……」


「コレにマナを入れて煎じることで有効成分が出てくるわけですが……お時間がかかりますからもうすでに仕上がったものがこちらになります」


 一本の命の草をゴミ箱に入れて加工済みのものを取り出すアリス、コイツにとってはコレが普通なのだろう。


 その水は、草の緑色が濃く出ていた、コレは単品でも売れるほどの回復薬だろう。


「まあ実際は圧力をかけたり面倒なこともありますが、そういったことは魔法で処理することをお勧めします」


 それを二つ目の材料として隣に置く。


「最後にマンドラゴラのした……もとい、素材を用意しましょう」


「死体って……」


「お兄ちゃん! 変なところで耳ざとくならない!」


「はーい」


 呆れながら眺めていることにした。アリスはマンドラゴラを輪切りにして、酒に漬けていく。とびきり強いやつを酒場で注文しておいたとのことだ。


 もちろんアリスにはまだ早いと言ったらしいが、王都への献上品と言うと手のひらを返して一番強いやつを差し出したそうだ。


 それに漬けると……酒が真っ赤に染まっていく。まるでマンドラゴラから血が出ているような風景だった。


「さて、これで下準備は全て終わりました。 後は調合するだけですね!」


「レシピを知らないんだがどうするんだ? エリクサーのレシピなんて極秘のものだろ?」


「そこはまあ私の中の精霊が教えてくれましたから」


 万能過ぎるだろう。しかし、そうでもしないと不可能な代物だしな。


 三つの液体を一つの瓶に注ぎ込んでからアリスはその瓶に手をあてる。


「こうして魔力を注ぎ込むのが良いエリクサーを作るコツなんですね」


 アリスの手のひらから魔力が出ていたのが見えるとともに、瓶の中の液体は紫になり、次第に黄色くなり、最後には緋色になった。


「まあざっくりこんなものですね。エリクサーと言っても強力な回復薬全般を指しているので作り方はコレ一つではないですが」


「エリクサーって一つじゃないのか?」


「ええ、上級品から薬草よりマシくらいの製品まで多岐にわたっていますよ。これはその中でも最上級品ですね」


「すごいんだな……」


 アリスは微笑んだ。


「そうですよ! 私はとってもすごいんです」


「で、後はコレをギルドに納品するだけか?」


「いえ、そろそろ連中も着くんじゃないですかね」


「連中?」


 そう聞こうとしたときに玄関のドアがノックされた。


 なんだろうと思って玄関を開けると身なりの良い紳士らしい人が立っていた。


「アリス様にお願いしたエリクサーはできておりますかな」


「え……はい! 少々お待ちください!」


「アリス! なんか貴族様が来たんだが……?」


「はいはい、今行きますよ」


 そうしてアリスはさっき作ったエリクサーを手に玄関にと向かっていった。


「これが完成品です。あんまり外に漏らさないようにしてくださいよ? お互い平穏に過ごしたいでしょう?」


「はっはっは、もちろんですとも。我々は秘密を守ることに関しては確かですからな」


 そう言ってエリクサーを受け取って少し離れたところに待たせてあった馬車に乗って去って行った。その時俺はその幌馬車の後ろにある紋章に目がとまる。


「なあアリス……あの紋章って貴族のものだよな?」


 貴族以外に使われると結構な罪になるはずだ。一般人ならそんなものをわざわざつけることは無い。


「さあて、なんでしょうかね? 私にはさっぱり分かりませんね」


 そう言って楽しそうにするアリスに俺は何も言えなかった。

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