ドリーム・コネクト

車田 豪

第1話

「やぁ」


 優し気な声が、頭の上に掛かる。眠っていた私が目を開けると、若い男の人が私の顔を覗き込んでいた。


「誰?」


 寝起きでうまく回らない呂律のまま、私は彼に問う。


「僕? 僕は、眠り人」


 男の人は私の顔を覗き込んではいるものの、目は瞑ったままだ。


「起きて、喋ってるのに?」

「そう見えても、僕はいつも寝てるんだ」


 不思議な事を言う男の人だな、と思う。そこで、私は彼に膝枕をされていることに気が付いた。私は驚いて身を起こす。男の人はそれを予知していたかのように頭を上げる。


「ここ、何処?」

 

 ふと気になって、私は言った。空は青い。白い雲がゆっくりと流れている。しかし地面は水が張っているのか、空の風景が反射している。


「ウユニ塩湖。有名な絶景スポット」


 男の人が立ち上がりながら言った。彼はずっと目を閉じている。


「でも、私濡れてない」

「夢の中だからね」


 そう言いながら、彼が口元を綻ばせる。目の形が変わらないため、表情が分かりづらいが、どうやら微笑んでいるようだ。


「明晰夢っていうのかな、ここはそんな感じなんだ」

「でも、意識はしっかりしてる」

「夢っていうのは、いつもそんな物じゃない? 夢に出て来る人たちの会話は支離滅裂だけど、一貫しているように聞こえたり、起きてから考えてみると滅茶苦茶な出来事だと思えるのに、夢の中だと何も違和感なく感じたり」


 私も立ち上がる。彼の言う事が本当なら、必要は無いはずなのに、スカートに付いた小石を払う動作をとってしまう。


「僕は、それをコントロールできるんだ」


 彼が指を鳴らすと、私たちから少し離れた位置にビルが生えた。まるでヤシの木の成長を早送りしているみたいなスピードで、地面からニョキっと。


「車も出せる」


 彼がパチンと手を叩けば、彼のすぐ目の前に赤色のスポーツカーが現れる。何も無い空間から、まるで手品の様だった。


「ここは僕の夢の中。僕の夢には、時々誰かが入り込んで来るんだ」

 

 おかしな事を淡々と言う人だ、と私は思ってしまう。でも、夢の中で自由に動き回れるのは、気持ちよさそうだ。


「どうやるの?」


 私が言うと、男の人は私の顔に彼の顔を向ける。目を閉じているから、何処を向いているのか、正確には分からない。


「時間、掛かるよ? 長い時間が」

「いい、貴方も出来るんだし、私にもできるはず」


 彼は、少し悲し気に、小さく笑った。


「僕には、時間がいっぱいあるからね」

「うらやましいな」


 私がそう言うと、彼は弱弱しく頭を左右に振った。


「そんなにいい物じゃない」


 その時、地面や空を揺らすような轟音が鳴り響いた。頭が割れるような音だった。私は耳を塞ぎ、その場に蹲る。


「起きる時間みたいだね」


 男の人が平然と言った。彼は、こんな音も平気なようだ。


「どうしてわかるの?」


 私は声を張り上げる様に言う。

 

 頭が痛い。


「これはアラームだよ。君の世界の出来事だ」

「貴方は? 起きないの?」


 私が言うと、彼は少し悲しげに言う。


「僕は、もう少し眠るよ」

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