【完結】 帝国騎士学校の追放者、異空間で千年鍛えてやりかえす
ファンタスティック小説家
第一部 真実の剣聖
皇帝陛下バンザーイ!
「皇帝陛下バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ! ──」
「「「「「皇帝陛下バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」」」」」
「「「「「皇帝陛下バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」」」」」
「「「「「皇帝陛下バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」」」」」
バンザイ三唱三節。
左手を体側にピチっとあて、右手で天を衝くように勢いよく突きあげる動作だ。
帝国の敬礼である。三回で1セット。3セット必ず訓練前に行う。
俺、アガサ・アルヴェストンは不心得者だ。
なぜなら、この敬礼になんの意味があるのか、常々、疑問をいだいているから。
否、意味があるのはわかる。皇帝陛下への敬意でもって国の結束を高めることだろう。
俺が納得していないのはこの皇帝陛下への信仰と崇拝とやらが、剣術の冴えを高め、最強の剣士にいたるための道だと学校含め、指導教官らに教えられることだ。
俺は最強の剣士を目指している。
そのために、剣術修練学校に入ったのに、ずっとバンザイしてるだけだ。
こんなことがしたくて故郷を出たわけじゃない。
「いいか、貴様たち、私のように『剣気圧』を習得したければ、皇帝陛下へ一心の敬意をもち、朝、昼、晩、必ず皇城へむかってバンザイ三唱三節を行い、日々の恵みに満足し、平和への感謝を皇帝陛下にささげ、両親を大切にし、皇帝陛下を尊び、先祖の墓を綺麗にたもち、国を築いた英霊たちを忘れず、そして、国を守れるつるぎになるべく、剣聖への道を極めるため、ひたすらに剣の道に専念するのだッ!!!!」
「「「「「はいッ!」」」」」
「よろしい! 訓練開始イイ!! まずは外周15周からだッ!!」
指導教官はいつもみたいに怒鳴って俺たちを朝のランニングに送りだす。
帰ってくれば、基礎筋力トレーニング、それからペアを組んで格闘術の型練習、素振り、素振り、素振り、素振り、素振り、最後に皇帝陛下へ「今日も一日精一杯励んで参ります!」と元気に敬礼して朝練終了だ──。
それが、終われば食堂で朝食、そして、午前の授業がはじまる。
今日の午前の授業科目は『帝国剣術』だ。
「この出来損ないのぼんくらどもがああ!! それでは剣気圧は一生あつかえんわ!!!!」
指導教官殿はいつもどおり生徒をぶん殴ってはりたおす。
生徒は「すみません、許してください……!」と泣きながら、赤くなった頬をおさえるばかりだ。
「その点、オラトロスは立派である!! みよ、これぞ皇帝陛下の祝福たる剣気圧だ!!」
指導教官のとなり、体のデカい巨漢生徒が自慢げに胸をはっていた。
彼がオラトロス。体のまわりに青紫色のオーラが漂っている。あれが剣気圧だ。
オラトロスは天才だ。尊敬はできないゴミだが、実力は本物だ。こんなやつに力を与えるなんて、世界の創造者はよほど、理不尽な物語が大好きらしい。
「剣気圧は人類の誇る最大の武器である!! 岩を砕き、怪物の爪を受けなお立ち続ける戦士はみな剣気圧の使い手だ!! 剣気圧なくして怪物には挑めん!! いいか、よく聞け、無能なうじ虫野郎ども!! 剣気圧は、現人神たる皇帝陛下の神威によって生みだされる超常の恩寵だ!! ひたすらに剣を高め、皇帝陛下にすべてをささげる信仰心をもたねば、貴様らは剣気圧をあつかえず、一生、ごく潰しのままだ!! 家畜にも劣るッ! 人生のすべての時間を剣にささげろ!! 無駄な時間を削れ!!! 無駄な時間とは剣以外のすべてのことだ! その点、オラトロスは──」
また、オラトロス談義に花が咲こうとしている。
くだらない、と思って、俺は教官に怒鳴られている生徒のそばで膝を折る。
この学校の教官はみな無能ぞろいだ。
なにが信仰心だ。それで強くなれるなら世話ないっての。
剣は研鑽と才能、それとひとつまみの気づきやキッカケで出来ているんだ。
「あ、アルヴェストンくん……?」
「立てよ。素振りしてた方が有益だと思わないか?」
俺は剣の道を極めたいんだ。最強、無双、至高。
道の先に到達したという『剣聖』にどんな景色が見えているのか知りたい。
「貴様ぁあああああああッッ!!」
指導教官が走りこんできて、顔面を思い切り殴られた。
体がふわっと浮いて数メートルぶっ飛ばされる。
剣気圧によって筋力が強化されているのだ。
クソ痛い。頬の骨が折れていやがる。
「なにをしているッ!!」
「きょ、教官の自己満足説教タイムを、む、無駄な時間として削ろうと思って……」
「本当に度胸だけはいいな、落ちこぼれのアルヴェストン!!!」
革靴の底で顔を踏みつけられる。
「この落ちこぼれのゴミカスめ! 貴様の親も兄弟もみんなクソの肥溜めのような顔をしているんだろうな!」
「そ、そっ、そんなことないですよ……っ、うぐ、ぅ!」
「口答えするな!」
このアガサ・アルヴェストンの最も好きなことは、自分の方が絶対的に立場が上だと思っている奴に否定をつきつけることだ。
「口答え、します、よ。あんたは間違ってる、てね……ッ」
「ッ! 外周100周だッ!!! 貴様のような虫けらの顔などみたくもないッ!」
──しばらく後
俺は20周したあたりで喉が渇いて張りつく不快感に襲われた。
季節は夏。この時期の外周はハッキリいって苦痛以外の何物でもない。
「よおお、アガサく~ん」
オラトロスが休憩所でにこやかに手をあげてくる。
「飲むかい?」
筋骨隆々の腕で、俺の水筒を手渡してきた。
俺は黙って水筒を受け取ろうとする。
水筒はするりとオラトロスの手からすべり落ちた。
「あ、ごめん!」
わざとらしく謝るオラトロス。
だと思ったよ。知ってた。
「んだよ、その目は? お前もしかして怒ってんの? 自分が俺様に怒れる立場とか思っちゃってる?」
「なあ、オラトロス、剣に専念したらどうだ」
「は? お前マジ最近調子乗りすぎじゃね。剣気圧もつかえない落ちこぼれがさ、なんで俺様に助言できんの? 教えてくんね? な?」
オラトロスが詰め寄ってくる。
彼の身長は190cmは下らない。
対して、俺は170cmもない。
加えて、こいつは筋量が凄まじい。
いつも鍛錬場で筋肉を鍛えているだけある。
目の前に立たれると、山のようだった。
「お前なんか恐くない」
俺は威勢よくいって、オラトロスの胸を押して突きかえす。
「たっは~! まじかよ、こいつ」
オラトロスは髪をかきあげ、指を2回鳴らした。
休憩所の影から3人ほど、よく似た顔の男子生徒たちがあらわれる。
柄が悪く、みな嫌らしい笑みをうかべていた。
ジェラール兄弟だ。オラトロスの取り巻きである。
「んじゃ、本日も元気にいってみよっかー」
オラトロスは袖をまくり、拳を握りしめる。
「こいよ。全員ぶちのめしてやる」
俺は殺す気でオラトロスに殴りかかった。
──しばらく後
「じゃあ、あと80周がんばれよ~」
「あばよ、ザコ」
「よえーんだからイキってんじゃねよ、馬鹿がよ」
「まじあいつ頭悪いな、俺らエリートに勝てるとおもってんのか」
俺は熱い石畳みに伏しながら、遠ざかる敵の背に手を伸ばす。
また負けた。全身が痛い、みじめな気分だ。
あの野郎ども、才能があるだけで、好き勝手やりやがって……。
けど、これが俺の日常。
完全実力主義における負け犬の末路だ。
もう……故郷に帰りたい。
俺は誰もいない外周路で独り、静かにすすり泣いた。
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