コワモテの俺が御曹司に愛される話

眠るミイラ

第1話 はちみつレモン


 「すげーな、柔らかくて熱いじゃん。」

佐川はショータのくぼみに指をねじ込んで、腕に力を込めて体の中を擦りあげる。腰を高くあげて伏せているショータは快楽の声を漏らす。一番長く体を重ねた相手だ。

「お前の指、やっぱサイコー…」

すでに準備が整っているショータの尻を、さらに深く奥まで解きほぐす。

「ん…もっと」

佐川は指を離すとショータを仰向かせて、うなじを抱えるとキスをする。ショータの切れ長の大きなつり目が、欲にとろけながらも強気に佐川を上目づかいで誘惑してくる。唇も舌も余すところなく吸い上げて、ショータの艶めかしい首筋に舌を這わせると、佐川はそのままショータの尻を抱えあげた。

「悪い。」

佐川はそう言って、自分の張りつめた屹立をそのままショータに沈みこませた。

「今日、…中に出すから」

「っ、おま…っっア!」

佐川は、ショータの体にぴったりと張り付いてのしかかると、両腕でそれぞれそのひざ裏を押さえつけて思いのままに抽挿する。湧きあがる激しい気持ちをそのままぶつけるかのように、佐川は奥へ、奥へと腰を深く、ショータを突きあげる。

「っあ、そこ、あ、っあっ、いい…」

ショータは佐川の背中に腕をまわしてきつく抱きしめて爪を立てる。張りつめて達してしまいそうなのを堪えて、佐川はしがみ付くショータをそのまま起こして向き合って抱えると、ペースを落として改めてショータを揺さぶるように突き上げて動かす。二人の腹がべとべとに濡れて、喘ぐショータの無防備な首の付け根に佐川は歯を立てる。

「我慢してないで、出せば。」

耳元でショータが囁いて、舌先を耳に入れてくる。

「…っ、クソ!っっ」

佐川もショータも、お互いをこれでもかというくらいに抱きしめあいながら、佐川はより硬さを増した己自身を、無我夢中で極めさせて、熱いショータの体の中で擦りあげる。

「っあっ、俺、イク…!」

ショータは小さく叫びながら、両ももで佐川を締めつけるように体を震わせる。二人のべとべとした腹が、ぬるぬると擦り合わされて、ショータが脱力して果てると佐川は後ろに倒れ込む。そのままショータを上に抱えながら、佐川は己の張りつめた肉を解放させる。

「んっ、俺も、出る」

身を任せるショータを抱きしめ直して自分を深く沈みこませると、そのままショータの中に、ほとばしる快楽を余すところなく注ぎ込んだ。



 「おい、佐川、おい!」

佐川龍平は驚いて顔をあげた。月曜日の午後だ。出張明けで疲れて気が遠くなっていた。

「大丈夫かー?朝出したこの出張の報告書、この画像なんか違うだろ、ちょっと直して。」

課長から書類を戻されて、気持ちを切り替えるために席を離れた。洗面所で顔を洗って鏡を見る。体力には自信があるが、精神的にはしばらく立ち直れない。コワモテのワイルドな風貌に、今日は無精ひげがそのままだ。社内業務だったので気を抜いた。むしろヒゲくらいで済んでよかったという気分だ。ざらざらのヒゲをさわりながら、己の顔を撫でていると、すぐに悲しみがこみ上げる。

「ショータ…」

昨日別れたショータは、10年来といっていいくらいの友人だ。そしてセフレ。

二人の関係は親友でセフレだが、佐川にとっては、ショータは一番大事な人だった。お互い、縛り合うことなく、それぞれ奔放な性を楽しみながらも、若いころはショータのモテっぷりに、さすがの佐川も気をもんだり、内緒で相手を牽制したりするようなこともした。しかし、就職すると、ショータは意外と落ち着いて、週末の遊び相手の座は、佐川がゆるぎなく圧倒的に独占できていたこともあった。

それでも社会に出ることで、ショータはその二面性で捉えどころのなさを持て余してしまい、いくらかそれを加速させたのか、表向きの自分とゲイの自分のギャップを、なにかで帳尻を合わせて、無理やり華やかに過ごしているという綻びを、長い付き合いの佐川はなんとなく感じるようになった。

そのうえ、ショータと同時に就職して、佐川自身も初任地の地元で三年、やっと仕事に慣れて、調子が乗ってきたところで東京に転勤、そして今、春から大阪。と、ずっと一緒にいるであろうと思っていたショータと離れ続けて、見守ることができずに、ついにこの度、失うことになった。

もちろん、友達だ。親友であることは変わりない。ただ、恋人気取りは、もう、できない。



「久しぶりに会って、ずいぶんスッキリしてた。相変わらず、エロカワイくて。」

ヒゲの自分に話しかけた。

いい出会いだったのか。長く付き合っていろいろ知っている佐川と、これまでの積み重ねを引きずるよりも、ショータには新しいものが必要だったのだ。

「俺にはお前が一番で、大好きだったのに…」

女々しい言葉がふいにこぼれ、我に返る。また泣き出してしまいそうだったので、佐川は洗面所を飛び出ると自販機に向かった。大好きなショータは、新しいセフレと、新しい恋人候補に囲まれて、新しい趣味の仲間と楽しく過ごしていて、セフレとしての佐川は、ショータの日常から消えていたのだった。

「くそっ!くそっ!」

佐川はお金も入れずに自販機のボタンを押し続けた。

「でてこない…」

佐川が泣きそうにつぶやくと、ふいに威圧感のある人影に気づいた。

「うわっ!」

驚いて佐川は反対側に逃げようとしたが、そちらは壁だ。

「どうぞ。」

その人影は自販機に500円入れると、佐川が押していたはちみつレモンのボタン(心を温めて治そうとしていた)を押して取り出すと、佐川に手渡した。

「どうも!」

佐川は恥ずかしくて相手の顔もろくに見ず、言い捨てると、逃げるようにその場を離れた。

「…ふっ、なんでアイツ半泣きなの。」

友則は佐川の背中を面白そうに見送って、自分はココアのボタンを押した。



 佐川は、はちみつレモンのおかげで素に戻って、なんとかその月曜日をやり過ごすことができた。しかし、家に帰りたくない。先週末からの研修と出張、さらには地元での失恋を経ての今日、どこにも寄らずに、すぐにでも部屋に帰って引きこもって眠りたい。

が、恐ろしい。単身宿舎の、隣の部屋が三井友則、はちみつレモンの男だ。顔を合わせたくない。

「なんでアイツなんだよ。すげー苦手だし。」

佐川は辺りを見渡して、友則の姿を確認する。部署は違うが、同じフロアだ。座席にいない。佐川は帰る準備万端だ。

「よし、今のうちに帰ろう!」

エレベーターを降りてロビーの端の通用口に向かうと、ソファにいた人影が立ちあがって佐川に近づいてきた。

「一緒に帰るか。」

三井友則だった。

「うわーっ!」

つい佐川は声をあげて後ずさった。避けていた人物が、自分を待っているとは、やはり恐ろしい。

「やだよ!ちょっと今日放っておいてくれねえかな。」

そのまま二人揉み合って外に出ると、佐川は友則を撒くように地下鉄の入り口に消えた。

「なんなんだよ、アイツ。わけわかんねえな。」

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