生きるために仕事をしなさい

シヨゥ

第1話

 高熱でふらふらする。それでも仕事に行かなければ周りが迷惑する。

 風邪薬を栄養ドリンクで流し込み玄関を出た。明らかに世界がゆがんで見える。

「気合いだ。気合い」

 自分に言い聞かせ出勤を開始する。歩くことに全神経を集中させ、どうにか会社の前までやってきた。

 吐きそうだ。それでも頑張らなければ会社員としての名が廃る。

「おはようございます」

 いつもどおり挨拶をして玄関をくぐる。そんなぼくを見るや上司が近寄ってくる。

「ちょっと来なさい」

 ぼくは会議室に引っ張り込まれた。


「正直に話しなさい。今、熱は何度ある?」

 平熱です、と答えようと思ったがその剣幕に、

「38.8度です」

 と正直に答えた。上司はため息をつく。

「タクシー呼んでやるから今すぐ帰って寝なさい」

「しかし、休んでは全体の業務に支障が」

「出ない。いや出させないから安心して寝なさい」

「しかしみんなに申し訳が立ちません」

「体調不良ならみんな納得するから。それに無理してふらふらされているほうが落ち着かないって。しっかり休んで体調を整えるのもうちの社員の仕事だからさ」

「しかし」

 それでも食い下がるぼくに上司はため息をつくと、

「きみがもしうちを辞めたところで会社はビクともしないんだよ」

 そう言い放った。そして、

「もしきみが辞めただけでグラつくなら潰れたほうがマシだ」

 とまで言い切る。

「仕事のために生きるのをやめなさい。生きるために仕事をしなさい。いいね」

 最後にそう優しく諭されてぼくは帰宅することを選んだ。


 それから3日間寝込むことになる。過労と風邪のダブルパンチだった。

 寝込んでいる間、上司の言葉を反芻していた。

『仕事のために生きるのをやめなさい。生きるために仕事をしなさい。』

 なんのために仕事をしているのか。いつのまにか抜け落ちていたことに気づかされる一言だ。

 復帰したらお礼を言うとともに上司に業務について相談しようと思う。

 それはこれからは生きるために仕事をしようと思うからだ

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生きるために仕事をしなさい シヨゥ @Shiyoxu

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