第9話

「泉と奥谷が付き合うんじゃないかなって思ってはいたんだけどさ、告白するの遅すぎない?」

「え、遅すぎないってどういうこと?」

「あのさ、二人がずっとお互いの事を意識してたのってみんな知ってたんだよ。それにさ、あんた達二人は中学でも高校でもベストカップルって言われてたの知らないよね?」

「ベストカップルって言われてたのなんて知らないし、そもそも付き合ってないのにベストカップルっておかしくない?」

「そうよ。おかしいのよ。でも、おかしいのは皆じゃなくてあんた達なのよ。お互いに好き同士なのにどっちからも告白しようとしないし、私が気をきかせて勉強会を開いたりしてたのにさ、なんで高三のこの時期まで付き合おうとしなかったのよ。もっと早くお互いの気持ちを伝えていれば夏休みだって去年のクリスマスだって修学旅行の時だってもっといい思い出が出来たじゃない」

「そう言われたらそうかもしれないけどさ、私は奥谷君が私の事を好きだなんて思ってなかったからさ、告白するための一歩を踏み出すことが出来なかったんだよ。でも、今でも奥谷君が私の事を好きでいてくれるって事が信じられなかったりするんだけどね」

「泉はどうしたら自分に自信を持てるようになるんだろうね。私も自分に自信は無い方だと思うけど、泉のそれってハッキリ言って異常だよ。たぶん、みんなが泉みたいに綺麗だったらもっと自信もって行動してると思うな」

「そう言ってくれるのは嬉しいけどさ、愛莉だって私にはない可愛らしさがあるじゃない。でも、愛莉には素敵なお兄さんが魅力を引き出してくれていたけどさ、私の場合はそういう人が身近にいなかったってのもあるんじゃないかな。私にも愛莉のお兄さんみたいな人が近くにいたら違ったと思うよ」

「確かにさ、私はお兄ちゃんのお陰で色々変わったとは思うよ。でもさ、お兄ちゃんが泉のお兄ちゃんだったとしても泉はお兄ちゃんの用意してくれる服を着ようとはしないと思うな。恥ずかしいとか言って拒否する姿が目に浮かぶよ」

「そうかもしれないけど、私だって可愛く見られたいって気持ちはあるんだよ。お兄さんのお友達が用意してくれた服はどれも大人っぽくて素敵だなって思ったけど、もう少し可愛らしい感じの服も着てみたいなって思ってたりもするかな」

「ふーん、それならさ、次のファッションショーの時は可愛らしい服を用意してもらうようにお願いしとくね。次の時は奥谷にも見てもらいなよ」

「え、奥谷君に見られるのは少し恥ずかしいな。他の人に見られるのも恥ずかしいんだけどさ」

「まあいいわ。それで、これから二人が付き合っていくとして、私達みたいにオープンにするの?」

「私も奥谷君も皆に言ってもいいと思うんだけど、朋花ちゃんは言わない方がいいんじゃないかなって言ってるんだよね。どうしてか聞いても答えてくれないし、わざわざ人に言う事でもないのかな」

「私は今更どっちでもいいと思うんだけど、後輩の中には本気で奥谷の事を好きだって人もいるかもしれないもんね。でもさ、そんな人がいたとしても気にすることは無いんじゃない。演劇部でも奥谷を好きで好きでたまらないって人はいたんじゃない?」

「ああ、何人かいたと思うよ。私と朋花ちゃんでそういう相談をされたんだけど、なぜかみんな大好きな奥谷君と自分は釣り合わないと思うので私が奥谷君と付き合ってくれって言われたもんね。その意味がいまだにわからないけどさ」

「それはさ、奥谷が自分と付き合えないのは辛いけど、他の女と奥谷が付き合うのはもっとつらいって事なんじゃないかな。でも、奥谷が誰かと付き合わないといけないんだったら泉が一番相応しい。相応しいというか、泉じゃない他の女と奥谷が付き合うのは納得がいかない。みたいな感じだと思うよ」

「ええ、どうしてそこで私が選ばれるのかわからないよ」

「あのさ、ハッキリ言ってしまえば、あんた達二人って本当にお似合いなのよ。二人とも見た目が凄く良いし、その上性格も良いじゃない。非の打ちどころのない二人なんだけど、泉って人見知りが激しいんで特定の人以外とは交流が無いでしょ。それに、奥谷もクラスの女子とか演劇部の女子と話している以外は誰かと話している様子もないし、学校以外ではほとんど誰にも目撃されていないのよ。つまり、二人は相手を選ばなければ誰とでも付き合えるポテンシャルを持っているにもかかわらず、誰も相手にしてこなかった。という事は、その二人は交友関係がほぼ壊滅状態と言っても過言ではないのよ」

「褒めてくれているのか貶されているのかわからないけど、それってどういうことなの?」

「そうね、二人はきっと浮気なんてしないんだと思われているわ。むしろ、浮気以前に他の人と遊ぶことすらしないんじゃないかって思われてるのよ。あまりにも狭い交友関係であり、その輪の中にほとんど異性は存在していない。お互いに深く関わりがある私にもちゃんと恋人がいるし、クラスメイトもみんなそれをわかっているのよ。それにさ、泉は気付いてなかったと思うけど、泉の事を好きな男子たちってみんな奥谷と付き合ってくれって思ってるのよ」

「私の事を好きなのに奥谷君と付き合って欲しいってどういうこと?」

「あんたはさ、奥谷以外の男子と会話したことってある?」

「そりゃ、会話位したことはあると思うけど」

「ほとんど会話らしい会話なんてしたことないと思うわよ。だってさ、泉と何か話した男子ってなぜか私のところに報告に来るのよ。いつからそうなったのかわからないけど、中学の時にはその文化が完全に根付いていたのよ。それなのに、高校生活が終わろうとしているこの時期までに私に報告に来たのって二人だけよ。奥谷の友達の瀬口と白岩だけってどういうことなのよ。あんたは他の男子と一切会話してないって事じゃない」

「いや、そんなはずはないと思うけど。映画を見に行った時だって高橋君とお話はしたよ」

「同じ部活のメンバーだからでしょ。クラスメイトよりも関りは深いと思うし、部活でも会話が無いんだったらおかしいなんてもんじゃないわよ」

「よくわからないけど、色々と頑張ってみるよ」

「そうね。せっかく勇気を出して告白したんだし、これからはもっと自分の気持ちに素直になるようにする事ね」

「うん、今までで一番勇気を出せたと思うし、これからは出来るだけ自分のしたいことを言うようにするよ」

「じゃあさ、今年の舞台は去年の奥谷みたいに泉も自分の気持ちをセリフに入れてみたらいいんじゃないかな」

「さすがにそれはちょっと無理かも。でも、セリフには出来なくても思いは込めるから大丈夫だよ」

「そうね。芝居の事はよくわからないけど、あなた達二人がいい関係を築いていければいい演技も出来るようになるんじゃないかな。その為にとは言わないけど、二人で楽しい時間をたくさん過ごせばいいと思うわ」

「それなんだけどさ、私はこれからどんなデートをすればいいのかわからないんだよね。愛莉が良ければなんだけどさ、梓ちゃんも誘ってダブルデートしない?」

「私と梓は別に構わないけど、女子三人の中に男子が奥谷一人ってのは可哀そうな気もするけどな」

「じゃあさ、朋花ちゃんと高橋君も誘ってみようよ」

「なんでその二人なの?」

「だって、あの二人ってお互いに好き同士だもん、付き合うきっかけを作ってあげるものいいと思ってさ」

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